魔弾と水族館の約束
魔導都市フィレンツェの深部には、失われた時代の魔導技術を維持するための巨大な「魔導水族館」がある。そこは、かつて星界から持ち帰られたという「光る魚」たちが泳ぐ、幻想的な場所だ。
「……ここが、アドニムーン機関の取引現場か」
星月は、潜水服を模した魔導防具に身を包み、薄暗い回廊に潜んでいた。 神月の解析によれば、機関はここで「星舟のエンジンを遠隔停止させるコード」を取引しようとしている。もしそれが渡れば、空にいるキマリアたちの船は墜落する。
「星月、準備はいい? オレの方は裏口の術式を書き換えたわ」 通信機から葉月の声が聞こえる。彼女は非殺傷のトラップを仕掛け、敵の退路を断つ役割だ。
取引が始まった。黒いマントを羽織った機関の男たちが、謎の魔導チップを差し出す。 「これで《アルビレオ号》は、空の藻屑となる……」
「させない!」
星月が回廊に飛び出した。魔導銃が火を噴き、敵の護衛を次々と無力化していく。 だが、機関が用意していたのは、水族館の「水」を媒介にした大規模な魔導兵器だった。
巨大な水槽が爆発し、濁流が襲いかかる。その中から現れたのは、強化改造された魔導兵士たちだった。 「くっ……水の抵抗で弾道が逸れる!」
苦戦する星月の前に、青い光が走った。 「星月、伏せて!」
葉月の放った特殊魔弾が、濁流を瞬時に凍結させ、道を作った。 「一人でカッコつけないでよ。オレたちは『二人で一つ』の喫茶店員でしょ?」
二人は背中合わせになり、襲いかかる敵を迎え撃つ。 星月が敵の装甲を剥ぎ、葉月がその隙間に非殺傷の麻痺弾を撃ち込む。息の合った連携。かつて騎士団で孤高だった星月にとって、それは初めて知る「信頼」の形だった。
激闘の末、星月は取引されたチップを奪い取ることに成功する。 崩れゆく水族館。魚たちが光の粒子となって消えていく中、星月は神月の声を聞いた。
『……確保したわ。エンジン停止コードの無効化、完了。あの子たちの船は、無事よ』
星月は安堵の溜息をつき、凍りついた水面を見つめた。 「……葉月。いつかあの子たちが帰ってきたら、今度は戦いじゃなく、本物の魚を見せてやりたいな」
「ええ、約束ね。その時は特製のシーフードパスタでも作ってあげましょう」
地上で静かに、だが確実に守られた空の旅。 その頃、星舟の甲板で夜空を見ていたキマリアは、ふと不思議な感覚に包まれた。
「……今、誰かに守られたような気がした」
彼女の旅を支える祈りは、地上の底からでも、空の果てまで届いていた。
次章『星界の嘘と、冷たい手』 キマリアたちは、最初の寄港地《浮遊島リバティ》で、世界の美しさと、そこに隠された残酷な真実を目にする。




