『美少女兵器がツンデレ美少女にあっぷぐれーどなう。』
※改行等々修正しました。
☆2
さっきのつぶやきが
『生物兵器の美少女起床なう。』
から間髪いれずに
『美少女に襲撃されてるヘルプなう。』
になった頃、俺は超ピンチだった。
『襲撃って隠語にしか見えない。』
『はいきた自慢入りましたよこれ。
爆発しろ!』
『うp! うp! ウプレカス!』
なんてレスで埋め尽くされていく俺のスマホに頭痛を覚えながら、飛んできたカプセルを避ける。回避したカプセルはぐわしゃーんっとかいって壁に激突、粉々に散った。
で、ここからがびっくりなんだけど、
その残骸、
なんか空中に舞っているんだよね。
これってサイコキネシスとかそういう類のいわゆる超能力ってこと?
「位置確認、距離修正、回避予測加算……」
カプセルがあった場所に立って、
女の子がなんかぶつぶつ呟いてる。
あーあ、あんな陰気くさい顔しちゃって
せっかく可愛い顔してるんだから、
笑顔の一つも見せて欲しい。
「なに、俺がなんかしたの!?
このピチピチタイツが気に障った!?
確かに女子の前でこれはないけどさぁ!
俺だってかわいこちゃんが居るって
事前に知ってたら……、」
「迎撃開始」
彼女が指をちょんっと動かすと、バラバラの残骸が帯電、俺に向かってヒュンヒュン飛んでくる。
せめてかわいこちゃんって死語につっこむくらいのサービスしてくれてもいいと思うんだけど、そこんとこみんなどう思う?
てか、こういうことできるってことは、
十中八九エスパーだよね?
まあ違っても、
世間一般的にエスパーって事でいいでしょもう。モビルスーツをざっくり言ってロボットって呼んじゃうようなもんでしょ?
俺はちょっと感激していた。宇宙人には会ったことあるけど、超能力者は初めてだ。
「ねえ、
エスパーと会うのは初めてなんだ!
そこで提案なんだけど、
親睦を深め合う意味合いをもって
今度お茶でもいかがっすか?」
「目標再補足、再攻撃開始」
あーあ。フラれちゃった。
あと気付いたんだけど、内壁の頑丈さから言ってこの部屋はたぶん、女の子に演習をさせるための実験室だ。あの子が兵器ってことは間違いないみたいだ。
そうこうナンパを交えながら、
よっ、と、せっ!
……バク転して残骸の弾を避ける。
「身体能力が予測を超過……、
データを更新……」
「ごめんねぇ、強くってさぁ!」
「思考は至って単純……、
評価レベルを低下……」
「……いやふつーに傷つくわー」
残骸は無くならないし、
お互いイタチごっこで埒が明かない。
さてどうしたもんかと悩んでいる最中に、耳障りな警報が鳴り響いた。俺が入ってきたダクトから、ぶわっと黄色い煙が部屋に吹き込む。
――催眠ガスだ!
研究所の連中に気付かれたか!
俺はガスマスクをはめ、
女の子に向かってダッシュする。
「今から誘拐とかしちゃったりするけど、
暴れないでよ!」
などと少々無茶なお願いしたが、
女の子の方はガスをもろに喰らったらしくフラフラでそれどころじゃないらしい。
床に倒れこみそうになったところを、なるべくやさしく抱きかかえる。
「大丈夫、これは実験終了の合図……」
すると彼女は始めて会話らしいことしゃべってくれた。
「それに、……ここからは誰も出られない」
「なんで?」
「衝撃吸収内壁、600ミリのチタン合金層、特殊コンクリート壁、地下数百メートルの立地……。隔壁が降りれば、核爆発にも耐えられる。だから、あなたでは脱出は無理」
「ふぅん。
君……名前は?」
「あなたの言う、
名前と呼べるものはない」
「そっかー、残念」
俺は少女を静かに床に寝かせ、
「じゃあ名無しのお嬢さん、
ちょーっとだけ待っててね」
息を呑む。
ガスで毒されていてやや呼吸が纏まらないが、まあなんとかなるでしょう。
体の脈と相談し……
いち、にの……さん……、
しっと!
「せぇぇぇいやああああああああッ!!」
跳躍、
……拳を振り上げ、天井に叩き込むッ!
ドクンッっと筋肉が波打つように振れ、
インパクトが壁を突き破る。
どかーんってすごい音。
衝撃は内壁を越え、チタン層、コンクリート壁、そして地表を一気に穿った。
直径3メートルほどの大穴から、
遠く夜空が見える。
「どうよ!
