ゼロの地平、再会の味
魔導都市フィレンツェの片隅。かつて温かな光を放っていた「魔導喫茶ピッコロッソ」は、今や冷たい瓦礫の山と化していた。
「……終わったのか。全部」 神月は、埃を被った魔導端末の画面を見つめながら力なく呟いた。 特異点を形成し、世界のシステムから葉月を切り離した代償として、店は消滅し、星月の魔導銃は砕け散った。
瓦礫の中で横たわる葉月が、ゆっくりと目を開ける。 「……星月? 生きてるの?」 その横には、体中の魔力を使い果たし、荒い息をつく星月がいた。彼女は無言で、ボロボロになったエプロンの切れ端を葉月に差し出した。
「店は……なくなった。だが、お前はここにいる」 星月の声は掠れていたが、その瞳にはまだ火が灯っていた。
一方、星界の《アストラル・コア》。 鏡越しに地上の光景を見ていたキマリアは、涙を拭い、杖を強く握りしめた。 「……ピッコロッソは、建物じゃない。私たちが帰って、あのお茶を飲みたいと思う気持ち、そのものがピッコロッソなんだ」
キマリアは神殿の最深部、母の思念が眠るコアへと歩を進める。 そこに現れたのは、母が遺した最後の仕掛け──『星界の蓄音機』だった。 それは、地上の「音」を星界のエネルギーに変える、失われた時代の魔導具。
「ソラ、結月、メグ! 力を貸して。地上の二人に、私たちの声を届けるんだ!」
四人は円陣を組み、歌い始めた。それは、かつてピッコロッソで流れていた、何の変哲もない日常の鼻歌。 その歌声は、星界のコアを共鳴させ、次元の壁を越えて地上の瓦礫へと降り注いだ。
「……この歌、知ってる」 葉月が震える指で、割れたティーカップの破片を拾い上げる。 不思議なことに、キマリアたちの歌声に合わせて、瓦礫の中から微かな魔力が湧き上がり、即席の魔導回路を形成していく。
「神月、まだやれるわね?」 「当然よ! この歌、最高のリズムだわ!」 神月は瓦礫を机代わりに、空中に浮かぶホログラムを操作し始めた。
そして、星月は砕けた愛銃のパーツを拾い集め、それを葉月の魔導心臓から溢れる青い光で繋ぎ合わせた。 「……新しい銃の名前は決まった。《ピッコロッソ》。あの子たちが帰る道を、この一撃で切り拓く」
地上と空。 物理的な「店」は失われても、彼女たちの絆は「世界」という名の巨大な喫茶店へと広がり始めていた。
「さあ、開店の準備だ。最後のお客さんは、あの黒幕の男よ!」
次章『アストラル・ライブラリの番人』 ついに母の姿をした「偽りの守護者」が、キマリアたちの前に立ちはだかる。




