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タバコ屋で働く学生のお話  作者: 竹子


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9/33

九本目

今日もバイトはなかった。

薫はいつものように飲み歩き、近所の小さな公園に辿り着いたとき、すでに酔いでふらついていた。手にはまだ冷たいスミノフの缶を握っている。

街灯の光が届くベンチの下に目を向けると、ひとりの女の子が立っていた。

白いモコモコのパーカーかコートを着ている。今は11月の初め。夜はなかなか冷えるが、彼女は微動だにせず、地面を見つめていた。

誰か男でも待っているのかと思い、なんとなく横目で様子を伺う。「あの手の女の子でフリーだったことはないな」と、ろくに顔も見ずに決めつける。

けれど、通り過ぎたのはまったく関係のない男で、女の子は微動だにしなかった。少しして自転車の二人組が来たが、それも関係なさそうだった。

薫が缶を一口飲み干したとき、気づけば、女の子の姿はもうそこにはなかった。まるで煙みたいに、夜へ溶けてしまったかのように。


「まあ、いっか」

そんなことはすぐに酒の霞に紛れて、俺は次の缶を買いにコンビニへ向かった。

音楽を聴きながら公園に戻ってくると、いなくなったはずのその子が、今度はベンチに座っていた。

公園には二つ並んだベンチがある。本来なら距離を取って座るところだが、あいにく、彼女が座っていない方のベンチしか空いていなかった。

薫は、少し離れた位置を選んで腰を下ろした。

どこかのチャラい男なら、迷わず声をかけたりするのだろう。例え失敗したとしても。けど、俺にはそんな度胸はない。警察でも呼ばれたりしたらそれこそ面倒だ。

「特に誰が好きということはないが、ナンパとかいう不誠実なことはしたくない。俺のポリシーに反する」

とか何となく、ただの臆病を正当化する言い訳を心の中で重ねる。

この公園には一応、小さな灰皿が設置されている。

いつもの癖でタバコを取り出した。だが、彼女の近くで火をつけるのは悪い気がして、ためらっていると、ふわりと白い煙が上がった。

最初は寒さで吐く息が白くなっているのかと思った。

だが、その白さの奥で、小さく、規則的に光が瞬いた。電子タバコの灯りだった。

(吸ってもいいのか)

そんな気持ちが胸の奥でくすぶり、妙な仲間意識みたいなものが生まれた。

俺は躊躇を捨て、ライターで「グッドスパーク」に火をつけ、なるべく静かに煙を吐き出した。

一吸い、二吸い、三吸い——そのくらいだった。

ふと横を見ると、女の子の姿はまた消えていた。本当に、煙みたいに夜へ溶けてしまった。

残ったのは、冷えた空気と、ほのかに甘い香りだけだった。それは、電子タバコのフレーバーだろうか。

その後は、酔いすぎたからか、真っ直ぐ家に帰って風呂にも入らず眠りについた。

あの夜の、女の子の存在は、薫の記憶の中に、すっかり消えてしまっていた。

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