十五本目
薫は、女の子とサシで飲むなんてとても珍しいことだったので、内心は緊張でいっぱいだった。
(相手は幼馴染、相手は幼馴染、相手は幼馴染……)
心の中で、何度も雫の存在を「特別ではない」カテゴリに分類しようと言い聞かせる。
大学の授業が終わった後、空き教室で動画を見たり、寝たりして時間を潰したが、緊張のせいで時間を読み間違えた。電車を乗り過ごしたりはしなかったものの、居酒屋の前に着いたのは、約束の時間を5分ほど過ぎてからだった。
「ごめん、雫!」
薫が駆け寄ると、そこにはいつもと同じ、白いモコモコの服を着ていながら、そわそわしながらスマホと睨めっこし、時折髪を整えている雫の姿があった。
「あ、薫!大丈夫だよ、私も今来たとこ!」
その表情は、眩しいくらいに明るかった。
「行こっ!」
二人は早速、賑わう店内の席へと案内された。
席に着くと、まずはドリンクの注文だ。薫は尋ねる。
「雫、何飲む?」
「私はビールかな!」
薫は空いている通路を通る店員を捕まえようと手を挙げた。すると、店員さんが近づいてきた。
「ご注文をお伺いいたします」
薫はメニューに目線を落としたまま注文した。
「じゃあ、生二つお願いします」
注文を終え、店員が笑顔で復唱を始めた。
「かしこまりまし……薫くん?」
グラスを乗せたトレイを持ちながら、店員さんが言葉を詰まらせた。
薫はその呼びかけに顔を上げた。そこに立っていたのは、居酒屋のエプロン姿の優衣だった。
「え?って、優衣ちゃん!?」
注文を聞いて、初めて相手が優衣だと気づいた薫と、注文を受けて、初めて客が薫だと気づいた優衣。お互い、気づくタイミングがワンテンポ遅れたのは、居酒屋という普段の接点と全く違う場所だったせいだろう。
「え? 薫くんが、どうしてここに……」優衣は目を丸くしている。
(なんでだ。なんでこんなに気が動転してるんだ、俺は。別にいいだろ、誰といようが……)
薫は、別に優衣と付き合っているわけではないし、雫との関係はただの幼馴染だ。何も悪いことはしていない。それなのに、優衣に雫と二人でいるところを見られたという事実に、胸の奥で言いようのないもどかしさが広がった。優衣には、自分は「タバコ屋のバイト」であり「陰鬱な大学生」という認識でいてほしかった。だが、今、彼は私服で、女の子と酒を飲もうとしている。「青春」を拒絶しているはずの自分が見られたことで、無防備なプライベートを覗かれたような、恥ずかしさに近い焦燥感に襲われた。
その間も、優衣は困惑した表情を隠せていない。
そして、隣にいる雫が、状況を理解できないまま、優衣に尋ねた。
「あの、あなたは薫とどうゆう関係なの?」
薫は、もどかしい感情を抱えたまま、最悪な遭遇戦に突入したことを悟った。




