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タバコ屋で働く学生のお話  作者: 竹子


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27/37

二十七本目

パチ、パチ、パチ、と無機質な音が教室に響く。

小学三年生の薫は、そろばん塾の隅でパソコンに向かっていた。画面から流れる「読み上げ算」の音声に合わせて、指先を弾く。試験を控えた練習は、彼にとって自分を試す神聖な儀式のようなものだった。

だが、隣から漏れ聞こえる「ヒキッ……」という震える声が、彼の集中力を無惨に切り裂いた。

隣の席の女の子が、泣いていた。

最初は無視しようとしたが、一度気になると、パソコンから流れる数字の声が遠のいていく。薫の心に、子供特有の真っ直ぐで鋭利なイライラが込み上げた。

「……さっきからうるさいんだよ。音出すなら隣でやらないでくれよ」

終わった瞬間、薫は声を荒らげた。

九歳の薫にとって、泣いている女の子の事情を察するよりも、自分の完璧な練習を邪魔されたことへの憤りの方が勝っていた。

だが、女の子は泣き止まない。一向に収まらない嗚咽に、周りの生徒もちらちらとこちらを見始めた。

(先生に言いつけるのも、なんか違う)

そう思った薫は、衝動的に彼女の細い腕を掴み、そのまま教室の外へと引っ張り出した。

夕暮れ時の冷たい空気が、二人の頬を撫でる。

「……名前、なんていうんだ?」

薫がぶっきらぼうに尋ねると、女の子は顔を上げず、消え入りそうな声で答えた。

「……しずく」

その名前に、薫の脳内で何かが繋がった。

週に一度の競技会。掲示板の上位にいつも名前が載っている、あの「雫」か。

自分よりもずっと高い点数を叩き出す、どこか遠い存在。

「いつからそろばんやってるの?」

「……一年生から」

薫の心に、対抗心とは少し違う、奇妙な仲間意識のようなものが芽生えた。自分より長くこの「数字だけの世界」に身を置いている古参勢。それほどの実力者が、なぜこんなにもボロボロに泣いているのか。

「……なんで、泣いてたんだ」

一問一答のようなやり取り。雫は何度も呼吸を整えようとして、ようやく絞り出すように言った。

「お母さんが……知らない男の人と、一緒にいるのを見ちゃって……」

薫は息を呑んだ。

九歳の少年にとって、それは理解を超える重さを持った言葉だった。

首を突っ込むべきではなかった。そう後悔したものの、目の前で今にも消えてしまいそうな雫の姿を、他人事とは思えなかった。

家族という逃げられない現実。そこから溢れ出した彼女の涙。

「……作戦会議をするぞ」

薫は、彼女の腕を掴んだまま、公園へと歩き出した。

雫は拒むことなく、薫に引かれるままついてきた。


赤く染まった公園のベンチ。二人は並んで座り、日が沈んで街灯が灯るまで、作戦会議をした。

どうにかして、「その現場」を捉えるために。

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