第2章:The Sound of Silence(Paul Simon)
本作は各章毎にイメージにマッチした楽曲をエピソードタイトルに添えております。
楽曲を視聴しながらお読みいただくとより雰囲気が増しますのでお試しください。
※エピソードタイトル:「The Sound of Silence」Paul Simon(1964)
「ここは?」
目を覚ますと、白い天井。
周りを見渡すと、白い部屋だ。
自分の部屋じゃない。
病院か? …いや、何もなさすぎる。
ドアも窓もない。
ベッドじゃなく、床に寝ていたようだ。
確か、屋上から落ちたはず…。
思い至り、自分の体を確認する。
怪我の様子はない。痛みもない。
病院じゃないとすると、あの世か? まさか。
立ち上がる。何もない壁に触れてみる。
なめらかな表面。特に何もない。
そういえば、灯りは? 天井を見渡す。
電灯の類もない。部屋全体が明るい。
壁が光ってるわけでもないのに…。
そのまま壁を触りながら、部屋を一周する。
それほど広くはない。8畳程度か?
隅から隅まで見て回る。白一色。息が詰まる。
一周して、何もないことを確認すると、そこに座り込む。
病院にしろ、あの世にしろ、こうして待っていれば、医者が来るのか、神様が来るのか。
わからない。でも、何か起きるだろう。
待ちくたびれて、何か暇を潰せそうなものが無いかと、ポケットをまさぐる。
何もない。
部屋着のスウェットで屋上に出たからだ。
スマホでもあればよかったのに…部屋に置いてきたようだ。
そのまま、眠ってしまう。
学生時代のバンド仲間と練習してる夢を見た。
あの頃の生活は楽じゃなかった。でも、楽しかった。
どれだけ眠っていたんだろう?
時間の感覚がわからない。
腹も減らない。
できることと言えば、寝ることくらいしかない。
何度眠り、何度起きたんだろう?
何時間? 何日過ぎたのか?
きっと、ここは地獄なのかもしれない。
何もしない、何もできない地獄。
現実とそれほど離れた状況でもないのだが。
暇をもてあそんで、気付くと指はギターのコードを刻んでいた。
G C G C G A7 D…そしてA7からDへ滑るように
「何のために生まれて、何をして生きるのか? 答えられないなんて、そんなのは嫌だ。」
自分だって、何もしたくないわけじゃなかった。
夢だってあった。やりたいこともあった。
だけど、できなかったんだ。
生きていくためには、働かなきゃならなかった。
働いていたら、やりたいこともできない。夢だって諦めなければならなかった。
だって、そうだろう? 仕方なかったのだ。
そうなってしまえば、生きる理由を見失って当然だろう。
それなのに、こんな仕打ちとは。
何もできない日常から抜け出したいのに、待っていたのは何もできない地獄。
何もない。誰にも聞かれない。改めて気付くと、気が大きくなったようだ。
気付くと、次々と指はコードを繰り返す。
G C G C G A7 D
「何のために生まれて、何をして生きるのか? 答えられないなんて、そんなのは嫌だ。」
「音楽で世界を変えるために生まれて、愛と平和を伝えて生きるさ。」
社会を知らないガキみたいな夢を、わざと声に出して言う。
開き直った。自虐的な意味もあるのだが。
「承知した。ならばやってみよ。」
影の峰の呼び声のように、声が響く。
音楽で世界を変える……その歌が、血を呼ぶとは知らずに。
「え?」
突然のことに、驚愕する。
白い部屋が、光に包まれる。
浮遊感に包まれ、意識が飛んでいく。
※「アンパンマンのマーチ」ドリーミング、やなせたかし(1988)
11/2 追記 …そしてA7からDへ滑るように
表現修正 部屋の中に声が響いた。→部屋に、荘厳な声が響く。
11/3 表現修正 影の峰の呼び声のように、声が響く。音楽で世界を変える……その歌が、血を呼ぶとは知らずに。
11/9 改行位置調整




