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『彼女に名前を付けたりしちゃったなう。』

☆4


「いやあ、誠ちゃん派手にやってたねー。

 でもねぇ。

 仕事はスマートにやんないとねー」


 操縦席でテリーちゃんが俺にダメだししてくる……あ、テリーちゃんっていうのは白人のおっさんで、伯父の仕事仲間。伯父がちゃん付けで呼んでるからそれに倣ってる。



 赤毛の剛毛で顔がちょっと強面だけど、陽気でけっこう優しい。

 国籍はオーストラリア人。

 ……あれ、オーストリアだったかな?

 イギリスだったけ……、

 あー、オランダの様な気もしてきた。

 ま、まあ、とにかくそこらへん出身。

 ――見知った仲だからこそいまさら聞けない事って、割とあるよね? ね?

「ん、まあ。

 仕事にアドリブは付き物だよねー?

 ははー」

 そういって鼻歌を歌いながら、テリーちゃんは操縦桿を操作する。



「なによ、小型ジェットがあるなら

 最初から呼べばよかったのに」

 隣の座席で彼女がそう呟いた。


 俺達三人が今のっているのは小型旅客機を改造したテリーちゃんの愛機。


 内装だけ見ると

 小型バスみたいなもんかな。

 エアバスとは良く言ったもんだ。

 後部座席に俺と彼女が並んで座っていた。

 乗員はこの三名だけだ。



 この機体は俺がさっき使ってた光学迷彩からなにやら、いろんなステルス機能を満載した凄い奴で、パスポート無しで外国から脱出するのにはこいつが不可欠なんだ。

 ……ちなみに来るときは伯父さんに日本から放り投げられて太平洋を縦断したって言ったら、みんな信じる?



「だって、地対空ミサイルとか

 いっぱいあったじゃんあの施設。

 いくらステルス機だからって、

 危なくて呼べなかったんだよ」

「私が無効化したじゃない」

「そんなこと出来るって知らなかったし。

 それに、気絶してたろ」

「起きた後逃げるチャンスはあったわよ」

「……あのなあ、あのまんまモデルマンを倒さずに逃げれるかよ」

「え。なんで?」



 うー。くそ。

 人の心は読めるくせに、鈍感だなぁ!

「なんでもねぇよ」

「んー?

 ところでテリーちゃんはねぇ、

 さっきから疑問なんだけどさー。

 そこの子、誠ちゃんのなんなのさ?」



「何って……あー」



 彼女と眼が合う。

「……ターゲット。

 ほら、例のバイオ兵器」

「ふぅん。

 私、結局〝積み荷〟なんだ」

 彼女はむっとした表情で、

「――あんな大声で

 好きだーって言ったくせに」

「ちょ、おま……っ!」


 ひゅ~♪


 っとテリーちゃんの口笛が響く。

 が、それ以上無闇に囃したてたりはしなかった。……ここが子供との差異かな。


「いいのよ、別に。

 私どうせ兵器だから」


 全然良くなさそうに、

 ツンデレバイオ兵器が言う。

「煮るなり焼くなり

 売るなりすればいいじゃない」

「そんなこと言ってないだろ」

「言ってないだけじゃない」

「言ってないから言ってないんだよ」

「なによそれ。意味わかんないし」


 美少女兵器はつんっとそっぽをむくと、


「さっきの『好きだー』も、

 私がアンタ好みに擬態しただけだし。

 どうせアンタにとって、

 その程度の軽い話なんでしょ?」



 むっかー。



 ちょっと、怒っていいよねこれ!

 図星っぽい気もしなくもないけど、

 怒っていいよねこれ!

 今俺の双肩には日本全国、いや高等学校採用している宇宙中の男子高校生のプライドが託されているような気もしなくもなくもないッ!(感じるぞぉ、みんなの声援を!)


 こうなったら、僕、切り札使っちゃう!


 座っているあいつの目の前に立ち、

 高らかにこう言ってやったんだ!

「ところで約束のご褒美、

 まだもらってないぞ!」

「アンタそれ、

 反撃のつもりで言ってるなら最悪よ?」

 はい看破ー。

 宇宙の友達に二つ謝る事がある。

 簡単に負けちゃってごめん。

 あと勝手に代表になってごめん。

 ついでに生まれてきてごめんなさい。




「……でも、ま。約束は約束だから」

 彼女は自分の胸に手をやると、



「私の名前をつけさせてあげるわ」





「え?」

「『え?』……ってなによ」



 いや、うん。

 たぶん聞き違いだ。


 あんな怪物に立ち向かった報酬が、

 そんな実の無い行為なわけがない。

 きっとこのゲームは重要な選択肢で「いいえ」を選び続けると疑似ループに突入する仕様なんだ。だが根気強く「いいえ」を選び続ければ、規定回数超過後に新たな選択肢が発生するに違いない。

 攻略本発売前にそのカラクリを暴くぞ!


