閑話:側近は、許せない。個人情報と機密が漏れていた件。
※本作は腐向け要素を含むネタ作品です。
※苦手な方は閲覧をご注意ください。
魔界の昼下がり。
魔王城の庭園に秘密裏に設置されている東屋で、魔王は軽食を取っていた。
異世界・日本でのイメージは、常にどんよりとした雲に太陽が覆われ、暗いものとして描かれるが、トルメウス界での景色は全く違うものであった。
魔界も守護するという広い心のトルメウス神により、心地よい風が吹き、暖かな陽射しが差している。
「忌々しい」
ここ最近の魔王はイライラしていることが多い。
それも、これも、日本征服に失敗したから──ではない。
“腐”の者共の書物のせいだ。
誰かが良かれと思って、転移させてくる同人誌。
確かにサキュバスやインキュバスの魔力が向上した。
読書だけで魔力が得られるのならば、人間を襲うより遥かにリスクも低く、効率的で喜ばしい。
だがしかし。
魔王×側近はやめろ。頼む。やめてください。
内部から攻めたつもりが、こちらの内部が攻められている。
魔王は深くため息をついた。
「──まぁ、過ぎたことは仕方ない。戦力が増すなら良しとしたいが……くっ……」
隣に座る側近が、読み終わった同人誌を静かに置いた。
「お前達は、よく読めるな」
「人間の精を魔力に変換出来ないヴァルには特に厳しいよね。サキュバスやインキュバス達でさえ、初めは鼻血を出したり倒れたり……結構えげつないのが混ざってるからね」
「ルシェは自分のことだろうが。腹立たしくないのか?」
「うーん。本物のヴァルを知ってるからかな。全然平気」
側近であるルシェとは、この東屋でのみ幼馴染みとして接している。
公私混同はしない。
ただ最近はイライラが続き、愚痴を聞いてもらうためだけに、東屋での時間が増えている自覚はあった。
「この本だったら、僕達の話じゃないし、ヴァルも面白く読めると思うよ」
手渡された本を開くと、それは子供が料理を楽しそうに作り、美味しそうに食べるだけのほのぼのした話だった。
「平和だな」
「僕達の国も、そうであればいいのだけど」
「世界征服は我々の本能として神に植え付けられてしまっているからな。悲願を果たすまでは止められぬだろう……」
──果たして、本当にそう作られているのだろうか。
異世界・日本へ送った魔族達を思い返すと浮かぶ疑問。
しかし、そうでなければ。
今までのことは何だったのか。
「ヴァル?」
「何でもない」
「……あまり眠れてないだろ。このまま少し眠るといいよ。今日の予定は片付けてあるから安心して」
「すまない……」
魔王の体が、そっと側近の肩に預けられ、しばらくすると、小さな寝息が聞こえてくる。
側近は、魔王を起こさないように次の本を静かに開いた。
◆
側近・ルシェイドは、魔王・ヴァルディスと共に育った。
生まれた時より、ヴァルディスの片腕として立ち続けるための研鑽を怠らない。
そして、ルシェイドは強くなれど、ヴァルディスの強大な魔力と実力には到底追い付けない。
だが、こうして二人きりで主従の関係を忘れて過ごす時間に、良からぬ錯覚を起こしそうになる。
このまま彼を自分のものにできるのではないか。
このまま世界征服など忘れて二人きりで生きていけないだろうかと。
「ルシェ……?」
不思議そうに見上げてきた瞳に吸い込まれる。
薄く開かれた唇に、そっと自分のを重ねた。
「!?」
見開かれた瞳も綺麗だと見惚れながら、さらに口づけを深くしていく。
ヴァルディスは抵抗しなかった。
「……このまま、続けてもいい?」
「だ、駄目だ……ここは……外で……それに……」
「ここには誰も来ないよ」
グッと腰に回した腕に力を込め引き寄せる。
「……こんな状態で止めていいの?」
「ルシェ……」
「どうする?」
本気を出せばヴァルディスならば逃げられる。
それを出来ないことを知りつつ、決定権を委ねる。
ズルいと分かっている。
ヴァルディスが静かに瞼を閉じたのを合図に、ルシェイドは彼の服に手を滑り込ませ、熱を持ち昂った中──
◆
バリィィィィィィィ!!!!
「ルルルルルシェぇぇぇ????」
魔王が飛び起きる。
側近の両手には、二つに裂かれた同人誌。
「一体、どうした!?」
「……名……個人情報……城の構造……機密……流出……誰だ……“ここ”の事まで話した奴は…………」
側近はガタガタと怒りに震えている。
「ヴァル……いえ、魔王様、至急片付けねばならない案件が出来ましたので、失礼させていただきます」
とても綺麗な微笑みとは裏腹に、同人誌はグシャリと音を立てて握り潰された。
「そ、そうか……ま、任せた……」
側近が転移で姿を消したあと、魔王は思わず安堵のため息をついた。
自分達のBLとやらは生暖かく見守っていたが、あの一冊は地雷だったのだろう。
特にこの東屋での時間は、魔王城一番の秘密なのだ。
「こわ……」
──静かな怒りに満ち溢れた側近によって、一冊の“側近×魔王”本は回収された。
書いた者、読んだ者、全ての者の記憶消去という念入りさで。
後日、蘇生ギリギリの状態にされた情報流出者の懇願により、魔王と側近の偽名、嘘の城の内部設定などをまとめた本が側近の監修にて発行された。
偽りだらけの公式設定資料集を確認した魔王は、軽い頭痛に襲われた。
「解せぬ」
側近よ、資料集を出すくらいなら、いっそ我らのBLそのものを封印してくれ……頼むから。
なお東屋は魔王本人の知らないところで、割と共有されている公然の秘密である。




