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第三話 悩む必要なんてない

 今は全部の授業で寝ていた恭輔、訓練をしなかった和真を除いた多くの人が待ちに待った放課後だ。


 多くの人は疲れをとるためすぐ帰るみたいだが、元気のある二人は恭輔がよく使う訓練所があるゼクシス南部の森林地帯に向かっていた。男二人で特訓しようぜ!ということらしい。


 生物的に増える魔物以外に森林地帯で発生する純粋な魔力などを糧に魔物が突発的に現れることがある。この種類の魔物は特別な場所だったりしない限りは弱い魔物しかいないため、戦闘経験が出来るよう森林地帯には訓練所が作られる。


 訓練所は魔物討伐の依頼を請け負う組織、ギルドが作る施設で安全面はしっかりしている。

 高校生以上は魔物の出現が多い奥のエリアには入れないし、訓練所にはランクBの人が二人はいるようになっている。更に魔物が森林地帯からでないよう結界もあるから訓練所内で死亡した人は一人も出ていない。


「訓練所で何するんだ?」


「当然、模擬戦だ」


「……ハンデ有りだぞ」


 魔法での遠距離攻撃で恭輔の一方的な試合になってしまう。ハンデ有りじゃなければどっちも訓練にならなくなってしまうから仕方ないだろう。


「ならハンデは攻撃魔法を使わない事でいいか?」


「それでよろしく」


 話しているうちに森の中にあるゲート、それの隣に小さな建物と受付をしている人が見えてきた。あれが訓練所なのだろう。


「恭輔あそこか?」



「ああ。ここが俺の行きつけの訓練所だ。受付に行ってくるからちょっと待っててくれ」


 そう言って恭輔は受付の方に向かった。和真は武器が拳だから広いところで振り回したり魔法の練習をする必要も無いから訓練所でどうするか勝手がわからない。


 だからここは常連の恭輔に任せるしかないのだが、和真としては色々してもらってばかりでなんだか申し訳なく思う。


 そんなことを考えて時間を潰し、受付を終わらせて戻った恭輔の後に和真はついていった。


 あれ?自分を救ってくれたとか、とてつもなくでかい恩なんだけど……。こんなでかい借り、返せなくないか?


 …………果てしないほどの恩返しになりそうである。







 戦える場所に移動したが和真が武器を装着出来ていないから、まだ模擬戦を始めていなかった。


「よし!準備はいいか和真」


「あのな恭輔、俺は武具召喚出来ないんだから後少し時間がかかるぞ」


 武具召喚はその名のとおり武器や防具を魔方陣のある場所から呼び出す魔法だがそれも和真は使えない。だから自分で装着しないといけないのだ。


 そう考えると手甲はまだ持ち運びやすいから、見事に和真の条件に合うものである。


「…………よし、いけるぞ恭輔」


 手甲の具合を確かめてから準備はできたことを伝える。


「なら、試合開始だ!」


 その言葉を聞いて和真は恭輔から少し距離をとる。攻撃魔法は禁止だから、闇雲に近付いたところでリーチの違いでまず返り討ちにあってしまう。


 ひとまずどんな風に恭輔が動くか様子見をしたほうがいいと判断したのだ。


「様子見……、ならこっちからいくぜ和真!!」


 様子見だと分かると恭輔は開いた間合いを一気に詰めてくる。そして和真が自分の間合いに入ると大剣で凪ぎ払ってきた。


 大剣の一撃を受け止めれるわけがないと分かっているから範囲の広い攻撃を選んだのだろう。


 足が地面についてなければ、遠心力などがない限り大剣をおもいっきり振れない。そう考え和真は体勢を低くして恭輔の攻撃をやり過ごし、足払いを仕掛ける。


 だがそれを恭輔はジャンプして避けた。そして体を捻り振り回したときの勢いを利用して大剣を降りおろす。


 和真はそれを横に転がり避けようとしたが、地面に衝突したときの衝撃で周りの地面が跳ね襲いかかってきた。


「ぐう……ッ!!」


 転がる勢いが収まると同時に立ち上がるが、その時には恭輔が距離を詰めていた。しかも恭輔の間合いギリギリに。


(まずい、このままじゃ防戦一方だ。強引にでも流れを変えないと……)


 再び恭輔の攻撃をしゃがんで避け前に飛び出す。


 確かに大剣はリーチがある近接武器。近すぎれば振りが遅くなりどうしようも無くなる。だが恭輔は和真の行動をこれまでの経験で予測していた。


 肉体強化を強めて大剣を逆方向に振り返す。遠心力を無視して攻撃にもっていく不意をついた一撃。これなら当たる。恭輔はそう思っているのだろう。


(だからこそ狙える!)


