第11章 A Hard Rain's a-Gonna Fall(Bob Dylan)
本作は各章毎にイメージにマッチした楽曲をエピソードタイトルに添えております。
楽曲を視聴しながらお読みいただくとより雰囲気が増しますのでお試しください。
※エピソードタイトル「A Hard Rain's a-Gonna Fall」:Bob Dylan(1963)
夜半から降り始めた雨が、未だに止まない。
道は泥濘と化し、車輪が泥に呑まれた。
馬が嘶いても、もう動かない。
「……捨てよう」
アルベルトが短く言った。
荷物は最低限。
リュート、ハープ、太鼓の胴、金貨、干し肉三日分。
それだけを背負い、残りは雨に沈める。
ガレンが馬の頬を撫で、手綱を切り、尻を叩いた。
馬は森の奥へと駆け去っていく。
これで追っ手が来ても「馬車を捨てて馬で逃げた」としか思えない。
四人、泥の中を歩き始める。
次の街、ロウフォードまでは徒歩で一日。
道半ば。
蹄の音が近づいてきた。
俺たちは道を外し、倒木と藪の陰に身を伏せる。
銀の胸当てに獅子の紋様。十二騎。
王の近衛騎士団、銀獅子隊だとアルベルトが耳元で囁いた。
泥に顔を埋め、息を殺す。
雨音。
雨音。
雨音だけ。
「馬車を捨てて街に向かったのだろう。行くぞ」
ほんの数十センチ前を、騎士たちが通り過ぎていく。
誰も動かない。
心臓の音だけがうるさい。
蹄の音が遠ざかる。
完全に聞こえなくなり、雨音だけに戻るのを確認してから、
俺たちは這うように立ち上がった。
「さぁ。行こう」
緊張で口数も少なく、再び歩き出す。
夕刻に差し掛かる頃、ロウフォードの北門が見えてきた。
門兵がいる。
銀獅子隊との鉢合わせを避けるため、城壁沿いに回り、南門から入ることにした。
「ちょっと待って。提案があるの。こっちへ」
エレナが呼び止め、城壁沿いの暗渠に潜む。
「胡桃と古いワインの絞り粕よ」※1
小さな布袋を取り出した。
「これで髪を染めて変装しましょう」
「それはいいアイデアだ。全員で髪を染めて入ろう」
濡れた髪に塗り込むと、すぐに暗い茶色に染まっていく。
「ある程度濡れても平気だし、十日くらいはもつはずよ」
マントを深く被る。
「俺たちは嵐で馬車を失った貧乏吟遊詩人一座だ。
タロスは喉を痛めて声が出ない。口を開くな」
俺は頷いた。
南門。
衛兵に呼び止められる。
「マントを剥いで顔を見せろ」
俺たちはマントを剥ぎ、顔を見せた。
雨が強くなり、衛兵はうんざりした顔で手を振る。
俺たちは雨と泥に紛れ、ロウフォードの街へ滑り込んだ。
街の空気は重い。
門の横の壁に、手配書が貼ってあった。
──黒髪の東方人、金髪の男二人、女一人、四人組の吟遊詩人。
王を殺した凶賊。
生け捕り、あるいは即座に討て。
報奨金 金貨五百枚──
雨が、手配書を滲ませていく。
※1「胡桃とワイン粕」中世での一般的な染色素材でした。




