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タバコ屋で働く学生のお話  作者: 竹子


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5/33

五本目

「じゃあねー!またメールするね!」

優衣は最後まで満面の笑みを貼り付け、手を振った。彼女たちの姿が見えなくなった瞬間、優衣の顔から、一気に力が抜ける。

(ふぅ……疲れた)

張り詰めていた空気が抜け、一気に体が重くなる。まるで、長時間のマラソンを終えた後のような疲労感だ。彼女の笑い方は、心からのものではなく、サークルというコミュニティの期待に応えるための義務だった。

優衣は最寄りの駅の改札を抜け、いつものタバコ屋へ向かう。

(煙山くん、今日もいるかな?)

ふと、そんなことを思った。彼とはまだ二言三言しか交わしていない。しかし、あの雨の夜に交わした会話——「ミュート」という共通の感覚は、優衣にとって、偽りのない自分を共有できた、唯一の瞬間のように感じられていた。

タバコ屋の店先に着くと、スタンド灰皿はいつもの場所にある。だが、カウンターの中に立っていたのは、薫ではなかった。

知らない、と言いながらも、優衣も何度も吸いに来ていて見たことのある、少し年配の中年男性の店員が立っていた。薫の夜勤は、シフトの都合で今日は休みなのかもしれない。

優衣は少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。

(そっか、今日はいないか)

理由はわからないが、少しだけ落胆したような、でも、完全に誰とも関わらなくていいことに安堵したような、複雑な感情だった。

優衣はいつものように灰皿の前にしゃがみ込み、カバンから「フラッシュリム」を取り出した。タール10・メンソールの、強く冷たい刺激。

ライターで火をつけ、深く息を吸い込む。

彼女はイヤホンを耳に入れ、明るくない曲をかけた。世間の陽気さとは一線を画した、静かで内省的なメロディが、頭の中に流れ込む。

煙を吐き出しながら、優衣は今日の紬と萌衣の会話を反芻する。

「青春をドブに捨てる」「恋愛しないとかありえない」

彼女たちの言葉は、優衣の心をチクチクと刺した。

その場では笑って受け入れたけれど、一人になった今、彼女の口から、誰もいない夜の闇に、小さな本音がこぼれた。

「……恋愛をしないって、そんなによくないことなのかな?」

その呟きは、煙となって夜空に消えていった。

タバコを吸い終え、優衣は重い体を持ち上げる。

明日から、また、あの"明るい優衣"を演じる日々が始まる。その前に、このわずかな「ミュート」の時間は、優衣にとって欠かせない休息だった。

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