黒い太陽と、最後の注文
母の遺した航路図が輝く中、星界の空が突如として「黒」に染まった。 《アストラル・コア》の直上に現れたのは、アドニムーン機関の総帥、ヴァルガス。彼は自身の肉体を魔導変換し、星界の負のエネルギーを喰らう「黒い太陽」と化していた。
「無知なる少女たちよ。星界とは、選ばれた強者が世界を再構築するための揺り籠に過ぎん。貴様らの矮小な『思い出』ごと、無に還してやろう」
ヴァルガスが放つ「絶望の重力」が、アルビレオ号を、そして地上のフィレンツェをも飲み込み始める。地上の空には巨大な魔法陣が展開され、人々の魔力が強制的に吸い上げられていく。
一方、地上の瓦礫。 「……神月、街の魔導回路が逆流してるわ! このままじゃフィレンツェが灰になる!」 葉月の叫びに、星月が新生魔導銃を構え直す。
「葉月、神月。……最後に一仕事といこう。注文は『世界の救済』……。これ以上の難題はないな」 星月は不敵に笑い、自らの魂の一部を弾丸として銃に込めた。
星界では、キマリアたちが絶体絶命の危機に陥っていた。 「船が……動かない! 重力で押し潰される!」 「キマリア、逃げて……!」 ソラや結月が力尽きようとしたその時、キマリアの耳に、いつもの「あの音」が聞こえてきた。
──カラン、コロン。
それは、瓦礫の中に残された、ピッコロッソの入り口のドアベルの音。 通信を介して、葉月の穏やかな声が響く。
『キマリア、注文を確認するわ。……最高の笑顔で、地上へ帰ってくること。……いいわね?』
地上の星月と葉月が、残されたすべての魔力を一つに合わせた。 「──撃て、星月!」 「──行け、キマリア!」
地上の瓦礫から放たれた青い閃光と、星界でキマリアが杖から放った純白の光。 二つの光が「黒い太陽」の外殻にヒビを入れる。
「な……何だと!? 拠点を失った貴様らに、どこにこれほどの力が……!」
「場所なんて関係ない! 私たちの心の中に、最高の喫茶店はまだ営業中なんだよ!」
キマリアの叫びと共に、アルビレオ号が重力の檻を突破し、光り輝く槍となってヴァルガスの心臓へと突っ込む。
だが、ヴァルガスは狂ったように笑った。 「……ならば、この星界ごと心中させてやろう! 自爆シークエンス、起動!」
星界が崩壊を始め、次元の壁が剥がれ落ちていく。 本当の地獄は、ここからだった。
次章『次元の亀裂、空から降る絶望』 崩壊する星界から脱出を試みるキマリアたち。一方、地上では騎士団の闇が再び星月たちに迫る。




