item2 虚空の額縁(Ⅸ)
item2最終話です!
――カチリ
最後の一箇所。楔が完璧な位置に収まった瞬間、暴走していた魔力の奔流がスゥ……と静まり返った。
ミシミシと隔離室を圧迫していた巨大な筐体は、溜まった熱を吐き出すように霧散し、元の大きさへと静かに収束していく。
「……ハァ、ハァ……。どうだ、ルビィ」
「……完璧です、アルド氏! 魔力回路の濁りが……完全に消えました!」
砂嵐が止み、一瞬の静寂が訪れる。
暗転した画面の向こうから、今度はノイズではない、澄んだ「声」が直接脳内に響いてきた。
『……あたたかい……。もう、いたいのは……こないの?』
「……あぁ。もう来ねぇよ。……大丈夫だ」
アルドが不器用に、けれど確かな確信を込めて応える。
すると、真っ黒だった画面にポッと灯りがともった。
「なっ……遺物が光った……!」
ルビィは驚きを隠せなかったが、アルドはそれを「メッセージ」だと受け取った。
映し出されたのは、いつかの牧場。
けれど今度は遠くから眺める映像ではない。画面の中の家族が、まるでそこにいるアルドへ向けるように、温かな笑顔で手を振っている。
『ぼく……もう、ひとりじゃ、ないよね?』
それは、粉砕機にかけられ、暗いゴミ捨て場に打ち捨てられた時に、彼が1番欲しかった言葉。
アルドは画面の中に映る、自分を見つめる「家族」の眼差しを真っ向から受け止めた。
「……当たり前だ。お前は、まだ現役だろ。……いいもん映してんじゃねぇか」
アルドがそう呟いた瞬間、画面の中の少女がパッと花が咲いたように笑った。
それは記録された「過去の映像」か、それとも遺物が見せた「夢」だったのか。
――やがて画面は穏やかに消え、後には、ただ静かに佇む古ぼけた「額縁」だけが残された。
「……終わったな」
アルドは本来のサイズに戻った『額縁』へそっと労うように手を置いた。
先ほどまでの熱狂が嘘のように、隔離室には静かな空気が流れている。
「アルド氏……!ありがとうございます……!ノイズが止まるどころか、今まで『ガラクタ』とまで称された遺物の魔力回路を繋げることで、実用可能レベルとなるなんて……!」
ルビィは眼鏡を拭いながら、愛おしそうに『額縁』を見つめた。
「この界外遺物……いえ、『この子』は、私が責任を持って魔法ギルドで管理します。……ううん、『管理』なんて言葉はふさわしくありませんね」
ルビィは「額縁」に向き直り、まるで新しい同僚に挨拶するように胸を張った。
「君には、私たちの仕事を手伝ってもらいます!その優れた投影能力と魔力変換効率があれば、新たな魔導具の開発、運用において君はかけがえのないパートナーになれます!……もう、独りにはさせませんからね!」
ルビィの宣言に応えるように、額縁の表面が1度だけ柔らかく瞬いた。
「……おい。……良かったな。……偶に見に来るからよ」
アルドが不器用にそう呟いた直後、脳裏に無機質な、だがどこか楽しげな声が響く。
『マスターの心拍数上昇を確認。コレは……照れていますね。この状況を表す言葉には『くーでれ』が相応しいかと』
「レイ。言葉の意味はわからんが俺を馬鹿にしているな。……ルビィに解剖されちまえ」
アルドはそう吐き捨てると、顔を背けて歩き出した。
「あ、アルド氏! 待ってください、まだ今後の書類がぁーっ!」
慌てるルビィの声を背中で聞き流しながら、隔離室の重い扉を閉める。
廊下の窓から見える空は、いつの間にか深い紺色に染まり始めていた。
懐の織針を指先でなぞれば、そこにはまだ、あの『額縁』の楔の位置を直した時の微かな熱が残っている。
(……今夜は、いい夢が見れそうだな)
あんな胸クソ悪いバラバラの記憶、上書きしてやるには十分すぎる「いい仕事」だった。
アルドは小さく息を吐き、重い足取りながらも、どこか軽い足取りで夜の街へと消えていった。
な、長かった……!
ひとまずitem2はこれで終わりです!
明日からは新しいエピソードです!