 かつてのファミコン戦士達の苦労を偲びながら、俺は果敢にチャレンジする。


「え?」

「……だから、『え?』ってなによ」

「え? え?」

「『私に名前をつけさせてあげる』

 ……それがご褒美よ」

「っ……はああああああああ!?」



 なにこの子! なに言ってんのこの子!

 そんなのゲーム開始時かパーティー合流時のイベントじゃん!

 もっとこう……あるだろ、女子が男子を焚きつけるに足る報酬が!

 具体的にはRのあとに二桁ほどの数字が付いたり、XXXトリプルエックスクラスのなんか俺も正直半分意味わからずに言っちゃってるけどそういうのが!


 なにこのクソゲー!

 もうちょっと夢見させろよ!

 峰不二子でもこの仕打ちはねーよ!


「なによ、その顔!

 私に名前付けるのが不満だっていうの!?

 文句言わずに、

 ありがたく命名しなさいよ!」


「タイガージェット・シン」


「はぁ、なにそれ!

 タイガーなのジェットなの神なの!?」

「タイガージェット・シン馬鹿にすんな。

 アントニオに認められた

 超かっこいい悪役レスラーだぜ」



「なんで私の名前が

 悪役レスラーの名前なのよおおおッ!!」



 うわ、馬鹿、こいつ酸素ボンベをサイコキネシスで投げてきやがった!

 間一髪でそれをキャッチし、安置する。



「あぶねーだろ!

 飛行機壊れたらどうすんだよ!」

「アンタが真面目に

 やんないからでしょ!」

「お前それがご褒美ってあんまり、

 ……おうわっ!」


 いきなりガクッと機体が傾き、

 俺はつんのめって、

 彼女の胸元に抱きついちまった。


「んー、ごめーん」

 っとテリーちゃんは口笛を吹き、

「乱気流」

 ……ぜってーわざとだ。



「……」

「……」



 妙な沈黙。

 ヤバい、柔らかい。

 彼女の心臓のリズムが……心地いい。

 うわ、どうしよ。

 やっぱり、俺、こいつの事……、



「ど……どきなさいよ」

「お、おう」

「変態」

「不可抗力だろ」


 俺はおずおずとその場を離れる。

 名残惜しいのは内緒にしたいけど、

 たぶんバレてる。

 いや、接触テレパシーとかじゃなくて、

 ……空気で。

 俺は大人しく席に着き、

 二人してふぅっとため息をついた。

「……」

「……」

 また沈黙。

 だって、

〝ごめん〟って謝るのもなんか違うし。

 向こうも謝んないだろうなー。

 なにせツンデレさんだ。



「ねぇ」



 そんな感じに意地を張ってると、

 なんと彼女から先制してきやがった。

「〝サラ・アルテミス〟って名前、

 悪くはないわ」

「なんだよ。読んだのかよ」

 実はついさっき、名前をつけろと言われてふっと思いついたんだ。



「……うっかり」

「うっかりってお前」

「不可抗力だもん」

 おあいこってか、こいつ。

「ね。

 アルテミスってギリシャ神話で

 月の女神の名前よね。

 どうして?」

「あー……」




 キスした後の、月を背景にしたキミの姿が忘れられないとか。

 まるで女神みたいだったとか。

 今でも思い出すと心臓が跳ね上がるとか。



 ……イタ過ぎて言えるわけないでしょ。

「別に。

 テキサスの月がきれいだったから」

「へぇ。サラは?」

 あー、こっちはわりと返答に困らない。

「〝まっさら〟のサラ。

 会った時、名前貰ってなかったから」


「まっさらって、

 あんたどこに目を付けてんのよ」


 また何が気に食わないのかムッとして、

「私はとっくにあんたで……」

 そう言いかけて、

 ツンデレ兵器は言葉を濁し、

「もういい。バーカ」

 なんのこっちゃ。

「気に食わないなら別のにしろよ」

「あんたへのご褒美なんだから、

 しょうがないから貰ってあげるわ」


 日本語変だよばーかばーか。


「私、疲れたからもう寝るわ」

 そう言って彼女は毛布を纏った。




「……おやすみなさい、誠」

「あー。おやすみ。……サラ」



 自分でつけた名前で女の子を呼ぶって、

 なんかくすぐったい。

 でもま……ちょっとドキドキしたりして、悪くないご褒美な気もしてきた。

 うわ、

 俺まるで変態みたいじゃないですかー。

 ヤダー。

 …………。

 これ以上馬鹿な事思いつく前に、

 俺も寝よう。






 その前につぶやいとこっと。

『彼女に名前を付けたりしちゃったなう。』

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