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第7話

 翌日、王都近隣の村の近くの洞窟にオークが棲みついたから、退治のために派兵してほしいという要請が、王都へと届いた。

 俺は最初の実戦として、この任務に投入されることになった。


「ユーディリア姫より、勇者様の目付け役を委任されました、ウェンディと申します」


 厩の前で恭しく礼をしてきたのは、二十代中頃ほどの女性魔術師だった。

 ユーディリアが、自分が一緒に行けない代わりに案内役として1人付けると言っていたけど、どうやらこの人のようだ。


 しかし、年上っぽい人から勇者様扱いで尊敬語とか使われると、すごくむず痒いというか、所在ない気分になってくる。

 でも、俺がその事を言って普通にしてほしいと言ったら、


「あ……えっと……でも、勇者様ですので……」


 と、彼女は逆に困ってしまったようだった。

 なので、しょうがないので、彼女がやりやすいようにやってもらうことにした。


 さて、それよりも問題なのは、本題のオーク討伐である。


 オークというのは、この世界で最もポピュラーな、亜人種タイプのモンスターの一種とのこと。

 豚と人間を掛け合わせたような外見の、ファンタジー作品とかでよく見るアレのようだ。


 ちなみに、俺が元いた世界の創作でそういうモンスターがいたのは何故なんだろうという話をユーディリアにしたら、おそらくはこっちの世界との親和性が高い者などは、こっちの世界の情報を寝ている時に見る夢などで部分的に受け取っている可能性があるんじゃないかとか何とか、そんな話をされた。

 それ以上になると正直、理解できる気がしなかったので、深く突っ込むのはやめにしておいた。


 それはそれとして、この世界のオークである。


 この世界のオークは──もちろん、能力の性質が違うため単純比較ができるものではなく、非常にざっくりとした見方なのだが──1体あたりの戦力では、“魔の国”の一般的な魔術師1人と互角程度と目されている。

 ただオークは、一般に群れる性質があり、1体を見掛けたら、その近くに10体以上はいると見るべきという、台所によく出るアレのような感じなのだそうだ。


 そんなわけだから、今回の洞窟に棲みついたオークも、おそらくは10~20体程度の存在が見込まれるという。

 通常、これの討伐には1個小隊──すなわち50人程度の魔術師で編成される部隊が投入されるらしいのだが。

 ユーディリアの見立てでは、


「勇者様1人で、戦力的には全然問題ないと思うよ。逆に、下手に大人数を動員したほうが、被害が発生する危険性が高くなると思う」


 ということだったので、俺1人に、ユーディリアが信頼するお供1人を加えた編成で、オーク討伐を実行する至りとなったのである。


 もちろん、戦闘そのものが初めてのビギナー勇者としては、本当に大丈夫なのかと不安には思うのだけど。

 ユーディリアの言うところの「被害」というのが、人の命を意味するものだと思えば、そんなぬるいことを言おうという気にもならない。


 俺ひとりでやるのが最善の結果を出せる方法であるなら、やってみせるまでだと思った。




 そんなわけで、例によってウェンディの後ろにギュッとしがみついて、馬でぱからっぱからっと件の洞窟まで走る。


 ……いや、乗馬の練習も昨日の夜から始めたんだけど、何せ昨日の今日だから、自分だとまだ歩かせるのが精一杯で、走らせられないのだ。


 そうして洞窟の前まで辿り着くと、ウェンディは馬を繋ぐ場所を探し、そこに係留する。

 その間に俺は、初級魔法の中で最初に覚えた“灯り(ライト)”の呪文を使って、手に持った杖の先に明かりを灯す。

 この魔法は、物体の一部を電球のように光らせるもので、なかなかに便利だ。


 ちなみに杖は、1メートルちょいぐらい長さの、樫の木で作られたもの。

 これは魔法を使う際の補助具で、なくても魔法を使えないわけじゃないが、これがないと魔法の威力が落ちたり、俺みたいな素人だと魔法の発動そのものがうまくいかなかったりするので、結構大事なアイテムだ。


 俺は“灯り(ライト)”のかかった杖を松明たいまつのようにかざしながら、恐る恐る、洞窟の中へと足を踏み入れる。

 その後ろから、ウェンディがついてくる。


 洞窟の壁面は、しっとりと湿り気を帯びた土壁のように見える。

 通路は、杖を持った腕をいっぱいまで伸ばすと、天井や横の壁に杖がぶつかってしまう程度の高さと道幅をもっていて、先に進むにつれてそれが広くなったり狭くなったり、あるいは左右や上下に緩やかに曲がりくねったりしていた。


 そしてしばらく進むと、特に広まった大広間に出た。

 その広間を“灯り(ライト)”の明かりで照らすと、奥の方に、5つの太った人型の生き物が映し出された。


 それらは、豚と人間を掛け合わせたような外見の生き物だった。

 あるいは、腹の出た小太り中年の、顔を豚にすげ替えたような生き物とでも言おうか。

 全身いかにも不潔そうで、牙のはみ出した口からは、だらだらと唾液が垂れ流されていて、大変に汚らしい。


 その生き物たちは、俺たちに気付くと、棍棒状の粗末な武器を振り上げ、フゴフゴ言いながらこちらに向かってきた。


「オークです!」


 背後にいるウェンディが、俺に向けて警告を飛ばす。

 まあ、そうだろうね。

 俺はすぐさま、杖を掲げて呪文の詠唱を始める。


 オークたちが俺の元に辿り着くよりも早く、俺の最初の呪文が完成した。


「──エネルギーボルト!」


 俺の掛け声とともに、掲げた杖の先にプラーナを凝縮したエネルギーの塊が生まれ、それがすぐさま発射された。


 そのエネルギー塊は、向かってくるオークのうちの先頭の1体に着弾し、破裂。

 そのオークのふくよかなどてっ腹に、大きな風穴を開けた。

 当然、そんな致命傷を受けたオークは、そのまま崩れ落ちて動かなくなる。


 向かってきていた残りの4体のオークたちは、その仲間の惨状を見て、脚を止めて怯んだ。

 だけど、その躊躇いが命取りだ。


 その間に、俺の2発目の“光弾エネルギーボルト”が発動し、別のオークの頭部を半分吹き飛ばした。

 うん、グロい。

 お食事中の皆さんごめんなさい。


 で、さすがにそうなると、残りのオークたちは、怯んでいる場合じゃないと気付いたようだ。

 フゴフゴと鼻息を荒くしながら、武器を振り上げて俺に迫ってくる。


 ──ただ、不思議と恐怖は、湧かなかった。

 何となく、ああ、あれは大丈夫だなぁと思いながら、無視して次の呪文詠唱を行なう。


 3体のオークの棍棒が、俺の頭部や肩口めがけて、次々と振り下ろされる。

 俺はそれを、避けようとも思わず、ただ、くらった。


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