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余命短い貴族と、偽りの招待状

《終焉の門》を越えた先は、重力が希薄になり、色とりどりの星屑が川のように流れる幻想的な空間だった。 だが、その静寂を破るように、アルビレオ号へ一通の「魔導招待状」が届く。


『星界へようこそ、勇敢な乙女たち。我が館にて、旅の疲れを癒やしてほしい。……キマリア、君の母さんの話もしよう』


差出人の名は、ロベルト・ガリレイ。かつて地上のフィレンツェで非業の死を遂げたはずの魔導貴族だった。


キマリアたちは、星の海に浮かぶ古風な洋館へと降り立つ。 そこで待っていたのは、車椅子に乗り、透き通るような肌をした青年、ロベルトだった。 「……驚かないでほしい。私は、アドニムーン機関によって精神だけをこの星界へ転送された、命の残り滓のような存在なんだ」


ロベルトはキマリアたちを歓待した。温かい食事、柔らかなベッド。そして何より、彼が語る「母・報瀬」の思い出話。 「彼女は、君のためにこの世界を変えようとしていた。……さあ、その手帳に最後の一節を書き込めば、君も彼女と同じ場所にいけるよ」


その甘い言葉に、過酷な旅を続けてきたキマリアの心が緩みかける。だが、ソラは洋館の地下から漂う、ロベルトの言葉とは裏腹な「腐敗した魔力」の揺らぎに気づいていた。


一方、地上のピッコロッソ。 復旧作業中の神月が、端末に表示された奇妙な波形を見て叫んだ。 「……罠よ! ロベルト・ガリレイはもう人間じゃない。機関が彼を『精神の檻』として改造し、キマリアたちの魂を収穫しようとしてる! あの洋館自体が、巨大な捕食回路シュレッダーなのよ!」


星月は即座に銃を掴んだ。 「……キマリアの『母に会いたい』という願いを餌にするとは。吐き気がするな」 葉月は、自分の胸にある魔導心臓が、ロベルトの絶望的な叫びと共鳴するのを感じていた。 「……ロベルト、あなたはまだ解放されていなかったのね。……星月、ピッコロッソの予備電源をすべて通信に回して。一瞬だけでいい、あの子に『真実』を伝えるわ!」


星界の洋館。 ロベルトは悲しげな笑みを浮かべ、キマリアの手にペンを握らせようとした。 「キマリア……君の母さんも、ここで『一部』になった。君も、寂しくはないはずだ……。さあ、書いて。君の物語の、終わりを」


その瞬間、キマリアの耳元で、通信途絶していたはずのインカムから星月の鋭い声が響いた。 『──書くな、キマリア! その男はもう、絶望を映す鏡にすぎない! その手帳は、お前の未来を食い潰すための契約書だ!』


「……っ!」 キマリアが飛び退くと同時に、洋館の壁が脈打つ肉塊のような魔導回路へと変貌した。ロベルトの姿が黒く歪み、巨大な魔導障壁が彼女たちを閉じ込める。


「……ごめんね、キマリア。僕は……僕は、誰かを道連れにしないと、死なせてもらえないんだ……!」 ロベルトの瞳から、黒い魔力の涙が流れる。


キマリアは恐怖を抑え、杖を構えた。 「……ロベルトさん。貴方の絶望を、私たちが星界の果てまで連れて行くわけにはいかない! お母さんは、ここで終わったりなんてしてないはずだ!」


地上の星月が放つ信号と、空のキマリアの意志が重なり、嘘で塗り固められた「招待状」は青い炎となって焼き払われた。

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