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『ツンデレ美少女にうっかり告白してしまったなう。』

☆3


 逃げるときはやたら追い付いてきたのに、いざ迎え撃つとなると結構遅え。

 これ、マーフィーの法則に載せられない?


 マーフィーはお前の不都合な真実日記帳じゃねぇよとかセルフでツッコミを入れつつ、俺はテキサスの大地に腰をおろしていた。

 その目の前ではツンデレ兵器が地面に平手を置き、ぶつぶつとなんか呟いている。

 あのポーズは見覚えがあるぞ。

 おそらく、錬成陣が発生して土くれを鉄槍にでもしてくれる儀式なんだ。

 錬金術も使えるのか美少女兵器。

 期待してるぞ美少女兵器。



「うん、……でーきたっ!」



 彼女は立ち上がり、手をパンパンと叩いて満足そうに言った。

 なんだ、鉄の槍まだ出来てないじゃん。

 ちゃんと仕事しろ美少女兵器。

 だが達成感に微笑む顔で俺の懐中にあった 暗黒物質(ダーク・マター)は掻き消えた。

 やっと笑った。

 超可愛い。

 よし、許す。


「なによ。

 人の顔見てニヤニヤしないでよね。

 気持ち悪い」



 渇望していた君の笑顔が想像していたより遥かに可憐過ぎるからいけないんだ、罪深い子猫ちゃんめ、お仕置きしちゃうぞ!



 ……とかそんな感じに自分でもドン引きなセリフを咽喉の彼方へ仕舞い込み、

「なにしたの?

 アウトレンジであいつをやっつけた?」

「そんな都合よくいくわけ無いじゃない。

 ばっかじゃないの?」



 ですよねー。



「この施設の兵器や機材のほとんどをハッキングして封印したの」

 と、ツンデレがふふーんっと胸を張る。

 あれ、しっかり仕事してるわー。


(↑……とまあこのときはこう思ったが、これはあとで聞いた話、彼女は自分をデフォルメしたキャラに施設の全ディスプレイであっかんべーをさせるという非常にお茶目なイタズラに時間をかけていたらしい。アホかと)



「これで、あとはあの怪物を撃退すれば脱出できるはずよ」

 そこまでしてくれたんなら俺があらかじめ用意していた脱出ルートでどうにかなりそうな気がしたが、黙っといた。

 理由は自分でもわからん。



「やれるわよね?

 ううん、やってもらわないと困るわ!」

「どうだろうね」

 そういうと、彼女は眉を八の字にして、

「――ちょっと! 冗談じゃないわよ!」

 と怒鳴った。

 生き死にがかかってる時にこんな気のない返事をされれば、そりゃあ怒るだろうさ。



 でも、だってさぁ――いや、勝ち目が無いわけじゃないよ。ぶっちゃけ、正面衝突なら倒せない相手じゃないだろうし。



 たださっきあたおた逃げちまった手前、

「おう、まかせんしゃい!」

 って感じに胸を叩く事ができない。

 ちょっと自信喪失ってとこ。



「あんたね――……、」

 ――グエェェェェ、ハーハハハハッ!!

 なおも納得いかない調子のツンデレを遮って、気味の悪い笑い声が辺りに響いた。

 あーもー、世の中でこんな感じに笑う奴はあの怪物ぐらいなもんなんだろうなぁ……。

 うんざりしながらみると、白い肉塊が、なにが嬉しいんだかゲラゲラ笑いながらこっちにずんどこ走ってきやがる。



「来たわよ。

 やるの、やらないの?」

「やるやる。予定通りに」

 しっくりこない俺の反応に、

 彼女はあさってを向いて、



〝期待外れだわ、ったく〟



 ――って言ったよなぁ。今、小声で。

 ……いや言ってないかもしんないけど、なんか言ったし、疑心暗鬼でそんな感じに聞こえちゃったよ。



 あーあ。

 あー

 アー

 A~

 嗚呼。



 女の子に言われたくないワードベスト5に入る一言だわ。

「いいわ。

 あいつに勝ったら、ご褒美をあげる」

「ご褒美?

