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タバコ屋で働く学生のお話  作者: 竹子


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33/43

三十三本目

雫を帰らせた後、昼寝で身体を休めた薫は、夜勤に備えて意識を切り替えようとした矢先、珍しく他店舗へのヘルプ要請が入った。場所は新宿。時給を1.2倍にしてくれるという条件に、俺は二つ返事で頷いた。深夜手当の1.25倍と合わせれば、実質1.5倍。この臨時収入は、正直言ってかなりデカい。

だが、現場に着いて早々、俺は自分の選択を少しだけ後悔した。

今日の勤務は二人体制。ペアを組むのは、舞川凛花まいかわ りんかという女の子だった。一目見て、俺が最も苦手とするタイプだと察した。根っからの「陽」のオーラを纏い、これまでの人生で一度も不遇を味わったことがなさそうな、眩しすぎるほどに明るい笑顔。

そして何より、彼女は恐ろしいほどに喋りかけてきた。

「どこ出身なんですかー?」「あ、その学校知ってる!」「部活は何やってたの?」

一問一答のような、生産性も面白味もない会話が続く。彼女は本当に、この時間が楽しいのだろうか。俺にとっては、どんなに嫌いな人間といる時よりも、精神的な疲労が溜まっていく。

そんなことを聞いて、一体何になる。

出身地や部活を知ったところで、俺たちの仕事が早くなるわけでも、世界が良くなるわけでもない。そんな無意味なやり取りにリソースを割くくらいなら、家に帰ってから何をするか、明日のタスクはどうするかを考えている方がよっぽど建設的だ。

だが、彼女はそれを満面の笑みでやってのける。それが「普通」というものなのだろうか。

(俺には、その「普通」が一番難しいんだけどな……)

こういうところが、俺に彼女ができない理由なのだろうか、などと自嘲気味に考える。

「あ、そうですね」「へえ、すごいですね」

感情をミュートした無難な相槌で、嵐が過ぎ去るのを待つ。

「ねえ、連絡先交換しよ!」

屈託のない提案に断る理由も見つからず、メッセージアプリの交換だけは済ませた。おそらく、お互いに二度と連絡を取り合うことはないだろう。こういう、意味もなくスムーズに繋がってしまう軽やかさも、俺はどうにも苦手だった。

煌々と光る新宿の店舗で、俺はひたすら時計の針が進むのを待っていた。

眩しすぎる光の中にいると、自分の影がより一層、濃く浮き彫りになるような気がしてならなかった。

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