星界の嘘と、冷たい手
星舟《アルビレオ号》は、最初の寄港地である浮遊島に接舷した。 雲海の上に浮かぶこの島は、かつて星界探査の最前線基地として栄えた場所であり、今は観光と魔導交易の拠点となっている。
「うわぁ……! 街が浮いてる……本当に浮いてるよ、ソラ!」 キマリアは、地上のフィレンツェとは違う、開放的な空の街並みに瞳を輝かせた。
二人は、探査隊の娘として特別に許可された「旧管制塔」を訪れる。そこには母たちが残したかもしれない記録があるはずだった。 だが、そこでキマリアが出会ったのは、美しい景色とは裏腹な、冷たい現実だった。
「……記録はすべて、アドニムーン機関によって封鎖されています」 管理官の言葉は機械的で、冷たかった。 さらに街の広場では、魔力が枯渇しかけている「下層民」たちが、上層の豊かな魔導供給を求めて抗議活動を行っていた。
「空の上なら、みんな自由で幸せだと思ってたのに……」 キマリアの落胆。そこに、一人の少女が声をかける。 「自由なんて、ただの幻想よ。この島を浮かせるために、どれだけの命が削られているか、あなたたちは知らないのね」
その少女──結月。彼女は若くして有名な魔導タレントとして活動しているが、その瞳には深い孤独と諦めが宿っていた。
一方その頃、地上のピッコロッソ。 神月がリバティ島から送信されてきた傍受データに顔をしかめていた。 「……始まったわ。機関がリバティ島の魔導炉を暴走させて、アルビレオ号を足止めしようとしてる」
星月は即座に立ち上がった。 「……現地へ行く。神月、転送術式を組め」 「無茶よ、星月! 距離がありすぎるわ!」 葉月の制止を振り切り、星月は魔導銃を握りしめる。 「あの子は、今、初めて『世界の嘘』に触れているはずだ。心が折れる前に……私がその嘘を撃ち抜く」
リバティ島の夜。 キマリアとソラ、そして結月の三人が展望台にいた時、突如として島が大きく揺れた。 魔導炉の暴走。島の高度が急激に下がり始める。
「きゃあぁぁ!」 崩れる足場。キマリアの手が、結月の冷たい手を掴んだ。 「離さないで! 結月ちゃん!」
絶体絶命の瞬間、夜空から一筋の青い光弾が飛来した。 それは暴走する魔導炉の核を正確に射抜き、エネルギーの暴走を一時的に凍結させた。
「……あの弾道、まさか」 キマリアが空を見上げると、そこには魔導転送の残光を背負い、ボロボロになりながらも銃を構える星月の姿があった。
星月はキマリアに背を向けたまま、短く告げる。 「……前を見ろ、キマリア。ここはまだ、通過点だ」
星月が命懸けで繋いだ数分間の静寂の中で、ソラが予備の魔導回路を再起動させ、島は再び安定を取り戻した。
翌朝。旅立つキマリアたちを、結月が複雑な表情で見送る。 「……あなたたち、本当にバカね。でも、そのバカな旅に……私もついていっていい?」
新たな仲間、結月の加入。 だが、星月は転送の負荷で倒れ、葉月たちに抱えられてフィレンツェへと強制送還されることになった。
「……あとは頼んだわよ、キマリア」 薄れゆく意識の中で、星月は少女たちの未来を祈った。
次章『氷の海、赤の復讐』 舞台は極寒の氷雪地帯へ。キマリアたちの絆が試される。




