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★What a Wonderful World ~異世界の着信音~  作者: 太郎アームストロング


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第9章 Imagine(John Lennon)

本作は各章毎にイメージにマッチした楽曲をエピソードタイトルに添えております。

楽曲を視聴しながらお読みいただくとより雰囲気が増しますのでお試しください。

※エピソードタイトル「Imagine」:john Lennon(1971)

朝のスマイルキャット亭は、いつもより静かだった。


猫たちのゴロゴロ音だけが、木の床に響いている。


「今日は王都祭だ」


俺は呟きながら、黒パンを豆のスープに浸した。


エールが喉を滑り、胃に温もりを落とす。


だが、アルベルトの姿が見当たらない。


「どこ行ったんだ?」


ガレンが太鼓のように低い声で問う。


エレナはハープの弦を軽く弾きながら、


「たまに姿を消す時があるのよ。あの人は。すぐに戻ってくるわ」


どうしたものかと、窓の外を眺めていると――


ドアが軋み、マント姿のアルベルトが入ってきた。


埃と朝露の匂いが、まとわりつく。


マントの裾が、妙に重そうに揺れている。


――何か、隠している?


「すまない。野暮用でな」


顔は笑っているが、右手がわずかに震えている。


確実に、震えている。


ガレンが猫を撫でながら、


「飯は?」


「ああ、一緒に食うよ」


テーブルを囲む。


硬くなったパンをスープに沈め、エールを流し込む。


誰もが、言葉少なだ。


宿を出ると、既に露店が並び、人の波がうねっていた。


香辛料の甘く鋭い匂い。


――羊肉の串焼きだ。


「1串4ペニーだよ」


店主の声に、思わず財布を見た。


**高すぎる。**だが、祭りだ。


「2串くれ」


「ひとり1本とはいかないが、分けて食べよう。こんな機会じゃないと食えない」


一本をエレナに渡し、もう一本を――


ガブッと半分咥え、残りをアルベルトに押しつける。


「ありがとう」「いただくわ」


アルベルトの指が、肉を受け取る瞬間に震えた。


確実に、震えている。


歩きながら頬張る。


マナー違反だろうが、今日だけは許される。


「うまい!」「おいしい」「!!!」


各々が声を上げる。


香辛料が舌を刺し、肉汁が喉を熱くする。


――次はいつ食えるか、わからない。


肉を堪能し終える頃、ルミナ中央広場に着いた。


人がごった返し、噴水の水しぶきが朝陽に虹を架ける。


露店、子供の笑い、銅貨の音。


だが、その喧騒の奥に――


王の演説台が見えた。


黄金の玉座。


重装の護衛が、鉄壁のように囲む。


ステージから、ちょうど100m。


「ここから王様を見るなんて、一生に一度だな」


エレナが呟く。


ガレンが無言で頷く。


アルベルトだけが、目を細めていた。


「出番まで、シルバーハープホールで待機だ」


俺たちは人波を掻き分け、ギルド本部へ向かう。


背後で、風が強くなった。


まるで、何かを運んでくるように。






ホール裏の楽器倉庫。


薄暗い埃の匂いが、鼻を突く。


アルベルトがマントを脱ぐ。


裾から、鈍い金属音が漏れた。


中から現れたのは――


黒い布の包み。


布を慎重にほどくと、


小型のクロスボウが現れた。


矢筒には、毒を塗った矢が三本。


「これで、100mの距離を詰める」


呟きは、誰にも聞こえなかった。


だが、震える指で矢を装填する姿は――


狂気と、後悔の狭間だった。





鐘が十二回、轟くように鳴り渡る。


広場の喧騒が、ぴたりと止まった。


祭りの進行役を務める老貴族――銀の鎖を巻いた公爵が、高らかに声を上げる。


「王の御成り!」


続けざまに、民衆に向かって鋭く命じた。


「膝をつけ! 額を地に!」


瞬間、広場が波のように沈む。


数千の膝が石畳を打ち、埃が舞う。


衛兵たちも片膝をつき、槍を地面に突き立てる。


子供の泣き声すら、押し殺される。


近衛騎士の銀の胸当てが陽光を跳ね返し、


レオポルド・ヴァルデリック王が、ゆっくりと玉座の前に進み出る。


獅子の毛皮を肩にかけ、威風堂々と立ち止まった。


王は片手を上げ、穏やかな声で告げる。


「みな、楽にして良いぞ。今日は祭りだ」


ほっとした吐息が一斉に漏れ、広場がゆっくりと立ち上がる。


だが、誰もが王から目を離せない。


王の演説が始まる。


「今日は良く集まってくれた。

 無礼な東の蛮族どもが、我がエルドリアの聖なる峰を汚し続けている。

 だが恐れることはない! 我が剣は折れぬ!

 若者よ剣を取れ、商人よ金を惜しむな、農夫よ麦を捧げよ!

 勝利は近い! 勝利は我らのものだ!」


声は広場を震わせる。


布告歌で聞き慣れた言葉が、王自身の口から吐き出される。


拍手が湧く。


「あれがレオポルド王だ」


隣でアルベルトが、目を離さずに小声で呟く。


声が、かすかに震えている。


「あれが」


俺も小声で返す。


正直、王の演説など、どうでもいい。


資金を出せ、兵を出せ、死ね――


それだけだ。


「今日はみな、祭りを楽しもう!」


王の宣言で、広場が沸き上がる。


歓声、笛の音、太鼓の響き。


ステージでは、貴族ご用達の華やかな吟遊詩人たちが始まりと大トリを飾る。


金糸のマントを翻し、華麗な布告歌を奏でる。


俺たちは少し後の出番。


ステージ裏で、息を潜めて待機していた。


アルベルトがリュートを、


ガレンが太鼓を、


エレナがハープを、


そして俺は――アルベルトと同じリュートを、入念に確認している。


ふと、俺は口を開いた。


「みんなにお願いがあるんだが、聞いてくれないか?」


三人が同時にこちらを向く。


「いつもの布告歌が終わった後に……

 一曲だけ、俺独りで演奏させて欲しいんだが、良いだろうか?」


エレナが、柔らかく微笑む。


「タロスの歌なら、良いわよ」


ガレンも、無言で大きく頷いた。


珍しくアルベルトも――


目を細めたまま、静かに頷く。


「ありがとう」


俺は素直に礼を言った。


胸の奥で、何かが熱くなった。


いま、ここでしか出来ないことがある。


そんな気がする。


風が、ステージ裏の幕をはためかせる。


まるで、答えを運んでくるように。


いよいよ俺たちの出番になった。


ステージに上がる。


広場は今まで見たこともない人の海だった。


噴水の向こう、露店の屋根の向こう、城壁の向こうまで続く。


黄金の玉座に座すレオポルド王と、その背後に並ぶ宝石を散りばめた貴族たち。


王はまだ笑みを浮かべている。


アルベルトがリュートを叩いてリズムを取る。


いつもの布告歌。


「東の峰は王のもの、若者よ剣を取れ――」


拍手が鳴り止まぬうちに、俺はアルベルトと目を合わせた。


彼は静かに、深く頷く。


ガレンも、エレナも、頷き返す。


俺は深く息を吸い、リュートを胸に抱えた。


「この曲を……みなに」


C F C F


「Imagine there's no heaven

 (想像してごらん 天国なんか無いと)

 It's easy if you try

 (やってみれば簡単さ)

 No hell below us

 (僕らの下には地獄も無い)

 Above us only sky

 (上にあるのは空だけ)

 Imagine all the people

 (想像してごらん 全ての人々が)

 Living for today……」


広場が少しずつ静まっていく。


聞き慣れない言葉。


聞き慣れない旋律。


「Imagine there's no countries

 (想像してごらん 国なんか無いと)

 It isn't hard to do

 (難しいことじゃないさ)

 Nothing to kill or die for

 (殺す理由も死ぬ理由もない)

 And no religion too

 (そして宗教もない)

 Imagine all the people

 (想像してごらん 全ての人々が)

 Living life in peace……」


レオポルド王が玉座から立ち上がった。


顔が真っ赤に染まり、獅子の咆哮のように叫ぶ。


「その演奏をやめさせろ!!」


その瞬間――


アルベルトがマントの下から小型クロスボウを抜き、

100メートルの距離を一瞬で詰めるように構えた。


シュッ!


毒矢が風を裂く。


それを見た俺の体に雷が走った。


だが指は止まらない。


止まらない。


「You may say I'm a dreamer

 (君は思うかも 僕が夢想家だって)

 But I'm not the only one

 (でもそれは僕だけじゃないんだ)」


矢が王の胸に突き刺さった。


直後、民衆の間から、露店の陰から、貴族席の裏から――


三本の矢が同時に飛んだ。


二本目が肩を貫き、


三本目が喉元をかすめて玉座に突き立つ。


レオポルド王が血を噴き、


黄金の玉座に崩れ落ちる。


「I hope someday you'll join us

 (君もいつか仲間になってくれたら)

 And the world will live as one

 (そして世界はひとつになるんだ)」


最後のコードが鳴り終わった瞬間――


広場は静寂に包まれた。


次の瞬間、


爆発した。


悲鳴、怒号、歓声、混乱。


衛兵が槍を逆手に持ち、ステージへ殺到してくる。


俺はリュートを抱えたまま、


凍りついた。


アルベルトが、血塗られた手で俺の肩を掴んだ。


「……お前の歌が、トリガーだった」


風が、血の匂いを運んでくる。


歌は終わった。


世界は、まだ始まったばかりだった。

著者所感

今現在ウクライナでガザで戦争が続いてます。

そして僕が知らないだけで他の地域でも戦争紛争と呼ばれるものが続いてるのでしょう。

SNSでは毎日のようにドローンやミサイル飛ぶ動画を見ます。


ある日、流れて来た動画を見て「またか、そんなことより」と思った自分が居ました。


ふと我に返って「そんなことより・・・だと?」

戦争のニュースに慣れてしまって、慣れ過ぎてしまって。

どこか他人事で自分とは関係の無いことなのだと考えている自分が居ました。

それも仕方の無いことだと思います。

何が出来るわけでも無いのですから。

それに文字通り数千キロも離れた遠い場所での出来事なのですから。


しかし、たった今もその遠く離れた場所で戦争をしている人々が居ます。

僕は当事者にはなれません。


もっと正直に言うと、僕は戦争の当事者にはなりたくありません。

平和が良いです。


なりたくは無いですが、だけど、もし避けられず巻き込まれたらどうしましょうか?


そんなの、わかりません。


長々とこんな感想を書いてすみません。

だけど、なんだろう?このモヤモヤしたものは。なんなのでしょうね?


それはタロスにスッキリさせてもらいましょう。

タロスの秘密、そしてトリガーの歌とは、次章以降から少しずつ解明されていきます。

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