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星界しゃくまんエルと少女の予感

魔導都市フィレンツェの片隅にある学舎《セレノア学院》。 その中庭で、キマリア・エル=ノヴァは一人、風に吹かれながら手帳を開いていた。


周囲では、仲間たちが魔導の実験や課題に取り組んでいる。 だが、彼女の心はどこか空虚だった。


「青春って、なんだろう……」


古びた手帳。最後の項目に書いた「青春する。」という言葉が、今の自分をあざ笑っているように見えた。もう二年目の春。キマリアは、何も始まっていない自分に焦りを感じていた。


昨日、気分転換に立ち寄った《魔導喫茶ピッコロッソ》のことを思い出す。 あそこの店主、葉月は「夢を見る時間は誰にでも必要」と言って笑っていた。そして、新しく入ったばかりだという無愛想な店員──星月。彼女の腰に差された魔導銃は、明らかに戦場の匂いがした。


「……私も、あんな風に自分の意志で動けたら」


その夜、キマリアは自室で古い魔導地図を広げる。 空の果てにある《星界》。かつて星界探査隊の一員として消息を絶った母が、最後に向かった場所。


翌朝、親友のメグ=ハイリスに、胸の内にあった熱い塊をぶつけた。 「学院を抜け出して、一人旅に出てみようと思うの」 メグは驚きながらも、静かに背中を押してくれた。 「行ってきなよ。キマリアなら、きっと何か見つけられる」


だが、キマリアは出発の直前、駅のホームで足がすくんでしまった。 「無理だよ、私一人じゃ……」 結局、切符を買うことすらできず、逃げるように学院への帰り道を歩く。


その時だった。 前方を行く一人の少女が、鞄から封筒を落とした。 「あ、待って!」 拾い上げたキマリアは、封筒の重さに目を見開く。中には十万エルもの金貨が入っていた。


翌日、学院で持ち主を探すと、同じ学年の少女、ソラ=フェルミナが名乗り出た。 彼女は、キマリアと同じ「探査隊の娘」だった。


「この十万エルは、旅の資金。私が自分で稼いだの。母さんがいる星界へ行くために」


ソラの瞳には、一点の迷いもなかった。その輝きは、昨日ピッコロッソで見た店主たちの瞳と同じだった。 キマリアの心に、火が灯る。


「私も……行きたい。星界へ」


ソラは一瞬驚いたが、すぐに微笑んだ。 「なら、まずは星舟の見学に行こう。西の港町クレアまで」


キマリアは、初めて本気で旅に出る決意をした。 その日の放課後、彼女は再びピッコロッソの扉を叩いた。 カウンターに座る星月に、キマリアは宣言するように言った。


「私、青春、始めることにしました。空へ行きます」


星月は少しだけ目を見開き、隣にいた店主の葉月が嬉しそうに紅茶を差し出した。 「いい顔になったわね。……風よ、始まりを告げよ」


キマリアは紅茶を飲み干し、力強く頷いた。 彼女の生活が、そして運命が、少しずつ変わり始めていた。


次章『護衛任務と幻の魔導士』 地上では、星月たちが新たな影を追い始める。

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