二本目
翌日、また夜のバイトに入った俺は、もう『グッドスパーク』を数本吸っていた。
結局、「何も考えなくていい時間」を求めて、バイトが終わる3時にスタンド喫煙所で一本吸う、という習慣が生まれてしまった。依存というより、儀式に近い。
そんなある日、彼女は現れた。
いつものように夜のカウンターで、ぼんやりとスマホを眺めていると、スタンド灰皿の前に、一人の女子大生らしき人が立った。
髪は明るい茶色で、服装はロゴ入りパーカー。"YUI MIYAMA"と書いてある。一見、明るくて社交的な雰囲気をまとっている。だが、その笑い方の奥には、いつも少しだけ「疲れ」が沈んでいるような気がした。
彼女が吸っているタバコは、タール10・メンソールの『フラッシュリム』。まあまあ強めの銘柄だ。
タバコ屋に買いに来るわけじゃないのに、一本だけ吸いに寄る。
彼女はいつも、地面にしゃがみ込み、イヤホンをつけて、煙を吐きながら目を閉じる。まるで、一時的に"この世界から離脱したい"したいと願っているかのように。その様子は、なぜか俺の目を引いた。
彼女は、それからも毎日、決まった時間――だいたい22時過ぎ――にやってきた。
俺は、彼女の人間観察に夢中になっていた。
最初に吸っていた一本目の吸い殻は、フィルターに薄い口紅がついていた。次の日は、その口紅が少し濃くなっていた。その次は、フィルターの少し上の紙の部分が、不自然に湿っていた。きっと、何か嫌なことがあって、無意識にタバコを噛んでしまったのだろう。
ある時、彼女が吸い終わりに、灰皿の縁に吸い殻を立てて、忘れたように立ち去った。その吸い殻を見つめ、俺は初めて、吸い殻から彼女の「何か」を読み取ろうとしている自分に気づき、内心で戸惑った。
「フラッシュリム、か」
思わず、口の中で彼女の銘柄を呟く。
俺と彼女の距離は、バイト先の店員と客。近くもなく、遠くもない。だが、俺の意識の中では、彼女の存在は、日を追うごとに大きくなっていた。