  ……なにそれ」

「秘密。でも期待していいと思うわ」

 彼女は自分の胸に手をやり、



「私はあんたの〝理想のヒロイン〟よ」



 メタな発言っぽいけど、実際そうなんだからしょうがない。

「んー。俄然やる気がでましたー」

 俺は立ち上がって軽くストレッチをする。

 あくまで気の無い素振りで。



 ――だってホントにやる気満々になっちゃったとかバレたら、恥ずかしいじゃん?

 わかってるよ。こいつ、自分の特性利用して上手に焚きつけてるだけだよ。



 でもね、まあ、あれですよ。

 あー、なんだ。

 やっぱりさっきのキスの影響はでかいと思うんです。たとえそれがなんかの作業の一環でしかなかったとしても、だ。



「もう!

 ホントに大丈夫なんでしょうね!?」

 女の子が怒鳴る。こっちの気持ちも知らずにいい気なもんだ。

 ちょっとムッときちゃうよね。

「わかったから、ちょっと静かに」

「馬鹿、後ろッ!」



 ドッシーンッ!!



 あっぶねぇ……ッ!

 一瞬女の子に向いたその隙に、あの野郎上から降ってきやがった!

 俺はとっさに彼女を抱え、ジャンプする。


「ウィィィィィィィッ! ハァァァ!」



 うげぇ、モデルマンのマッチョボディがゴムみたいに捻じれてやがる!

 滞空中の俺を見つめ、

 ――というか狙いを定めて、

「肉弾ミサイルでショータイムだぜェ!!

 ウィーーーーーーーーーーッ!

 ハァァァァァァァァァッ!!」

 ギュルルルルルルルルゥ!!

 っと錐揉みしながら飛んできやがった!!

 一体どんな構造してんだあいつ!!


 いかん、あのデカさ、

 自由落下じゃ巻き込まれる!



「〝落下して〟ッ!」



 とっさに女の子が唱え、万有引力以外の何かで俺達は地上に吸い込まれた。

 頭上を肉弾が霞めてひやっとしたが、

 間一髪で回避成功。

 一方の奴はアーチを描くようにしてあさっての方に飛んでいき、轟音を立てながら地面を穿った。



 ち、ちきしょー……。

 何しでかすかわかんねぇからヤバい。

 けどこれ以上、逃げるわけにいかない。



「やるだけやってみる。

 ここで待っててくれ」



 そう言うと女の子を残し、俺は走った。

 モデルマンのやつはゲラゲラ笑いながら俺を迎え撃つ構えだ。

 笑ってられるのも今のうちだ!

 核ミサイルパンチを受けてみやがれ。

 ランニングペースと呼吸を整え……、

 いち、にーの……っ!



 俺は跳躍、体を捻り始めたモデルマンのどでかい顔面に――、





〝期待外れだわ〟





 あ……、やっべ……っ。


 パンチは確かに入った。


 だけどインパクトの瞬間、

 雑念が走って脈が乱れちまった!



 パンチを食らったモデルマンの頭が地球儀みたいにグルグル回る。そしてちょうど百八十度回転した位置で止まった。


 あの薄気味悪い笑みが後頭部になっちまったんだ。

 で、ベコって眼が二つ出て来た。


「……」

「……」


 落下中の俺と眼が合う。

 そんで、後頭部でこう叫んだ。

「顔は覚えたああああああああああッ!!」

「うわあああああああああああああッ!?」

 あの白いボディが、

 真っ黒に、真っ黒に変色しやがったッ!

 怒ってんの!?

 怒ってんのこいつ!?



