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第6話

 さて、そうは言ったものの。

 逆に、気持ちだけで物事がどうこうなるものでもない。

 何かを為そうとするなら、どうしたって『力』は必要だ。


 そういう話をしたら、ユーディリアは自分の本棚を漁り、そこから1冊の分厚い本を取り出してきた。


「はい、これ。ボクが使ってた初級魔術の呪文書」


 ユーディリアが手渡してきたその重厚な書物は、ぺらぺらとめくってみると、各ページに細かい手書きの文字がみっちりと書き込まれていた。

 例によってその文字は何故か普通に読める文字なのだが、その分量は、仮にライトノベルで換算すると、軽く十冊分以上にはなりそうな膨大なものだ。


「この初級魔術をマスターするだけでも、普通の人は何十年か掛かるけど──引っ掛かるのはほとんどが体内プラーナ鍛練の部分だから、勇者様なら1~2ヶ月もあればマスターできると思うよ」


 というのは、ユーディリアの見立てなのだが。


 初級をマスターするだけでも、1~2ヶ月かぁ……。

 これを長いと思ってしまうのは贅沢なんだろうけど、今すぐに戦う力が欲しい身としては、厳しい現実ではある。


 そして思ったのだけど、勇者っていうと、魔法も使えるけど、まずは剣で戦うというイメージがある。

 魔法よりも剣を先に教わった方がいいんじゃないだろうか。


 そう思って、魔術師筆頭のユーディリアには悪いが、まずは剣の扱い方を教わりたいとユーディリアに伝えてみると、彼女からはちょっと予想外の答えが返ってきた。


「剣って、“武の国”なんかで使っている、武器とかいう道具の一種だよね?」


 この返答には、俺の方が混乱することになった。


 話を聞いてみると、どうやらこの“魔の国”では、敵を攻撃するために武器を使うという文化がないらしい。

 だから軍の兵も全員、魔術師なのだという。


 一方、隣国である“武の国”では、武器と呼ばれる様々な道具を使って敵を攻撃する戦法が一般的なんだとか。

 ユーディリアは、それは知識としては知っているけど、実際に見たことはないということだった。


 いずれにせよ、この“魔の国”で剣の扱い方を学ぶのは無理そうだ。

 仕方ない、まずは魔法を身に付けるところから始めよう。


「それじゃあボク、勇者様用に部屋を用意するよう言ってくるから。準備ができるまでこの部屋で勉強してて」


 ユーディリアはそう言って、部屋を出て行った。


「よし──じゃあ、やるか」


 ひとりユーディリアの部屋に残された俺は、渡された魔術書を開き、魔法の勉強を始める。

 インドア派ニートだった俺にとって、読書や勉強は苦手なものでもない。


 案外、魔法から入るのは、俺に向いているのかもしれなかった。




 それから、俺の猛勉強の日々が始まった。

 俺は寝食以外のほぼすべての時間を、魔術書と睨めっこして過ごすことになったのである。


 これはもちろん、1日でも早く戦う力を身に付けなければならないと思っていたこともあるが。

 その一方で、魔法の勉強がとても楽しく、没頭できるものであったことも大きかった。

 勇者としての素質のお陰で、勉強するほどに力が付いてゆく実感があって、そのことが俺を魔法の勉強へとのめり込ませたのである。


 また、プラーナの取り扱い方の基礎から記されたその魔術書は、魔法以外のさまざまな能力を身に付けるのにも役に立った。


 例えば、初対面のときにユーディリアやトーマス中隊長が俺に対してやっていた、プラーナ量の観測。

 あれは、相手のプラーナを「見る」ように意識し、1秒間ほど凝視することで、その相手の内包プラーナ量を漠然と「見る」ことのできる技術である。

 それはもちろん、数字で表示されるわけじゃないが、相手の体が纏う光の強さとして観測できるのである。




 そんなこんなで俺は、3日が経った頃には、最初級の攻撃魔法“光弾エネルギーボルト”を扱えるまでになっていた。

 魔法の訓練場で、10メートル先に置かれた岩に“光弾エネルギーボルト”を見事に着弾させ、その岩をバラバラに砕いてみせた俺に、ユーディリアが拍手を送ってくる。


「凄いね、予想以上だよ。これなら初級魔術をマスターするのに、1ヶ月どころか、2週間もかからないかも……。それに、“光弾エネルギーボルト”の威力も、ちょっと尋常じゃないよ。ボクでもここまでの威力は出せない──まあ当たり前といえば当たり前なんだけど」


 ユーディリアの話によると、魔法の威力は、同じ魔法でも使い手によって差が出るもので、それはプラーナの内包量に比例して上がるものらしい。

 つまり、俺の使う“光弾エネルギーボルト”は、初級の魔法なのにとんでもない威力を持つ、という状態だということ。

 なんだか、勇者なのに大魔王っぽいな。


「これなら、すぐにでも実戦に出られるよ。……どうする? 次の救援要請があったときに、出撃してみる? ボクは緊急時対応のために王都で待機しないといけないから、よっぽどの相手じゃないと一緒には行けないけど」


 そう、ユーディリアが聞いてくる。


 ふむ……実戦は間違いなく経験しておくべきだと思うんだが、ユーディリアが引率するのは難しいと……。


 はっきり言って、不安ではある。

 だけど、不安だからやりませんというのでは、今後何も為せなくなる気がする。


 勇者は、勇気ある者と書くのだからなんて思いつつ。

 俺はユーディリアに、自身の実戦投入を要求したのだった。


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