item4 純白の律動機(Ⅱ)
続きです!
切るところがなかった!
今日はちょっと長め!
魔法ギルドに到着し受付を済ませる。ルビィを待っている間も受付嬢から戦斧の件を茶化され、アルドのストレスは増えていった。
(やっぱり装飾なんてしねぇで、とっとと納品すりゃよかった……)
ソワソワしながら待っていると、奥の方からバタバタと音を立てながらルビィがやってきた。
「やあやあアルド氏!先日の一件では大変お世話になりました!おかげで『額縁』も暴走しなくなり、ワタシたちの魔導具作りに日々貢献しておりますぞ!」
「そうか……なら良かったよ。それでだ。時期はまだ早ぇんだがピアスに不調が見られてだな、調整してもらいたい」
アルドの左耳に着けているピアスがキラリと光る。ルビィは眼鏡の分厚いレンズでマジマジと見つめつつ、ピアスに刻まれたルーンと魔力回路を確認した。
「ふぅむ……。確かにこれは酷使していて回路が切れかけていますな。界外遺物との会話も続いていたため、ピアス自体の耐久性も低下していますし……。すぐに調整しちゃいましょう!」
そう言ってルビィはアルドを連れて研究室へ連れて行った。
「――回路の摩耗が何箇所かに見られていたので、切れないように強化魔法を付与しておきましたぞ!それと、遺物との会話でノイズをよく聞くと思われるので、ノイズを軽減するルーンを新たに刻んでおきました。これで不快な音の軽減が見込まれますぞ」
「ああ、助かる。……しかし良いのか?勝手にルーンを追加して。……マデリンさんに叱られねぇか?」
マデリンというのはアルドのピアスを作ったドワーフと魔女の夫婦の妻の方である。魔法ギルドでは高尚な魔法使いであり、ルビィにとっては直属の上司だった存在だ。
「構いませぬぞ。マデリン様はご夫婦で旅に出る際にピアスの管理、調整に関して一切を任せると仰っていたので!」
「……なら良いんだけどよ。マデリンさんに後で俺が怒られるのは勘弁だからな」
アルドが席を立ち、机に置いていた『六角の杭』とレイをホルダーに入れようとしたとき、ルビィが目を輝かせて問いかけてきた。
「ところでアルド氏。レイさんの見た目は、以前修復していただいた『額縁』に似ておりますよね。『額縁』は映像および音声の出力に特化していましたが、レイさんもこうやって会話できているということは、同じく音声の出力機……つまりは拡声の魔導具と同じ原理ですかな?」
ルビィの専門的な問いに、レイはホルダーに収まる直前、その板を微かに震わせて応えた。
『ルビィ殿。ソレは少し解釈が違います。ワタシは「額縁」とは違い、元のセカイでは「電話」……つまり、遠く離れた場所にいる者と遅延なく会話することに特化した存在でした』
「で、でんわ……? 音の響きと説明からして遠隔対話の専用機ということですかな!?」
ルビィの鼻息が荒くなる。魔導師が膨大な魔力を使って行う『遠隔対話』を、この小さな鏡の板が専門的にこなすという事実は、彼女にとって正に衝撃だったからである。
「素晴らしい……! ならば、その魔力回路のプロセスを分析・抽出させてもらえれば、魔法が使えない者でも扱える『汎用通話器』が作れるかもしれませぬぞ! レイさん、どうか1時間、その深淵なる知恵を解析させてはいただけませぬか!」
「おいルビィ……。そんなことを言ってレイを困らせるんじゃねぇよ……」
アルドがたしなめるように手を伸ばすが、レイの返答は意外なものだった。
『……マスター。……ワタシのチカラが……能力が必要となるのであれば……ワタシは……皆さんのチカラになりたいです』
その声は、いつもの淡々とした電子音よりも、少しだけ柔らかく響いた。
かつての持ち主が病で亡くなり心を閉ざしていた自分を再構築し、自分と同じように様々な理由を抱いて落ちてきた界外遺物たちを再び「道具」として誇り高く蘇らせるアルドを近くで見てきた。
そんなレイの中に、「自分もまた、この世界で誰かの役に立てるのではないか」という微かな、けれど確かな光が宿っていた。
「……レイ。本気か?」
『ハイ。……マスター、ワタシの本来のチカラが、この街の誰かを繋ぐチカラになれるのなら、それは……ワタシにとっても、光栄なことです』
「……ふん。分かったよ。お前がそう言うなら、俺が止める理由はねぇな」
「おおお……! レイさんん!なんという高潔な精神! 敬服いたしますぞ!! アルド氏ぃ!実に、実に素晴らしい相棒をお持ちですなぁ!!」
ルビィは感激に震えながら、恭しくレイを解析装置へと導いた。
「1時間ほどいただけますかなアルド氏! このルビィ、必ずや魔導具の歴史を塗り替えてみせますぞ!!」
研究室の重い扉が閉まり、背後からはルビィの「おお、この回路は……!」という興奮した声が微かに漏れ聞こえてくる。
1人になったアルドは、ギルドの塔の長い階段を降りながら、今は側にいない相棒のことを想った。
「……力になりたい、か。……あいつ、少しずつ変わってやがるな」
かつて、主を亡くした悲しみに凍りついていた『黒き鏡』。
それが今や、自らの意思で新しい世界の誰かを繋ごうとしている。
アルドは少しだけ誇らしいような、気恥ずかしいような心地で鼻を鳴らした。
1階のホールに降り立ち、街の喧騒に踏み出そうとしたその時。
――ガリッ!
耳元で、砂を噛んだような鋭いノイズが走った。
ルビィが調整し、不快な音を遮断したはずの耳。その奥底へ直接爪を立てるような、禍々しい響き。
「何だこの音は? さっきよりも……」
アルドは立ち止まり、顔をしかめて周囲を見渡した。
だが、音の出所がわからない。
上から降り注いでいるようでもあり、足元から地響きのように伝わってくるようでもある。
完璧にメンテナンスされたはずの耳が、逆にその「正体不明の音」を過敏に拾い上げ、平衡感覚を狂わせていく。
「……クソっ」
不快感を振り払うように、アルドは歩き出した。
どこへ行けばいいのか。何を探しているのか。自分でも自覚はない。
人混みを掻き分け、早足で街を駆ける。
無意識のうちにアルドが辿り着いたのは、つい先ほど通り過ぎたばかりの『仕立て屋街』だった。
明日もお楽しみに!




