item3 不動の二輪(Ⅶ)
続きです。
修理パートです。
「う、うわぁっ!? 形が変わった!? おいアルド、お前それ……何したんだよ!」
フェインが目を見開いて叫ぶ。アルド自身も、右手に残るズシリとした重みと、その奇妙な形状に目を剥いた。
「…… なんだこれ……。杭、か? 針ですらなくなっちまったぞ……」
『レンチ……イエ、「六角の杭」と呼びましょうか。マスターの強い願いにより、形状が変化したと考えられます。この形ですと「彼女」を固着から救えるかと』
呆然とするアルドの耳元で、レイの電子音がどこか誇らしげに響く。
『使い方は単純です。マスター。その杭の先端を、彼女の魔力回路の接合部――すなわち、彼女が自ら閉ざした「心のネジ穴」を思い切り締め上げます』
「……ネジ穴……?」
『肯定。締めるため「平針」と使い方は似ていますが、コチラは面で撫でるのではなく、多角的な圧力でその身を「支配」することに特化しています。1度地面との固着を外した後、一気に締め上げれば彼女の暴走した魔力回路は物理的、および魔力的に上書きされ、沈黙すると考えられます』
アルドは手の中の「杭」を強く握り直した。
無機質な金属のはずなのに、不思議と手の馴染みはいい。まるで、最初からこうなる運命だったかのように。
「……支配、か。……はっ、ガラじゃねぇが……やってやるよ」
アルドは手の中の『六角の杭』を逆手に握り直し、若草色の車体へと踏み込んだ。
拒絶の火花がパチパチとアルドの頬を焼くが、その目はもう逸らさない。
「ちょっと痛むが……許せよな!!」
アルドは杭の先端を、石畳と車輪が癒着した「呪いの支点」に深々と突き立てた。『六角の杭』は地面に吸い込まれるように深く突き刺さる。
テコの原理を利用し、全身のバネを爆発させて一気に引き上げる。
「っ、らあぁぁぁあ!!」
ガリガリと火花が散り、嫌な金属音が広場に響く。
地面に縛り付けていた過去――事故のトラウマが、アルドの力によって強引に剥ぎ取られた。
『嫌! 離して! 私を、ここに置いていって……!』
なおも拒絶し、暴れようとする二輪。
ブォンッ!と暴れた鉄板がアルドに襲いかかる。
「アルド!危ねぇ!」
横から飛び込んできたフェインが、剥き出しのフレームに組み付いた。フェインの腕が、猛る二輪を地面にねじ伏せる。
「ぐっ……!マジでヤバいな……!おいアルド! さっさとしろよ! こいつ、見た目より力が強ぇ……骨折れる!!」
「フェイン……! 悪ぃ、助かる!」
暴れる「恐怖」をフェインが力で抑え込み、その隙間にアルドが「救済」を叩き込む。
「 オマエが縛られているモノは、地面じゃねぇ……ッ!」
アルドは左手を浮かび上がった魔力回路の中枢へ突き立て、黄金の魔力で「法」を殴り書く。
そして、フェインが押さえる車体の中心――最も深く、固く閉ざされた「心のネジ穴」に、『六角の杭』をガチリと噛み合わせる。
「オマエが従うルールはコイツだぁあ!!」
【――テメェの許可なく、暴れさせねぇ!!】
アルドの腕は血管が浮き出て、一気に限界まで杭を締め上げた。
――ガチリ。
世界が静止したような錯覚。
アルドが『六角の杭』を締め切った瞬間、荒ぶっていた車体からふっと力が抜けた。
荒れ狂っていた火花は黄金の粒子へと姿を変え、広場を優しく照らし出す。
「……ふぅ、う……。終わった、か……?」
フェインが恐る恐る腕を解き、地面に座り込む。
そこには、かつての禍々しい赤黒い飛沫を失い、月の光を浴びてしっとりと艶めく若草色のキックボードが静かに佇んでいた。
『……あ……』
アルドの頭の中に、小さく、震えるような声が響く。
それは拒絶ではなく、長い悪夢から目覚めたばかりのような、澄んだ声だった。
『身体が……軽い……?私、縛られているのに……守られてる……?』
「ああ……。もう身勝手なヤツは乗せねぇよ……。あんな思いは……もうごめんだからな」
『……そう……なの……。嬉しいわ……!』
アルドが『六角の杭』をゆっくりと引き抜く。それと同時に張り詰めていた結界――『夜の帳』が、ガラスが割れるような音を立てて霧散した。
待たせたなぁ!
今日も遅刻だよコノヤロー!
次回二輪編最終回です。
「氷の令嬢〜」完結しました!
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