item3 不動の二輪(Ⅲ)
続きです。行きで聞こえていた声の原因は……?
帰りに少しだけ食糧を買って帰ろうと思い市場に向かおうとするが、武具屋に行くときに聞こえていた喧騒は収まるどころかさらに大きくなっているように感じた。
『マスター。音声解析の履歴と周辺の状況を合わせますと、「突如として二輪車が降り落ちた」ことによる「困惑」と「驚愕」により喧騒が大きくなっていると推測されます』
「……降り落ちた? ってことは界外遺物ってことか……」
アルドは空を見上げたが、界外遺物が降ってくる『空の裂け目』らしきものはなく、ただただ雲1つない青空が広がっているだけである。疑問に思い眉をひそめたが、突然、スキルを制御するピアスから、キィィィィン……とルーンが反応する音が聞こえ、耳の奥を刺すように震えている。
(……ピアスが反応した……!?それに、何だこのさっきから聞こえる不快な音は……? この前の『額縁』とも違うが……)
物に触れなければ声は聞こえないはずだ。それなのに、ピアス越しに伝わってくるこの不協和音は何なのだ。
アルドは顔をしかめ、無意識に人だかりを割って広場の中心へと向かっていた。
人だかりの隙間から見えたのは、石畳の上に鎮座する、鮮やかな若草色の鉄板だった。
2つの小さな車輪と不自然に直立した取っ手。だが、その瑞々しい色を汚すように、車体のあちこちには、どす黒く変色した「赤い飛沫」がこびり付いている。
周囲には、力任せに取っ手を引っ張ってもビクともしないことに苛立つ男や、気味悪そうに杖を向ける魔導師たちがいた。
「おい、これびくともしねぇぞ! どっかに隠し鍵でもあるのかよ!」
「触るんじゃないわよ。呪いの類だったらどうするの!ここは魔法で……!」
魔導師の1人が杖を掲げ火球を生成し鉄板へ放つ。しかし、放たれた火球は破壊されたというより、初めから存在なぞしていなかったように霧散した。
「……なんだ……あれは」
背筋を這い上がるような悍ましさ。
こびり付いた「赤」が、元の持ち主の無念を叫んでいるようで、本能が「関わるな」と警鐘を鳴らす。
だが、その一方で。
アルドの指先は、不快な音を奏でるピアスの振動に呼応するように、微かに熱を帯びていた。
(気持ち悪りぃ……。だが、この『織針』なら……アイツの「心」に、届くのか……!?)
一度でも界外遺物たちの声を聴き、それを最適に繋ぎ直す悦びを知ってしまった職人の業。恐怖を上回るほどの「視てみたい」という渇望が、彼の呼吸を乱していく。
『マスターの心拍数上昇を確認。動揺の類と思われます』
「そんなこたぁ……わかってんだよ……」
アルドは乱暴に自分の胸を叩き、一歩、また一歩と、呪われた若草色の二輪へと歩みを進めるのであった。
遺物が出てきましたねー
若草色の二輪車といえば……?
今回のエピソードですが、次回以降ちょっぴり苦しい展開になっていきます。
セルフレーティングは入れましたが人の亡くなる描写を入れていますので、ご理解をお願いします。
※その際は該当回の前書きに注意事項を記入しておきます。




