十三本目
バイトが終わり、薫は裏口から外へ出た。時計は朝の3時10分。
暗い店の前で、人影があった。
それは、ついさっき「17番」のタバコを買った、白いモコモコのコートの女の子だった。彼女は壁に寄りかかり、スマホをいじっている。
(うそ、わざわざ待ってたのか?)
薫は気まずさで体が硬直した。昨日の記憶がないせいで、謝罪すべきかどうかも定まらない。意を決して、昨夜のダル絡みの可能性に対して、まず頭を下げた。
「昨日はすみませんでした!」
すると、その女の子は顔を上げ、不思議そうに首を傾げた。
「何で謝るの?」
「え、だって、酔っ払ってて知らない人に声かけてしまったと聞いたので……」
「声かけられてないよー」
彼女はきっぱりと言い、少し間を空けてから、呆れたように付け加えた。
「第一、そんな人じゃないでしょ?」
その言葉に、薫はハッとした。
確かに。なんか違和感があると思った。いくら酔っ払っても、知らない女の子にしつこく声をかけるようなことはしない……はずだ。
「あの公園に、あんな時間にいて、一人で缶飲んでる人珍しいなと思って」
女の子はそう言って、笑った。
(なんだ、俺の恥はダル絡みじゃなくて、ただの深酒か……)
緊張が溶けた薫は、いつもの律儀な自分に戻った。
「あ、すみません。僕、煙山 薫って言います。お名前お聞きしてもよろしいでしょうか」
「堅っ! そんな敬語使わなくていいよ。同い歳なんだしさ」
「なら使わなくていいですね」
薫は即座に敬語を解除した。
「ん? 同い歳?」
「また敬語使ってるしー」彼女はくすくす笑う。
「あの、結局、名前は」
薫が再度尋ねると、彼女の顔が一気に険しくなった。
「忘れるなんてひどいよ!!」
急に顔を真っ赤にして怒り出した。あまりの豹変ぶりに、薫は「やばい人じゃん。パ◯◯ロでもそんな急に調子変わらないぞ」と思いつつも、心当たりがないか、必死に昔のことを量子コンピュータの如く振り返る。
(今眠いからそんな脳みそはないです。見栄張りましたすみません。ていうか量子ってなんだよ)
頭の中で自問自答を繰り返す。えーっと。
「あー!思い出した!同じそろばん塾にいた子だ!」
その言葉で、彼女は一転して、喜んでいる様子だった。
「で? 名前は?」
にっこりしているが、目は笑っていない。すごく怖い。




