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護衛任務と幻の魔導士

魔導都市フィレンツェの朝は、深い霧に包まれていた。 街路の石畳が湿り気を帯び、空に伸びる魔導塔の影が不気味に長く伸びている。


魔導喫茶ピッコロッソの扉が開くと、葉月の軽やかな声が響いた。 「おはよう、星月。昨日あのキマリアが言ってたこと、聞いた? 『空へ行く』なんて、あんなに真っ直ぐな瞳で言われちゃうと、オレたちも負けてられないわね」


星月は無言で頷き、カウンターで魔導銃のシリンダーを確認した。 「……無謀な話だ。だが、あの少女には迷いがなかった」


その時、店内に神月が魔導端末を片手に現れた。彼女の表情はいつになく険しい。 「依頼よ。護衛対象は“フランチェスコ”。……彼の正体は、星界航路の暗号化データを保持している伝説の解析士よ」


葉月が眉をひそめる。 「星界航路……。あの子が目指そうとしている場所の鍵を、彼が握っているってこと?」


神月は端末を操作し、地下魔導路の地図を映し出した。 「ええ。現在、都市の魔導情報を独占しようとする勢力が彼を狙っている。接触地点は廃棄された魔導倉庫。急ぎましょう」


三人は魔導都市の地下へと向かった。 霧が立ち込める地下倉庫の奥、フードを被った小柄な人物が立っていた。彼こそがフランチェスコ──後の仲間となるグランデロッソその人であった。


接触した瞬間、倉庫の天井が崩落し、武装した魔導士たちが現れた。 「フランチェスコを渡せ! 星界の座標は我々《アドニムーン機関》が管理する!」


星月は即座に銃を抜き、敵の魔導障壁を撃ち抜く。 「渡さない。この情報は、誰かの夢に必要なものだ」


葉月も非殺傷魔弾で敵の動きを封じるが、混乱の中でフランチェスコは敵の魔導弾を受け、光の霧となって消えてしまった。


「死んだ……のか?」 星月が呟くが、葉月は足元に落ちていた小さな魔導チップを拾い上げた。 「違うわ。これは高度な身代わり魔法。彼は生きてる。……そして、このチップには星界への『第一の座標』が書き込まれているみたい」


その夜、ピッコロッソに戻った彼女たちの前に、一人の少女が裏口から忍び込んできた。 「……ふぅ、死ぬかと思った。ここ、安全な場所って聞いたんだけど?」


神月が端末を向け、彼女の正体を暴く。 「彼女がフランチェスコの真の姿、グランデロッソ。魔導解析の天才よ」


グランデはカウンターに座ると、不敵に笑って言った。 「星界に行きたい奴がいるんだって? 面白そうじゃない。私が解析してあげてもいいわよ。その代わり、美味しいクッキーと紅茶、用意しなさいよね」


葉月は笑顔で紅茶を差し出した。 「もちろん。魔導喫茶ピッコロッソへようこそ」


一方その頃、学院の寮では、キマリアがソラと共に荷造りをしていた。彼女たちはまだ知らない。自分たちがこれから進む道の安全が、地上の喫茶店で戦う三人の女性によって守られたことを。


魔導都市の夜空には、星が瞬いていた。 その光は、地上と空を結ぶ絆のように、静かに輝いていた。


次章『星界の切符』 キマリアたちが、星舟への乗船を懸けた試練に挑む。

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