表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タバコ屋で働く学生のお話  作者: 竹子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/37

十七本目

熱を帯びた飲み屋の喧騒は、すでに終盤を迎えていた。グラスの数が示すのは、もはや理性の崩壊。薫は11杯、雫は12杯。テーブルには紙タバコが14本、電子タバコが16本の吸い殻が積み重なり、二人の意識は、夜霧のようにぼやけていた。

視界が揺らぐ中で、薫の目に映った雫は、「可愛い」を超えて、なぜか「神秘的」にさえ見えた。シラフでは決して到達しない、燃えるような感情が胸を衝く。

会計を終えて外へ。後ろで見送る優衣の顔には、二つの「心配」が浮かんでいた。一つは、その尋常ではない酔い方。もう一つは、誰も触れられない、これから始まる予感。


フラフラとしながらも、雫はまるで駄々をこねる子どものように言った。

「私まだ帰りたくないよー」

「お前どう見てもこれ以上はダメだろ」

「家近いから終電終わっても帰れるジャーン」

雫の笑顔に、薫の心の奥底で持っていた「信念」が、ガラガラと音を立てて崩れた。

誰ともまともに付き合ったことがない。

人を本当に好きになったことがない。

それは、ただの酔いに乗じた下心。可愛く見えているだけの錯覚だと、頭では理解している。だが、一度芽生えた熱は止められなかった。

「確かに.....もう一軒.....行くか」

その一言が、夜の帳を破る合図となった。

二軒目。最初の余韻は熱く、グラスを重ねるたびに(三杯目)、二人の間に張りつめる空気は、急速に「良い雰囲気」へと変わっていった。タバコを互いに二本吸い終える頃には、会話は途切れ、酔いの中に、妙な落ち着きが生まれていた。


二軒目を出た瞬間、冷たい夜風が火照った肌を撫でた。

雫は、フラつく体を支えるように、何の躊躇いもなく薫の左腕に、自分の両腕を絡ませた。その体重は想像以上に重く、アルコールの匂いが鼻腔をくすぐる。

上目遣いで、焦点が定まらない瞳で薫を見つめながら、雫はまるで夢言のように、息を飲むほどに小さな声で囁いた。

「ねぇ、......探そ」

何を、とは聞かなかった。いや、聞けなかった。薫は、その体温と絡め取られた腕の感触に抗えず、もう思考するのをやめていた。

雫の足取りは、もはや千鳥足というより引きずられているに近かった。薫は重い雫の体を半ば支えるように、彼女が向かう、看板の光がやけに強い雑居ビルの暗い入口へと、沈黙のまま、連れられていった。

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

朝の6時。カーテンの隙間から差し込む青白い光の中、隣には静かに寝息を立てる雫がいた。

薫は、タバコに火をつけ、その煙を天井に漂わせながら、静かに、そして力なく呟いた。

「.........はぁ。俺、何やってんだろ、ほんと」

その声は、重く、地面に吸い込まれそうに響く。

「俺って人間、しょうもねぇな。マジで。一貫性も、あったもんじゃねえ........」

すべてを諦めたような、乾いた笑いにも似たため息が漏れる。

雫が寝返りを打つ。薫は、焼け落ちていくタバコを片手に持ち、その重力に逆らうこともなく、ただ優しく彼女の頭を軽く撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