item2 虚空の額縁(Ⅲ)
続きです
オババの武器評価は……?
「おいオババ。コイツを買い取ってくれ」
店内に踏み入ると、鉄と煤の匂いが鼻を突く。
カウンターの奥で帳簿をつけていたオババは、アルドの姿を認めるなり、度の強い眼鏡をクイと押し上げた。
「……おや。アルドじゃないかい。フェインから界外遺物触って声が聴こえなくなって落ち込んでた、なんて聞いていたからおっ死んじまったと思っていたよ」
「アイツ……余計なことを……まぁいい」
アルドは次フェインに会ったら締めようと思いながら布に包まれた剣をオババに見せる。
「なんだいこりゃ……。アルド……アンタのいつもの仕事と違うじゃないかい……。とにかく、『鑑定眼』で見てみないとだね……」
オババが自身のスキルを発動し、彼女の目には様々な情報が流れてくる。
名称:忘却の重剣【ロストバスター】
現在の推定市場価値:金貨352枚
構成精度:110%
特殊効果:魔力伝導率(極)、筋力上昇(中)
特記事項:修復ではなく接合により再構築された状態に近い
……………………。
「……ちょいとアルド……。アンタ……アンタ一体どうしちまったんだい!いつもと見た目が違うから適当に作ったと思って返そうと思っていたが……金貨350枚オーバーって……!この前の300枚も高値だったが余裕で超えちまったよ……。それに再構築って……アンタ、タダの鉄塊を『新たに作り直した』ってことかい!?」
「……新たに作り直したつもりはねぇよ。ただ、こいつの『声』に従って、歪んだ芯を叩き直しただけだ」
アルドはそっけなく答えたが、オババは納得いかない様子で剣とアルドを交互に睨みつける。
「叩き直しただぁ!?それだけで構成精度が100%を超えて110%になるもんかい! 以前のあんたの仕事は、傷を丁寧に塞いで『生かす』職人芸だった。だがこれは……鉄の魂を無理やり引きずり出して、新しく肉体を与えたようなもんさ。……気味悪いほど完璧だよ」
『補足します。マスター・アルドは、鉄塊の声を聴き「彼」の望むとおりに「鉄筆」を振り下ろしただけです。仕事内容としてはマスターの以前の仕事と変わりませんが、コレは「修復」ではなく、物質の「再定義」といえます』
「ヒィッ!?……だ、誰だい?どこで話してるんだい!?」
オババは不思議に思ったのか、カウンターの下を探したり、商品棚を調べる。アルドは深い溜息をつき、ホルダーから黒い鏡を取り出した。
「コイツが喋っていた。界外遺物の……『レイ』だ」
「……オーバーパーツ……。アタシも長く生きているが動いているものを見るのは初めてだねぇ……。アンタ、コイツを直したのかい?」
「ああ……。その時に織針が形を変えたんだ」
アルドはそう言ってホルダーから織針を抜きカウンターに置いた。
「あの織針がここまで荒々しい形に……。そりゃあ剣もこうなるね……。アンタ、コイツをどうするんだい?」
「針の形を戻したいから、これから魔法ギルドに寄るつもりだ。……俺は前の方が使いやすかったからな」
アルドが不満げに零すと、オババはふっと口角を上げ、どこか遠くを見るような目で『鉄筆』を見つめた。
「……そうかい。だったらその鏡は、盗まれないようにしな。ずっと地下に籠もっていたからまだ知られてないが、これまで動かなかった界外遺物を直したなんて知れれば、ギルドのお偉方や強欲な愛好家たちが黙っちゃいないからね」
オババはそこで一度言葉を切り、煙管の灰をトントンと落とした。
「あと……その織針。形が変わっただけだなんて思わないことだ。そいつは、もっと凄いことになるかもしれないねぇ……」
「……よせよ。これ以上ややこしくなるのは御免だ」
アルドはぶっきらぼうに返し、織針とレイをホルダーに収めた。
オババの不吉な予言を振り払うように店を出ると、街の中央にそびえる魔法ギルドの白い塔が、西日に長く影を落としていた。
『マスター・アルド。先ほどの女性の予測に基づき、周囲の警戒レベルを引き上げますか?』
「……お前はただ、黙って隠れてろ」
懐のレイの震えを掌で抑え込みながら、アルドは騒がしい通りへと踏み出した。
次回から毎日更新の予定にすることにしました!
「氷の令嬢〜」と合わせてよろしくお願いいたします!