「ふんぬううううううああああああッ!!」



 剛腕にぶん殴られ、俺は彼女の元にまで一気に吹っ飛ばされる。


「もういい! 全然アテになんないっ!」


 女の子に言われたくないワードベスト3に入る一言を突き付けて、美少女兵器は地面に手を置く。するとあちらこちらからミサイルやらガトリング砲やらが飛び出し、モデルマンの迎撃を始めた。

 ……まあこんなもんで止まるくらいなら初めから世話が無いわけで、黒い肉塊はものともせずにズンドコこちらにやってくる。




 しばらく砲撃が続いたが、やがて彼女が手を外したため、急に止んだ。



「……もうダメよ……」



 言ってほしくないどころか、言わしちゃいけないワードナンバー1だろ、それ。


「アンタの核シェルターを打ち抜くあのパンチなら、あいつを倒せると思ったのにっ」



 あーもーっ!


 何やってんだよ俺っ!!

 ビビりまくったり、

 逃げまくったり、女の子泣かせたり!!

 情けねぇッ!!



 俺は再び走った。

 走るしかないだろ!?

 向かってくる俺を

 モデルマンはじっと見ていた。

 その眼球からヒュンッと怪光線が発して、

 俺の進行を阻む。



「〝光学迷彩アプリ〟ッ!」



 俺は姿を消した。

 稼働時間はほとんどない……、



 ――次こそ一発で決めるッ!



「どぉおおおおおおぉぉぉぉぉこ、

 いったああああああああっ!?」


 怪物が吼える。俺を見失ったモデルマンが初めてうろたえる。


「ウィィィハァァァァァ!」

 ベキベキベキベキッ!

 モデルマンの顔中に大量の目玉が出現し、

 あっちこっち砲撃を始めやがった!

「どおおぉおだああぁああ!

 こええええだろぉおおお!?

 てめえに俺が倒せるのかよォ!?

 ぼうやあああああッ!?」


 確かにお前はめちゃくちゃ怖いよ。


 でもな。


 こう見えて俺は

 ごくごく普通の男子高校生なんだ。


 思春期真っ盛りなんだよ。

 女の子のご褒美にこっそり期待しちゃう

 そんなメンタリティなんだよ。

 女の子の涙を見て、

 本気出しちゃうお年頃なんだよ。


 だから、なにかっていうと、つまり――、

 恥ずかしげも無く言うとだなッ!







「俺はッ! 男子高校生なんですよッ!

 好きな女の子の前でカッコつけるのが、

 お仕事みたいなもんなんですよッ!!」






 もうビビってる俺はいない。

 あの子の前でダサイカッコできるか!

 あいつにガチンコお見舞いしてやるッ!!


 意気を拳に溜め込み、跳躍。

 渾身のアッパーを相手の顎にぶち込む。

 直撃したモデルマンは粘土みたいにぐにゃっと曲がった。



「ふぎゃふぎゃ、

 ……ぶぎやああああああああああッ!!」

 断末魔をあげて、モデルマンは空の彼方にぶっ飛んだ。



 俺は勝ったんだ!



「いいいよっしゃああああああああっ!!」

 ガッツポーズで俺は地上に降りた。

「ご褒美だあああああああああああッ!」

「死ねッ!」



 どっしーん。



 あれあれあれー、おっかしいなあー。

 僕なんで岩石の下敷きになってんの?


「なにベラベラ恥ずかしい事叫んでんのよ、

 この変態ッ!」

「え、なんのこと……あー……」

 あっれ、俺、今。



 ……もしかしてうっかり愛の告白とかしちゃったりしてた?



「ば……馬ッッッ鹿じゃないの!?

 そりゃああんたにとっちゃ今の私は理想のヒロイン像でしょうけど!

 あ、あんな大声で叫んだりしちゃってこのバカッ!! 超変態ッ!!」

 罵倒される度に俺の上にドスドスと岩石が増えていく。これはこのまま化石になれるかもしれないな。


 みなさん一億四千万年後に会いましょう。





 ……っと、その前につぶやいとこっと。

『ツンデレ美少女に

 うっかり告白してしまったなう。』

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