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第五話 夏希への期待

 この日のゼクシス魔法学校の教室は少し騒がしくなっていた。理由は昨日の訓練所での事件でその話がもう広まっていた。近場で起こった事件だから関心も高い。そんな生徒たちの中で事件に関わっていた和真と恭輔はシオンと話していた。恭輔主体で話しているから自慢するかのような響きがあるが。


「というわけだ。どうだシオン?」


「うーん、倒したのはスゴいよ。でも、勝利の立役者かって言われると時間稼ぎと隙をうまく作り上げてくれた和真のほうじゃない?」


「なん……だと……!?」


「結果論だと思うけどな。内心は一杯一杯で、がむしゃらに戦ってたようなもんだからな」


 話しの区切りがつくと同時に予鈴が鳴り響いた。予鈴を聞くと話していた人たちが一斉に席に戻り始めていく。シオンは自分の席だから動く必要はなかったが、恭輔は少し落ち込みながら席に戻っていった。そして和真にとって大事な時が訪れようとしていた。


 自分から誰かと向き合う、恭輔やシオンに教えられたことで和真としてはこれからの生活で心がけていかないといけないことなのだ。和真は目を閉じて落ち着いてから後ろに振り向く。


「えっと、お、おはよう」


 挨拶をされた方は和真に目だけを向けて挨拶を返すことはなかった。隣にいるシオンは和真が挨拶したことに驚く。


「な、なんだよ」


「……ううん、別に何でもないよー」


 和真が小さな一歩だが踏み出せていた。自分から関わろうとしていることがシオンには嬉しく思えた。

和真は弟の成長を喜んでいるかのような微笑みをシオンに向けられていてなんだか気恥ずかしい。


「おー、青春してるなお前ら。朝のHRの時間だ。」


 謀ったかのようなタイミングで現れる先生である。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 HRのあとこの日の授業が始まった。孤門先生の授業ということで少し不安があったが、やはり和真の予想を裏切っていった。要点がまとめられていてとても理解しやすい授業がおこなわれた。面倒事を嫌うがやることは完璧なのが孤門隼人という人物なのだろう。充実していたからか時はあっという間に過ぎ今はもう放課後、夏希との約束の時間。教室の扉を開けるとすでに夏希がパソコンの前で待っていた。


「すいません。遅れてしまいましたか?」


「私も今来たばかりだから心配しなくてもいい。昨日の時点で魔力が発動できない原因であることが分かっているから、今日やることはさらに詳しいデータを取ることだ。とりあえず手から魔力を放出してくれるかい?」


 和真は夏希の言葉通り手から魔力を放出させた。放出させれば本来なら魔力の淡い光が見えるのだが、なんの変化も起きない。つまり放出できていない。これは小学一年でやれるようにすることだが、そんな基礎的なことができていなかったようだ。魔力の放出という基礎ができないのに、術式を組んで魔力の形を変化させる応用ができるはずがない。魔法が使えないことに目がいってこのことに疑問を覚えなかったのが恥ずかく思えた。


「拡散するのが速い……。これが原因だね」


「へ?原因、分かったんですか!?というか簡単に見つかりすぎなんじゃ……」


「ある程度予想していたんだよ。和真君の話で肉体強化ができること、属性変換資質で僅かに反応があったことを聞いたからね。逆にこれしか原因になりそうなことがなかったよ」


 入学二日でこれまでの謎がわかることに肩透かしを覚えるが、気にしないようにして夏希の話を聞く。


「魔力を放出すれば拡散するのは当然のことだけどね、和真君はその拡散スピードが速い。体外に出た途端に“魔力素”まで分解されているんだよ。肉体強化は体という器で拡散を抑えているから使えているんだ」


「どうすればいいんですか?」


「拡散するよりも多く魔力を出せばいい。1の魔力で使える魔法なら100払えばいいわけなんだけど、現実は術式の細かい部分の魔力が拡散するから無理なんだ。つまり和真君は本来の魔法という形では使えないんだ」


 気まずいからかそう言ったあと夏希は口を閉ざし顔を俯かせた。それは解決策が思い浮かばず悔やんでいるかのようにも見える。


「……どうしたんですか?夏希さんどうにかする方法思い浮かんでるんですよね?」


「…………どうして?」


 夏希はその言葉にピクリと身体をこわばらせ顔を下に向けたまま和真に問いかけた。


 和真には問いかけの意味が分からない。和真は不可能とは思えなかった。


 例えば拡散した魔力を再び収束させること。魔法ドームや結界には魔力を拡散させる力がありそれを分析して反対の反応を起こせば理論上魔力は収束できることになる。劇的な効果が出なくても多少は使えるだろう。


 和真でも思いつけるのに夏希が何にも方法も思い浮かばないとは思えない。それにどうにか出来るのだろうと思った一番の理由はべつにあった。


「夏希さん『俺には本来の魔法という形では使えない』って言ってましたよね?それ普通の魔法じゃなければ使えるって言っているようなものじゃ……」


 そこまで聞くと夏希は、クックッと笑い出す。


「なんだ、私がヒントを出してしまっていたのか……言葉の違いに気づいたことを褒めるべきか、サプライズ失敗を残念がるべきか」


「人の希望をへし折るようなサプライズしないでくださいよ!?もし俺が気づかなかったらど……」


「本題に入ろう。私の考えた案は二つ」


「ちょ、スルーですか!?」


「一つは私の趣味で作った魔導器デバイスを改良していく案。つまり君専用の特別なデバイスを作りあげる」


 夏希の言った魔導器、デバイスとは術式の組み立て、魔力の管理など使用者の補助をする科学と魔法、二つの時代の結晶とも言われるぐらいの高性能で世間評価は高い。だが全ての人が同じ補助を必要としているわけではないからデバイス一つ一つが個人専用にならざるを得ないから高価で気軽に買えるようなものではないのだ。

もちろん和真が手を出せるわけがなく、大きく顔を振ってその案を拒否する。


「そんな高いの無理です!デバイスに手を出したら家計が氷河期に突入しますよ!?」


「費用なら気にしなくていい。作るデバイスが和真君に合っているだけでこれは私の趣味なんだ。未知のデータが取れるのだから私自身の為にもなるしギブ&テイクだよ」


 夏希はお金に関してのフォローを入れた。拒否するのが分かっていたのだろう。


「夏希さんがいいなら、いいですけど……。二つ目の案は何ですか?」


「秘伝魔法。二つ目はこの手段もあることを知っていればいい。詳しいことは知らないからね」


 どんな魔法かわからないからこそ使える可能性があるということだ。ただ使えるとしても秘伝魔法を和真が習うことはありえない。知っていればいいのではない、知るだけしか出来ないのだ。つまり。


「デバイスを作ろうってわけ「そのとおり!!私の制作意欲がそそられる!!そういうわけだから今日はここまで。次はデバイスが出来たら和真君を呼ぶよ。期待して待っていてくれ」


 夏希の纏う空気が変わった。誰が見てもわかるぐらいに目が輝いている。


「えっと、なら期待して待ってます」


  そう返事をした後、部屋には嬉々とした夏希の笑い声が響きわたった。和真にはその声がマッドサイエンティストの高笑いにしか思えない。


 ……データ取りだとしても、限度あるデバイスを作ってください。信じてますよ夏希さん。


 一抹の願いを込めてから部屋を出る和真なのだった。


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