信仰の街、炎の魔人:勇者サイド
皆様、はじめまして。このたび、初めて投稿させていただきます。
「へぇ、この先の街は少し変わってるって?」
街道沿いの休憩所。俺—アレンをリーダーとする勇者パーティは、たまたま相席になった行商人の老爺から奇妙な話を聞いていた。
俺たちの使命は、魔王討伐だけでなく、人々を魔の脅威から解放することだ。
「ええ。あの街の者は皆、あの街のシンボルでもある火山に住む魔人を深く信仰しておるんですよ。」
「魔人を、信仰?」
隣で剣の手入れをしていた戦士のライナスが眉をひそめる。
魔人は人類の敵。それが常識だ。
「ですが、その魔人...『ボルカ』と名乗るソレは、長年街を災害から守ってくれる守り神だと信じられています。…ですがね、勇者様。」
老爺は声を潜めた。
「どうも、あの街の住民は洗脳されているんじゃないか、という話です。かつて街を訪れた冒険者たちは皆、火山を避け、その魔人に手を出さなかった。きっとその魔人が、人知れず街全体を支配しているんですわ。」
洗脳...その言葉に、パーティの紅一点である魔法使いのソフィアが小さく頷いた。
「魔人の強力な精神魔法なら、それも不可能じゃないわ。もし本当に住民が洗脳されているなら、放置できない問題ね。」
俺は老爺に礼を言い、ソフィア、ライナス、そして僧侶のエミリアに視線を送った。
「目的地変更だ。まずはあの火山、そして魔人ボルカを討伐する。」
翌日、俺たちは目的の街に到着したが、すぐにそこを出た。
火山への道すがら、街の人々に違和感はなかった。
皆、明るく、親切で、洗脳されているようには見えない。
だが、老爺の言葉が引っかかり、俺たちは予定通り、街近くの活火山へと向かった。
火山の麓は静まり返っていた。
俺たちが警戒して登っていくと、熱気の揺らぎの奥に、何か巨大な魔力の塊を感じた。
「あれが、魔人ボルカの居場所ね。魔力の結界が張られているわ。」ソフィアが言う。
俺たちは慎重に結界を突破し、火山の内部へと足を踏み入れた。
溶岩の熱に守られた洞窟の奥、そこで俺たちが見たのは、炎を纏い、深い眠りについている巨大な魔人の姿だった。
「あれが魔人か...」ライナスが剣を構え、声を潜める。
「隙を逃すな。洗脳を解き、住民を解放するのが先決だ」
俺は頷き、魔人の背から心臓へ向けて、渾身の刃を振り下ろした
初撃は魔人を深く裂いたが、魔人は即座に目覚め、凄まじい咆哮と共に立ち上がった。
激闘となった。ボルカは致命傷を負いながらも灼熱の拳を振り下ろし、その戦闘力は常軌を逸していた。俺たちは、不意打ちを下にもかかわらず、本気の戦闘を強いられた。
熾烈な戦いの末、勇者は渾身の一撃をもって魔人を討伐することができた。
その瞬間、まるでガラスが砕けるような、空間が割れるような異様な音が、響いた。
「倒した...のか?」
ライナスが汗をぬぐいながら呟く。
ソフィアが慎重に周囲を探る。
「魔力の残滓は消えているわ。けど、あの音は...何だったの?」
ともあれ、魔人ボルカは討伐完了だ。そして、その場で思わぬ収穫があった。
火山の熱に耐えながら咲いていた、希少な回復アイテム『サラマンダーフラワー』。
そして、ボルカが身に着けていた防具の破片から回収できた、特殊金属の『ボルカメタル』。
どちらも貴重な戦利品だ。
俺たちは街へ戻り、討伐の報告と休息のため、一泊することにした。
翌朝、俺たちは街の領主の屋敷を訪ね、魔人ボルカ討伐の報告をした。
洗脳された住民を解放したのだ、歓迎されるだろうと思っていた。
しかし、領主の反応は、俺たちの予想とは全く違っていた。
「な、なぜそのようなことをした!」
領主は立ち上がり、怒りの表情で俺たちを叱責した。
「勇者パーティともあろう者が、街の守り神に手出しするなど言語道断! あのボルカ様がいたからこそ、この街は平穏を保てていたのだ! 全ての災いを一身に引き受けてくれていたのだぞ!」
その言葉に、パーティの誰もが息をのんだ。
洗脳...が解けていない? ソフィアが小さく呟いた。
「領主様もまだ、ボルカの精神魔法にかかったままなのでは...?」
だが、領主の言葉は、ただの洗脳とは思えないほど、強く、熱を持っていた。
「...それとも、」ソフィアは続けた。
「私たちの攻撃は、ボルカを完全に討伐できていなかったのかしら?」
一抹の不安を覚える中、その時、屋敷全体を揺るがすとんでもない地揺れが発生した。
ドオオオオオオオオォン!!
屋敷の窓から見える火山が、突如、信じられないほどの勢いで大噴火を起こしていた。
巨大な噴石と、真っ赤なマグマの奔流が、一気に街の方へと降り注いでくる。
「っ、住民の避難が先だ!」
俺たちは領主の叱責など構っていられなかった。
急いで街へ飛び出し、住民を避難させようと叫ぶが、混乱した人々の避難は全然間に合わない。
炎が、熱が、次々と建物を焼き尽くしていく。
「くそっ、このままでは全滅だ!」
俺たちは、とりあえず近くにいた領主たちとその家族だけを魔法で守り、火山から遠い安全な場所へ避難を始めた。
避難経路を走る最中、俺たちの背後から、噴火の轟音にも負けない、地を這うような足音が近づいてきた。
振り向くと、炎と煤にまみれた巨大な影—ボルカだ。
炎の魔人は、避難中の俺たちなど目もくれず、避難中のある一家の方へまっすぐ走って近づいていった。
「まだ生きていたの!?まさかこれもボルカの攻撃!?」
ソフィアが即座に反応し、ボルカへ向けて強力な魔法攻撃を開始した。
「やめろ、勇者! ボルカ様は...!」近くにいた領主が叫ぶが、攻撃を止めるわけにはいかない。
そして、ボルカは避難中の家族の元へ到着した。
ソフィアの魔法が当たる寸前、ボルカは家族に向かって駆け寄り、自らの体を噴石から守る盾とした。
ドドドドドォン!
噴石がボルカの体に直撃し、灼熱の噴石がその身を砕く。
魔人は一切の反撃も抵抗もせず、家族を覆い守り切った。
その光景が、俺たちの目に焼き付いた。
激しい噴火が収束した後。街は、ほぼ壊滅状態だった。
ボルカは、全身をに傷を負いながらも、守り切った一家を炎の中から連れ出し、その場に崩れ落ちた。
もはや、戦う力は残っていなかった。
結果、この大噴火から生き残れたのは、俺たち勇者が守った領主たちと、魔人ボルカが守った一家のみだった...。
ボルカはなぜ街の住民を守ったのか。
領主が言うようにボルカは、街を支配していたわけではなく、街を守り続けていたのか。
俺たちが討伐した「ボルカ」は...何だったのか。あの空間が割れるような音は?
「......サラマンダーフラワー」
俺は手に残った戦利品を見つめる。
それは、悲しい真実を物語るように、静かに輝いていた。
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