名づけて必殺核ミサイルパンチ!」
「くー……くー……」
超寝てるし! 俺のどや顔完全無視だし!!
……あ、でも間近でみる寝顔はかなり可愛かったりして……。
ぶぉぉぉう……。
「お?」
美少女の寝顔に惚けていると、
なにやら不吉な風の音がした。
ぶひょおおおおおおおおおおおっ!!
「おおおおおうううううわああああっ!!」
俺が突き破った穴が何故か俺と美少女を掃除機みたいに吸い込み、俺達は一気に地表に放り投げられた。
あ、そうか。
急に穴が開いたから気圧の変化で対流が発生して、こんなことに。そうおもった頃には俺は空中をくるくる舞っていた。
テキサス荒野の乾いた夜空って、月と星がキラキラと輝いてなかなか壮観なんだぜ。
ガスマスクを外して空を見上げる。
……って、やっべ!
女の子女の子ッ!
寝ている彼女は完全に無防備だ!
無抵抗な分より気圧の対流にのまれたのか、彼女は俺よりもっと上空にいた。
俺は着地、土煙を上げる猛ダッシュで彼女の落下地点まで走ってキャッチ!
ふぅー、あぶねー。
一息ついて、退路を探す。
辺りは障害物のほとんど無い、
広大な大地が広がっていた。
遠くには剥き出しの岩でできた山脈がみえる。だいぶ前にマラソンしたルート66も、こんな感じだったな。
こういう景色は嫌いじゃない。
地下に秘密研究所があることを知らなければ、静かなテキサスの夜を楽しめたのかもしれない。
『安堵は/間違い。
ここは軍用機開発サイト』
あれ?
抱きかかえてる女の子はまだ寝息をたてているのに、彼女の声がする。
まさか腹話術!?
『NO――否定/体が覚醒しきらない。
脳から直接会話だ。
ワードは直感/聞き取り辛い。
不慣れ/慣れてない/許容――許して』
「あー、テレパシーって奴?」
『ベター/それは間違いとは違う。
東方向です/ガトリングユニットに注意』
あ? 東ってどっち?
キョロキョロしてると
俺の真横でウイーンがっしゃんとか言って地面からなんか生えて来た。
あー、ホントにガトリングガンだわ。
ガトリングガンっ!?
バラララララララララッ!!
なんか爆竹を物騒にしたような音を立てて、四つほどの銃身が回転。
鉛弾を容赦なくぶち込んできやがった!
「おわああああああ!!」
俺は悲鳴を上げて走った!
何度かジャンプして弾道から逃げ、
射程範囲外まで激走する。
『要求――プリーズ/そのまま走って。
肌の接触/ネバーストップ/お願い』
仰せのままに。
俺は女の子をきつく抱いて、
ノンストップでダッシュを始めた。
ところで女の子が
〝肌〟に〝接触〟を〝お願い〟とか、
どうしてなかなか、思春期男子の胸を焦がしてくれるよね。
『セックスアピール/否定。
その脈拍の上昇/及び発情は場違い。
会話には導体接触が不可欠』
スケベ心丸見えっすか。
思考を読まれるのも考えもんだわ―。
『三時の方向/ミサイルポッド/注意』
三時ってどっち?
あ、言わなくてもいい。右から出て来た。
『方角方向に教養無し。
思考評価のレベルが低下したわ』
「なんでそこはクリアに喋るんだよ!」
笛ロケット花火みたいな音を立てて、ミサイルが飛んでくる。
人間相手にミサイル撃つか、ふつー?
この子まで吹っ飛ぶぞ。
『私の存在/デリート――消去目的。
目撃者も/ターミネイト――抹殺目的』
なるほど。
お外に連れ出すぐらいなら、
もういっそ消しちまえってか。
でも残念。
こちとらミサイルぐらいじゃあ
ターミネイトされないぜ!!
