表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タバコ屋で働く学生のお話  作者: 竹子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/35

三本目

その夜は、雨が降っていた。

22時13分。いつものように、ミヤマさんがやってきた。トレーナーの上に、薄いナイロンパーカーを羽織っている。

彼女はいつも通りしゃがみ込み、カバンからタバコを取り出す。ライターを回す音が、雨音に混ざって聞こえる。

チッ、チッ、チッ……

何度か試みるが、着火しない。どうやら、雨が強すぎてライターの火花が散ってしまっているらしい。

「あー……」

彼女は小さくため息をつき、顔を上げた。

そこで、初めて彼女と目が合った。彼女の瞳は、いつもより少し、疲れを深く沈ませていた。

俺は、とっさに体が動いた。タバコ屋のカウンターを出て、傘をさし、彼女の元へ歩み寄る。

彼女のすぐそばまで行って、初めて声をかけた。

「あの、よかったら……これ、使いますか?」

俺は自分のポケットから、100円ライターを取り出し、彼女に向けて差し出した。

彼女は少し驚いた顔をして、それから、すぐにいつもの、少し疲れた笑みを浮かべた。

「あ、すみません。助かります」

彼女はライターを受け取り、慣れた手つきでタバコに火をつけた。「フラッシュリム」の香りが、雨の湿った空気の中に広がった。

「あの、一本だけ吸いに来てるみたいですけど……いつも、ここで買ってるわけじゃないですよね?」

意を決して、さらに一歩踏み込んで尋ねた。

彼女は煙を長く吐き出し、それから首を傾げた。

「ええ、まあ。家がこの辺なんで。このスタンド灰皿、なんか、ちょうどいいんですよね」

「ちょうどいい、ですか」

「んー……何て言うか、人通りもそんなに多くないし、落ち着くというか。吸う時間って、ちょっと現実から離れたい時じゃないですか。ここ、“ミュート”しやすいんで」

「ミュート……」

俺は呟き、自分のポケットから「グッドスパーク」を取り出した。

「実は、僕も、最近吸い始めたんです。何も考えなくていい時間が欲しくて」

そして、彼女の隣で、自分も一本に火をつけた。フィルターを濡らさないように、そっと。

タール6の煙と、タール10メンソールの煙が、雨の中、混ざり合う。

「ふふ、じゃあ、お互い様ですね」

彼女はそう言って、初めて心から笑ったような、少し明るい笑顔を見せた。

「僕、煙山薫です。この店のバイト」

「三山優衣。近くの大学です。よろしく、煙山くん」

雨音と、タバコの燃える音。

俺と優衣の間に、気負いのない、けれど、どこか不思議な、「煙を分け合う」関係が、ゆっくりと、始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