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青い血液と、喫茶店の終わり

《アストラル・コア》の守護者たちを解放するたび、神殿は浄化の光に包まれていく。だが、その光は「星界の毒」を葉月という中継器へ押し流す、死の濁流でもあった。


地上のピッコロッソ。店内の魔導ランプはすべて不気味な青色に染まり、葉月の体は指先から粒子となって崩れ始めていた。彼女の魔導心臓は、過負荷で甲高い悲鳴を上げている。


「葉月! しっかりしろ! 誰か……神月、なんとかならないのか!」 星月は、消えゆく葉月の肩を必死に抱きしめる。だが、その指はもはや、透け始めた彼女の体を通じ、背後の壁に触れそうになっていた。


神月は涙を浮かべながら、激しく端末を叩く。 「……ダメよ。アストラル・コアの再起動が始まったことで、システムは地上にある『不要な予備端末プロトタイプ』を消去しようとしてる。葉月の存在そのものが、世界のシステムによって『ゴミ』として処理されてるのよ!」


「そんなことが……あってたまるか!」


一方、空の上。 守護者たちをすべて救ったキマリアは、神殿の最奥にある巨大な鏡の前に立っていた。そこには、地上のピッコロッソで血を吐くように苦しむ葉月の姿が映し出されていた。


「……葉月さんが、消えちゃう……? 私が、救ったから? 私たちが頑張れば頑張るほど、葉月さんが死ぬなんて……そんなの、おかしいよ!」 キマリアの膝がガクガクと震える。救うために来たはずの場所で、自分を待ってくれている人を殺そうとしている。矛盾に引き裂かれ、キマリアの手から魔導杖が滑り落ちた。


鏡の中から、アドニムーン機関の首領の冷笑が響く。 「それが『星の意志』だ。新しい世界のために、古い部品は廃棄される。さあ、キマリア。最後の一歩を踏み出し、コアを完全起動させろ。世界は救われるが、あの喫茶店と店主は永遠に消滅する」


「……そんなの、そんなの……嫌だ! 葉月さんがいない世界なんて、救ったって意味ないよ!」


絶望に沈むキマリアの耳に、星月の、怒鳴るような、だが慈愛に満ちた声が届いた。


『──迷うな、キマリア! 前を見ろ! 葉月は……オレが、死んでも守る!』


星月はピッコロッソのカウンターを蹴り飛ばし、床下に隠されていた禁忌の魔導回路を露出させた。 「神月、店の魔導炉を暴走させろ! 物理法則を逆転させ、この店ごと『世界のバグ(特異点)』にするんだ!」


「そんなことをしたら、星月! 店の座標が消失して、あんたも、店そのものも、歴史から消えるわよ!」


「構わん。……あの子たちが帰ってきて、お茶を飲む場所がないのは困るが……淹れる主人がいないよりはマシだ。ピッコロッソ(小さな赤)を、ここで世界一デカい火花に変えてやる!」


星月が砕けかけた銃を回路に突き立てる。激しい閃光がピッコロッソを包み込んだ。 魔導都市フィレンツェの片隅で、静かに愛されてきた喫茶店が、爆炎と共に地図から消失した。


キマリアが空の上で絶叫する。 「葉月さああぁぁぁん!!」


白光が収まった後、瓦礫の山の中には、意識を失った星月と、実体を取り戻した葉月が重なり合って倒れていた。だが、そこにはもう、扉も、看板も、使い慣れたカップも、何ひとつ残っていなかった。

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