item2 虚空の額縁(Ⅴ)
続きです!
ルビィに針を見せますが……?
――アルドはルビィへこれまでの経緯を説明した。ルビィは話を聞きながら魔法でメモを取っている。
「……成る程成る程。……つまり界外遺物の修理を試みた際に織針の形状が変化した……と。ふぅむ……。妙ですなぁ……」
「何故だ?」
「アルド氏。我々魔法ギルドとアルド氏が共同開発した織針は、特殊な魔力回路で出力を安定させています。それに、機織蜘蛛の持つコアはとても不安定でして、それを安定させるための回路を作るのに1年はかかったのですぞ」
ルビィは足を止めてさらに熱く語る。
「コア自体の魔力波形に変化はない。我々が苦労して組んだ安定化回路も魔力パスも全くズレていない!それなのにぃ! その魔力を包む『器』だけが!熱に溶けた飴細工のように!全く別の役割を求めて形を変えている!」
アルドは危険を感じたのか無意識の内に『鉄筆』に手を置いた。
「いいですかアルド氏。これは例えるなら、『中身は赤ん坊のまま、一瞬で大人の戦士の鎧を着込んだ』ようなものです。道具の方が、使い手であるあなたの『もっと深く、もっと熱く届かせたい』という渇望に、無理やり肉体を間に合わせた……ということです。なんて面白いんだ……!これだから魔導具作りはやめられないんですよ……!!」
「つまり……どういうことだ?」
『マスター。今までの彼女の言葉を意味を察するに、おそらくですが機織蜘蛛の織針の方から形状を変化したいと考えた、と伝えたいのでは』
「コイツから……形状を……」
アルドは、腰のホルダーに収まった『鉄筆』にそっと指を触れた。
無機質な金属のはずなのに、そこからは、慣れ親しんだ相棒が必死に背伸びをしているような、奇妙な熱が伝わってくる。
「理屈は何となく分かった。んで、コイツの形は元に戻るのか?」
「アルド氏。残念ながら現在の技術では無理だと思われますなぁ。魔力回路ごと変形しているのであれば設計図を元に回路をつなぎ戻せるのですが……。回路が正常である以上、我々が手を出したところで恐らく今の形状に戻るだけですぞ」
アルドはピクリと眉を動かす。
「『織針自体』が変化したいと思わぬ限りはこの形のままですな。……もしくは、アルド氏の強い『想い』を通したら……』
「想い……か」
アルドが自分の手元を見つめ、何とも言えない表情を浮かべたその時だった。
足元から、ズズン……と腹に響くような、重苦しい振動が突き抜けた。
「……っ!? 何だ、今の揺れは」
アルドが身構えるより早く、廊下の壁に設置された魔導ベルが、悲鳴のような鋭い音を立てて鳴り響く。
「な、なんです!? 今のは地下の方から……!」
ルビィの顔から余裕の笑みが消え、即座に空中に見取り図を展開して状況を確認し始める。そこへ、廊下の奥から1人の研究員が、壁に手をつきながらふらふらと現れた。
「ル、ルビィ主任……! ダメです、地下の『額縁』が、突然暴走を……。あのザリザリという音が、防音結界を突き抜けて直接脳に……うっ」
研究員はその場に膝をつき、激しく嘔吐した。顔色は土気色で、ひどい目眩に襲われているようだ。
「そ、そんな……!このままではまた体調不良者が増えるだけですぞ……!」
「ごちゃごちゃ五月蝿ぇ。……おい、その『額縁』はどこにある」
「ふぇ……?えっと地下の第3防音室……ってアルド氏ぃ!?まさか行こうとしていないでしょうね!?」
ルビィの心配をよそに、アルドは地下へと通じる階段を降りていった。
「あ、アルド氏ぃー!せめて防音のルーンが刻まれた魔導具をー!……っ!――――!」
背後から届くルビィの叫びは、階段を数段降りたところで、ザリザリとした砂嵐の奔流に飲み込まれ、形を失った。
ルビィちゃーん!「はいですぞ!」
ではありません
さて、「額縁」の名前が出てきましたね。
この遺物はどんな形なのか……。
次回もお楽しみに!
※初めて感想いただきました!ブックマークもありがとうございます!「氷の令嬢〜」と合わせても初めてなので嬉しいです!