 前に飛び出していたがステップを踏んで側面に回り込み恭輔の腹部を殴る。ゴフッ、と空気が吐き出される音がした。踏み込んだ際の腹部への一撃。効かないはずがない。


 恭輔はあの時の会話からパワー型で、攻撃に重点を置いていると知っている。それはさっきの足払いを避けてすぐ攻撃に繋げていったことからも証明できた。だからそれを逆手にとり、逆にカウンターを狙えたのだ。


「まだまだ!!」


 今度は和真から距離を詰める。身軽な分こちらの方が動きが速い。


「そう上手くいくか!」


 そう叫んだ恭輔は退くのは数歩だけに踏みとどまり、目の前を斜めに斬り上げる。


 だが和真はそれも反応し回し蹴りでふきとばして妨害をはかった。恭輔はその回し蹴りをくらい横にとばさられるが……。


「腹に入れたのに手応えが無い、跳んだのか?」


「あったり~!」


 考えは当たっていた。蹴りを受けたはずなのに恭輔は痛がりもせず構え直している。


 受け身では勝てない。かといってこちらから攻めても明らかに決定力がない。下手をすればダメージ覚悟の攻撃一回でやられる可能性すらあるのだ。


(こっちの手が無さすぎる。力や耐久面では明らかに負けてるし、同じことが繰り返されたら体力が先に無くなるのはこっちだ。カウンターを狙い続けるしか手は……)


 そう考えたその時『ビーーーーーーー』と鳴り響くブザー音が流れだした。







「びっくりした!恭輔これ何のブザー音だよ!?」


「ん~初めて聞いたけど、これ魔物が奥のエリアから出たときのはず」


「でも奥のエリアは結界があるし、出るなんておかしくないか?」



 模擬戦を中断し、ブザー音について聞くが、恭輔もかなり驚いているし同じ疑問をもったみたいではっきりとした答えを返せていない。とりあえず入り口まで戻ろうとしたその時だった。


「どうした?」


「いや、今なにか……」


 音が聞こえた。削る音が。聞くことに集中すると、今度はその音と木の葉が揺れる音が少しずつ、少しずつ高くなっているのが分かる。


(……?なんで音がゆっくり高くなるんだ?それじゃあドップラー音と同……)


 思考が止まる。ドップラー効果でだんだん音が高く聞こえる。つまり近づいてきているのだ。削る音と木の葉を揺らす何かが。魔物が結界のある奥のエリアから出ているこの状況で。


「まずい!おもいっきり高く跳べ恭輔!!」


 大きな声で叫ぶ。音が大きくなり聞こえ始めて何の音か疑問になっている恭輔も、和真の声の中の必死さを感じてすぐに跳び上がった。


 それに続いて和真も跳び上がった瞬間、二人がさっきまでいた場所が崩れそこから何か、いや地中を掘り進んでいた魔物が現れた。


 犬のような風貌で二つの顔があり、口からは土の混じった涎が垂れている。前足の爪は一メートル位あり黒く輝いていて、それは石壁を盾にしてもそれごと切り裂いてしまいそうでもある。


「向いてる方向からして、あいつが結界を出た魔物」


「何だよあの魔物……あんなの見たことねぇぞ!?」


 魔物の姿は和真も見たことがない。仮にこっちが知らないだけで存在するとしても、自然発生するような魔物ではない。あの感じだとランクB以上はある魔物だ。


「逃げるぞ!あんなの相手にできるか!」


「同感!あっちがギルドがいる場所だ!」


 地面に着くと同時に恭輔が指を指した方に走り出す。魔物も追いかけてくるが滅茶苦茶に走っているためか、二人との差はほんの少しずつ開いていく。


「よっしゃー!!このままなら逃げ切れるぞ!!」


「ああ、そうだな!この調子でいけば……!?」


 魔物が急に方向転換する。滅茶苦茶に走って追いかけるような奴が回り込みなんて事を考える頭があるとは思えない。


(あいつ目的を俺達から別の人に変えて……っ!!)


 魔物の進行方向の先には同じ位の歳の女の子がいた。恐怖の為か地面に座り込んでいる。このままだとあの子は殺される。なら悩む必要なんて和真にはない。自分自身の誓いを果たすだけだ。





 魔物の唸り声に足音がどんどん大きくなる。彼女は今自分の命の終わりを、ここにいたから殺されてしまう理不尽さを感じていた。


 少しだけ退屈さを感じてしまう、いつもと変わらない一日

 魔物が自分の所にたどり着く。

 変わらない日常が続き、明日になっていく

 魔物の足が振り上げられる。

 そんないつもと変わらない一日のはずだったのに。


 吠えるのと同時に足を振り落とす。変わらないはずの日常が終わる。自分の死というかたちで。恐怖で目を閉じる。何も見えなくなるけど関係ない、もう自分は……………………………………………………………………………………?痛みを、いや何も感じない?


「この!!やらせるかよ!!」


 声につられて目を開くと目の前には降り下ろされる魔物の足を自分達の横にずらし、顔の一つを蹴り上げている男の姿があった。


「恭輔!!」


「ブッ飛ばしてやる!!」

 今度は大きな何かを持った茶髪の男が手にある物で蹴り上げられた魔物の顔に叩き込む。それをくらった魔物は言葉通り後ろ十メートル位にとばされていく。


「大丈夫か?」


 声をかけてきた黒髪の人が変わらない当たり前の日常を守ってくれた。そしてまだ魔物は生きていて完全に助かってもいないのに安堵していく。


 まるで。その人がいるなら自分の感じた死の恐怖をはね除けてくれるのを知っているかのように。



少し戦闘描写が入ったけど、これなんかよりもっと良い戦闘を書けるようにしていたい……

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