十四本目
なんだかんだこの女の子とはよく喋っていて、競技の時にすごく張り合ってきたのを覚えている。学校は違うのだが、小3から小6までそろばんは通っていたので、その時だ。
そうだ、タイムカード制だったから、俺が後に上がる時はこの子は待ってくれていて、この子が後に上がる時は、気恥ずかしくて、置いて帰っていた気がする。そして次に会って怒られる、を繰り返してた気がする。
っていうかこんなエピソードまで覚えているのに、名前が出てこない。
確か、今年の女の子の名前のランキングの一位が……。
「翠だ!」
「一か八かで言うなんて」
彼女はすごく呆れていた。
「雫よ、相川 雫」
「雫かー!思い出した!」
雫は「まあいっか」みたいな顔をしていた。
「っていうか、雫。何で昨日声をかけてくれなかったんだよ」
日付的には一昨日だが、雫も夜型の民だと思ったので、薫は夜のノリでそう表現した。
雫は、視線を地面に落とし、頬を染めながら、もごもごと言った。
「……恥ずかしいから」
「は?」
「薫に、タバコ吸ってると思われるのは恥ずかしいから」
薫は、その可愛い一面を見て、顔を真っ赤にする。純粋な照れと動揺だった。
「何言ってんだよ。別にどうも思わないよ。」
ていうかさっき普通に買ってたじゃん。
雫は、もじもじしながら顔を上げて上目遣いで言った。
「あのー、一缶だけ飲まない?」
「遠慮しとく」
薫は即答する。
「なんでー?」
「俺、明日中間テストなんだ。テストの前日は飲まないって決めてるんだよ」
「何でそれなのに夜勤してるの? 何なら昨日も飲んでたし」
「まあーそれはー……」
おとといの夜、改めて優衣と知り合いになれたことに対しての高揚感が抑えきれず、それをどうにかしたくて飲み歩いてしまった。しかし、その翌日、つまり昨日は、案の定その飲み過ぎで酒鬱になり、それを癒すためにまた一人で飲みに出た。そして、今日も酒鬱に見舞われていた。そんな感情のジェットコースターに乗っていたことなど、雫には説明できるはずもない。
「明日なら飲みいけるぞ」
薫も雫と久しぶりに話すのは悪くないと思い、そう提案した。
「本当!? 私も明日の夜空いてるから行こ!」
雫の顔が、一気に明るい笑顔になった。夜のタバコ屋の前で、二人は約束を交わした。