ミサイルの弾道から体を反らし、
下から蹴りを入れる。
ぐにゃっとミサイルはくの字にひん曲がり、缶けりしたみたいにぶっ飛んで行った。
そんで遥か上空で爆発した。
どーん、たーまやー。
『想定以上。
それは人間業/オーバー』
「大陸間弾道ミサイルに比べればおもちゃみたいなもんっすよ」
『アメイジング――驚愕。
お前は/オカシイ――クレイジー』
いやまあ、これで私生活はごくごくフツーの高校生なんだけどね。
成績あんまし良くないし。
『注意せよ。
〝お箸を持つ方向〟から、
セカンドファイア』
オー、イエー。
これは完全に馬鹿にされてるぜ。
俺は第二波、第三波と着実に迎撃し、脱出目指して走り続ける。
女の子はテレパシーでナビゲートだ。
『ご主人様危ないっ! 右に曲がって! その先は地雷パニックなのっ!』
「って口調変わってるんですけど!?」
『ご主人様とお話ししやすいようにぃ、
ご主人様の記憶にあったアニメっ娘のイメージでワードをフィルタリング中、
なーのだっ! きゃっ、はずかしー☆』
「やめい、気が散るわ!」
『イエス――賛成――合意――可決。
今のは/ミスティク――愚策――失敗……そして酷く有害』
……お願いだから俺の頭から変なもんほじくり出すのやめてくれ。
全力で死にたくなる。
あ、ちょっとまて、違うぞ!
アキバ趣味があるわけじゃないからな!
その、たまたま深夜にテレビをみてたらそういうアニメがやってただけだからな!
オタクとかちゃうんやで!
『言い訳/非常に不審。
正面から/デンジャー――危機感知』
「おぉう、もうなんでもこいや!」
ちょっとヤケッパチになって俺は叫んだ。
『油断は禁物』
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
地鳴りがして地面が割れ、アドバルーンみたいな真っ白の球体が出て来た。
でけぇ……でか過ぎだろ!
直径で3,4メートルはあるぞ!
『敵性体名称、〝モデルマン〟』
その球体が笑った。
笑ったんだよ!
歯を見せてニタァって!
球体全部使って!
それだけでガクブルなのに、そいつジャンプして俺の目の前に着地しやがった。
赤ん坊みたいに頭の大きい、
不安定な三等身。
なのにその体はボディビルダーの如くムキムキマッチョで血管がピクピク浮いてる。
顔面はのっぺらぼうみたいに
口のあるだけの球体。
しかも頭から足の先までペンキで塗ったぐったように真っ白なんだ。
挙句の果てに図体は
9メートルくらいの超・巨・大!
「キモイ! キモ過ぎッ!
キモイってお前のための単語だっ!!」
「ウィィィィィッ!!」
甲高い鳴き声をあげると、
そいつは拳を振りまわしずんずんとこっち走ってきやがった!
「いやだあああ! た、助けてくれぇ!!」
俺は走った。
泣きそうになりながら走った。
動物的直観が逃げろって訴えるんだよ!
『退路は無い。
脱出――イクジットに/交戦不可避』
「アレは無理! 生理的に無理!!
てかなんなのあれ!」
『名称〝モデルマン〟。
人間心理に訴えるテラー兵器』
「テラー兵器がどうしてこうなった⁉
設計者は斜め上に優秀すぎるわっ!」
くっそーっ、女の子の手前だ、逃げてばっかりは出来ねぇ!
俺は振り返り、
巨大化け物兵器を迎え撃ちに、
「ウィ……ッ! ハァッ!!
アヒィィーーヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィーーーーッ!!」
笑ってる!
デコピンされた赤ベコみたいに
頭を高速でぐらぐら振りながら!
あいつ笑ってんだよッ!!
「アヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィッ!!」
「許してええええええええええええッ!!」
謝れば笑うの止めてくれるなら、
ジャンピング土下座で頭を埋めるっ!
うわああ、追いつかれた、頭上からモデルマンが倒れてきやがった!
「アッヒィィィーッ!!
愛してるぜぼうやあああああああッ!!」 「なんでそこで日本語なんだよおおッ!!」
やっべ、ビビりすぎて避けそびれたッ!
思わず片手であの頭を受け止めちまう。
――受け止めちまった!
あわわ、触っちまった、
えんがちょ触っちまったよォっ!
ムキムキが脈打ってる!
ムキムキが生ぬるい!
ムキムキはザリガニ臭い!
しかも、
「なんかぬるぬるしてるぅぅぅぅぅぅっ!」
押し返すと同時に、
超圧縮マットをぶつける。
だって極力触りたくないんだよ!
反撃はうまくいった。
マットが膨張する反動で、
モデルマンが対の方向に転倒した。
「はぁ……はぁ……。もういやだぁ……」
俺は今の内に逃走を図った……マットでぬるぬるを拭ってからな!
