四本目
大学の今日の最終授業が終わった。
今夜は飲み会ではなく、サークル内でも最近話すようになったメンバーでの「ごはん会」だ。
優衣は教科書をバッグにしまいながら、何となく物憂げな顔をしていた。
学科の友達に別れの挨拶をし、待ち合わせ場所へと向かう。待ち合わせのカフェの前に、サークルの同期である萌衣と紬が立っているのが見えた。
優衣は歩調を早め、合流するやいなや、スイッチを入れるように笑顔を張り付けた。
「萌衣!髪型変えた? すごく似合ってる!」
声のトーンはワントーン高い。優衣は常にテンションが高い。しかも、人のことを持ち上げるのも得意だ。
「ありがとう! そうなんだよね! よく気づいてくれた!」
萌衣は嬉しそうに、整えたばかりの毛先を揺らす。
優衣は次に紬の腕を掴んだ。
「紬もネイルいつもと違うね! おしゃれすぎるわーまた彼氏でもできた?」
優衣の質問は、いつも核心を突く。
「そうそう! 3日前から付き合い始めてね」
紬は少し照れながらも、「いいでしょう」と言わんばかりの得意げな顔をする。薬指の新しいリングが光った。
「いーなー私も彼氏欲しいなー」
優衣は心底羨ましそうな顔を浮かべる。その表情は完璧で、演技だとは誰にも気づかれないだろう。
「やっぱり日々の努力かな。服装も美容も気を遣ってるし。他の人以上は努力してるかも。学生生活さあ、恋愛しないとか、青春をドブに捨てるようなもんでしょ?」
紬は自信満々に、人生の真理でも語るかのように話す。優衣はそれを「そうだよねー!」と笑って受け入れた。
萌衣が話題を引き取る。
「優衣は彼氏とかできたことあるっけ?」
優衣は一瞬、顔から表情を消しそうになったが、すぐに自虐的な笑いを浮かべた。
「一度もないよー」
「嘘ー! そんな人いるの?」
萌衣は心底驚いた顔をする。優衣の容姿は、彼氏がいないことを許さないくらい整っているからだ。
「優衣はモテるじゃん! 絶対選り好みしすぎてるだけだよ!」紬が言う。
「かなあ?(笑)」
優衣は話を逸らすため、萌衣に尋ね返した。
「萌衣はどうなの?」
萌衣は指を折って数える仕草をした。
「えーっと、今まで元彼は4人かな。一番長く続いて一年半!」
「一年半かあ!すごいね!」
優衣は感嘆の声を上げた。彼女たちの会話は、どれも眩しいくらいに「正しい青春」の型にはまっている。
その会話の間中、優衣は絶え間なく笑い、相槌を打ち、褒め言葉を繰り返した。しかし、彼女の心臓は、いつもと同じように冷えたままだ。
(疲れたな。このテンション、いつまで持つのかな)
心の奥底で、誰にも聞かれない小さな声が呟く。
「青春をドブに捨てる」――彼女たちの言葉は、優衣の心に、焦りのような、あるいは強い拒絶のような感情を呼び起こす。自分もその輪の中にいるように振る舞うため、優衣は今日一日分のエネルギーを、既に90%以上使い果たしていた。




