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★What a Wonderful World ~異世界の着信音~  作者: 太郎アームストロング


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第12章 Riders on the Storm(The Doors)

本作は各章毎にイメージにマッチした楽曲をエピソードタイトルに添えております。

楽曲を視聴しながらお読みいただくとより雰囲気が増しますのでお試しください。

※エピソードタイトル「Riders on the Storm」:The Doors(1971)

ロウフォードは深い森林に囲まれた材木の街だった。


街の北と東は切り開かれたばかりの林が続き、


南へと流れるエーテル川沿いに、丸太の匂いが立ち込める道が通る。


材木はフリーハーバーとの主な交易品で、


川岸には毎日、丸太を組んだ筏や材木舟が下っていく。


俺たちは南門を抜け、すぐに裏通りへ入った。


道ばたには材木が山積みで、雨に濡れた松の香りが鼻を突く。


通りで銀獅子隊の二人組とすれ違った。


銀の胸当てが松明に光ったが、胡桃で染めた髪と泥まみれのマントのおかげで、

視線は一瞬だけ俺たちを撫でて通り過ぎた。


宿は「黒い丸太亭」。


隣には文字通り山のように丸太が積まれ、裏手はすぐにエーテル川だ。


材木問屋が経営している宿で、吟遊詩人はよく泊まる。


一階の酒場奥のカウンターへ。


店主は太った、木こり上がりの男だった。


「泊まりかい? 食事付きで一人二ペニーだ」


アルベルトは小袋から銅貨を八枚、カウンターに置く。


「四人だ。南から来たんだが、酷い雨にやられてね。温かいスープが欲しい」


「あんたら吟遊詩人だろ? 二階奥の四人部屋を使ってくれ」


店主の背後の壁に、粗い木版画の手配書が貼ってあった。


黒髪の東方人、リュートを抱えた姿が大きく描かれている。


雨で少し滲んでいるが、確かに俺だ。


アルベルトが顎で指す。


「それは?」


「ああ。騎士様が置いて行ったんだ。

 なんでも王を殺した不届き者が逃げてるらしくてな。

 黒髪の異邦人が目立つグループだってよ。

 あんたらは違うみたいだけどな。はっはー」


店主が腹の底から笑う。


俺たちは引きつりながら合わせて笑った。


「都会は物騒だな。田舎者の俺たちには関係なさそうだけど」


アルベルトが肩をすくめ、俺たちを振り返る。


「荷物を置いて、食事にしよう」


二階の部屋は狭く、丸太の匂いが染みついていた。


マントを干し、蝋燭一本で四人がテーブルを囲む。


スープは熱く、羊肉と豆がたっぷり入っている。


久しぶりに腹が満たされる。


ガレンが口を開いた。


低く、怒気を孕んだ声だった。


「言っておくが、こんなことに巻き込んで許してはおらんぞ。

 こうなったからには一蓮托生で付き合うが、

 貴様のせいで王都のスマイルキャットに行けなくなった」


普段ほとんど喋らない男が本気で怒ると、本当に怖い。


アルベルトは素直に頭を下げた。


「巻き込んでしまって本当にすまない」


「そしてエレナも申し訳ない。

 ここで別れてしまっても構わない。その方が安全かもしれない」


エレナがぴしゃりと言い返した。


「何を言ってるのアルベルト。

 女一人で旅する方がよっぽど危険に決まってるじゃない。

 それに私ももう手配書に載ってるわよ。

 安全な場所まで責任取ってよね」


アルベルトはもう一度、深く頭を下げた。


「ガレンにも、いつか埋め合わせさせてくれ」


その瞬間——


バタン!


扉が蹴り開けられるような音がして、


二人の銀獅子隊が酒場に入ってきた。


ズカズカとカウンターに詰め寄る。


「手配書のものは見なかったか?」


「いや、来てませんぜ旦那」


「見かけたらすぐに言うように」


「もちろんです旦那」


騎士たちは踵を返し、ズカズカと出て行った。


一階が静まり返る。


俺たちは完全に凍りついていた。


肝が冷えるとは、まさにこのことだ。


アルベルトが息を吐き、小声で言った。


「まずはどうやってこの街を抜け出すかだな」


俺は提案した。


「ここの材木は交易品なんだよな。

 陸路じゃなくて、川を使って輸送してるんじゃないか?」


アルベルトの目が光る。


「その材木と一緒に川を下れば」


「それだな。陸路より早いし、次の街まで追っ手を撒けるだろう」


ガレンが頷く。


「丸太は筏に組んで流すはずだ。

 藁を敷き詰めれば、一泊くらいは余裕だろう」


アルベルトが最後に付け加えた。


「ただし、行けるのはブリッジエンドまでだ。

 あそこは河川に関所がある。

 その手前で陸に上がる必要がある」


翌朝、日の出も間もない朝霧の中、


俺たちは宿の裏手、エーテル川の筏置き場に立っていた。


数十本の丸太が縄で組まれ、

すでに流れに乗り始めている筏がいくつもあった。


アルベルトが船頭らしき男に声をかける。


「おはよう。すまないが、少し協力して欲しいんだが」


小袋から銀貨を何枚か取り出し、そっと手渡す。


船頭は硬貨をチラと見て、懐にしまい込んだ。


「協力って何をだ?」


「実は俺たちは南から王都に向かうつもりだったんだが、

 何か事件があったようで仕事にならなそうだから帰ることにした。

 その……この筏に乗せてもらえたら楽が出来ると思ってな」


船頭は鼻で笑った。


「そんなことか。乗り心地は悪いぞ。

 自分の分の藁は自分で敷けよ」


「もちろんだ。助かる」


俺たちは丸太の隙間に体を滑り込ませ、


藁を頭から被った。


筏はゆっくりと流れに乗り始めた。


川面を滑る音だけが響く。


丸太が軋み、水が下で鳴る。


冷たい朝霧が顔を撫でる。


俺たちは息を殺し、


丸太の陰に四人、身を寄せ合った。


ロウフォードの街が、ゆっくりと後ろに遠ざかっていく。


まだ、追っ手は気づいていない。


ブリッジエンドまで、あと一日。

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