『チョイス――選べ――セレクト。
それを指示』
「はあ? なにを!?」
『1〝小悪魔っ子〟
2〝世話焼き幼馴染み〟
3〝ツンデレ彼女〟』
このくっそ忙しい時に、
ギャルゲー開始時の選択肢かよオイっ!
『訴えたい/政治的意見がある。
齟齬の無い発言/好意的な交流。
そのためコマンド――指示しろ』
「あーもーッ!
俺の好きそうな奴で適当にしてくれ!」
『御意。……フロート』
おうわあぁぁぁ!
俺の体が宙に浮いちまった!
女の子だ、
彼女のサイコキネシスで浮いてるんだ!
いつ目覚めたのかは知らないが、
彼女は俺の体から飛び降りて
こっちを見上げてやがる!
「お、降ろせぇっ!」
「了解。〝落下して〟」
落下ってそれなんかちがくね?
……そう思った時には、俺は仰向けで地面に叩きつけられていた。
後頭部をもろに撃ちつけ、ぐぅっと唸る。
「……ひでぇ……」
「そのくらいの衝撃で死なないことは、
この数十分で観察済み」
口で喋る女の子の声はテレパシーの時みたいな言葉の羅列じゃないんだけど、
やっぱりなんかなー。
ちょっと硬くて冷たい感じがした。
ってそれどころじゃねぇ!
あいつに追いつかれちまう!
ん、ぬ……?
お?
おぉ?
「お、起き上れないんですけど⁉」
体が石になっちまったみたいに
まったく動かないんだ!
絶対あの子がなんか仕掛けてやがる。
なにを企んでいるのか
美少女兵器はこっちにきて、
そんで俺の顔の前で跪くと
顔を……顔!?
お、お顔をお近づきに……え。
――ええっ!?
CHU!
「ん――――――――――っ!?」
その瞬間、くちとくちがマウスとマウスで異性体との粘膜的接触がインパクト!
俺の世界はステキ美少女兵器の柔らかなプレシャスで充填されていき未知の悦びにニューロンとシナプスが手と手を取り合って歓声を上げ思春期男子の劣情と脳内麻薬とコズミック巨大エネルギーにSAN値が急激に低下していくのを体感つつ愛しさと切なさと心強さといつも感じているあなたへの想いがフルトップギアにイグニッションした!
「ちゅ……ちゅぅ……」
彼女は一通り俺の口をむさぼると、
唇を濡らすどっちかの唾液
――あるいは両方の――、
を、拭って、……ふぅっと一息。
月を背景に、
朱を孕んだ、
影のある可憐な顔で、
気だるそうに俺を見つめて……、
そんで、
そんで――、
「ふざけんじゃないわよ、
ばかァーーーーーーっ!!」
……罵倒してきた。
「え、なに、
強姦まがいのキスされたの俺なのに
怒られんのこっち!?」
「そこじゃないわよ!」
彼女は立ち上がって胸をそり、腰に手を当ててふんぞり返ると、
「あんたね、勝手に誘拐しといて、今更怖いだの無理だの逃げ回ってんじゃないわよ!
これでここを脱出できなかったら、
私どうなると思ってんの!?」
「だ、だって!
あいつめちゃくちゃキモイし、
……てかキャラ変わり過ぎだろ!」
「あんたの趣味に合わせてやったのよ。
感謝してよね」
CV.釘○もかくやとばかりに、上から目線で言い放つと、ツンと胸を反らした。
診断の結果が出ました。
僕の趣味は〝ツンデレ彼女〟だそうです。
「なんだよ、じゃあさっきのキスは……」
すると彼女は顔を真っ赤にして、
「か……勘違いしないでよねっ!」
とテンプレート通りに怒鳴ってくれた。
マーベラスッ!
「あ、あ、あれはこのキャラになるための知識を吸い上げるのに、皮膚間接触だけじゃ足らなかったから仕方なくやっただけで、
……そういうのじゃないんだからっ!」
「俺はダウンロードのためにファーストキス奪われたわけか……」
ぼそっ、と呟いちまったのが悪かった。
「私のファーストをくれてやったんでしょうがああああああッ!!」
と怒声が轟き、寝転がったままの俺に
等身大の岩石が振ってきた。
…………。
……。
――三蔵法師と出会う直前の孫悟空みたいになりながら、俺はスマホをとりだす。
よかった、動く。
仕事用の特製カバーで
護っておいてよかった。
とりあえずつぶやいとこ。
『美少女兵器が
ツンデレ美少女にあっぷぐれーどなう。』




