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★What a Wonderful World ~異世界の着信音~  作者: 太郎アームストロング


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第10章 The Answer Is Blowin' in the Wind(Bob Dylan)

本作は各章毎にイメージにマッチした楽曲をエピソードタイトルに添えております。

楽曲を視聴しながらお読みいただくとより雰囲気が増しますのでお試しください。

※エピソードタイトル「The Answer Is Blowin' in the Wind」: Bob Dylan(1963)

フルタイトルでの再掲です。

【前書き】

『ひとつの歌は革命を起こす』


1969年ベトナム反戦を掲げる若者たちの間で自然発生的に生まれたスローガン。


毎週土曜日に新宿西口に数千人規模が集まり反戦フォークソングが歌われた。


後に1987年エストニア・ラトビア・リトアニアでは歌で戦車を止めソ連からの独立を達成。


1973年チリではビクトル・ハラの歌が反独裁運動のシンボルに。


1986年フィリピンではラジオで反戦・反独裁ソングが流れ、数百万人が集まりマルコス政権を倒す。





「いったい何が……?!」


歌い終わった俺は、状況が把握できずに凍りついていた。


「生かして捉えよ!」


遠くから響く叫び声に、衛兵たちが一斉にステージへ殺到してくる。


一人が手を伸ばした瞬間――その衛兵は壇上から弾き飛ばされた。


ガレンの巨体が、まるで壁のように立ちはだかったのだ。


「大丈夫か、タロス!」


「ああ……ありがとう」


アルベルトがエレナの手を掴み、俺の腕を強く引く。


「巻き込んで悪かった。急いで逃げるぞ!」


もう考える余裕はなかった。


俺たちはステージから飛び降り、人ごみをかき分けて市場へ突っ込んだ。


市場入り口では衛兵二人が待ち構えていたが、商人風の男たちが取っ組み合って食い止めている。


「あんたら行ってくれ!」


「ここは俺らが!」


アルベルトが一瞬躊躇した。


「……好意を無駄にするな。行くぞ!」


人をかき分けて市場を進んでいると――


誰かに腕を強く引かれ、木工芸品店の建物の中へ引きずり込まれた。


振り返ると、アルベルトたちが追うように入ってくる。


「タロス様。風の会の者です」


突然の「様」付けに頭が真っ白になった。


俺の名前をなぜ知っている? 風の会って何だ?


「時間がない」


アルベルトが鋭く男を急かす。


――まるで顔なじみのように。


「裏に馬車を用意してあります。フリーハーバーまでお急ぎください」


男は深く頭を下げ、裏口へ通してくれた。


裏口には荷物の積まれた二頭立ての馬車。


ガレンが無言で手綱を握る。


「ガレン、南だ。フリーハーバーへ!」


「了解」


馬車が走り出すと同時に、アルベルトが俺とエレナを荷台へ押し込み、自分も飛び乗った。


南門はまだ混乱が伝わっていなかった。


難なく抜ける。


しかし、後ろから二頭の馬が猛スピードで追いついてきた。


「風の会の者です! 追っ手は我らで足止めします。タロス様、お急ぎください!」


「待ってくれ! なぜ俺の名前を――」


返事はなかった。


二人は馬を返し、城門から出てきた衛兵の群れへ突っ込んでいった。


馬車の音だけが、俺の叫びを掻き消していった。




「……なんとか振り切ったようだな」


アルベルトが後ろを警戒しながら呟く。


馬車の音だけが、静かに響いていた。


「説明してくれるんでしょうね」


エレナが珍しく鋭い声で詰め寄る。


「聞かせてくれ、アルベルト」


俺も声を震わせて言った。喉がカラカラに渇く。


「そろそろ馬を休ませたい」


御者台のガレンが振り向いた。


「休憩しよう。……だが、長居はできない」


林道の脇に馬車を停め、俺たちは荷台に腰を下ろした。


野営の準備すらしない。


沈黙が重い。


アルベルトが、ゆっくりと口を開いた。


「俺は……風の会の刺客だ。黙っていて、すまなかった」


エレナの目が鋭く光る。


「風の会?」


「アサシン組織だ」


「暗殺者集団ってこと!?」


「違う」


アルベルトは首を振った。


「風の会は平和を目的としている。


戦争を止めるために、戦争を始められなくする。


それが俺たちのやり方だ」


俺は息を呑んだ。


「だから……王を?」


「ああ。そして今日の広場には、俺以外にも何人も潜んでいた」


「俺の名前を、なぜみんな知ってるんだ?

 なぜ『タロス様』なんて……」


アルベルトは静かに頷いた。


「俺が受けた指令はこうだ――

 『タロスの合図を待ち、実行せよ』」


「俺はそんな合図なんかしてない!」


声が裏返った。


「タロスは……風の会の創始者の名だ」


一瞬、時間が止まった気がした。


「50年前、黒髪の東方人――伝説の暗殺者『リュート使いのタロス』。

 彼は平和の歌を奏でながら、要人を次々と葬った。

 その歌が、暗殺の合図だったと伝えられている」


エレナとガレンが、息を呑んで俺を見た。


「まさか……タロスが……」


「違う! 俺はただの――」


「でも、お前は黒髪だ」


アルベルトは静かに続けた。


「そして今日、あの歌を歌った。

 『I hope someday you'll join us……

   And the world will live as one』

 ――“君もいつか仲間になってくれたら

 そして世界はひとつになるんだ”


  組織の者たちは確信しただろう。

  伝説のタロスが、帰ってきたと」


俺は言葉を失った。


歌で世界を変えようとした。


でも、変えたのは――血だった。


「でも……俺は記憶が……」


「記憶が無いというのは、嘘だったんだな?」


鋭い視線が突き刺さる。


エレナが、小さく震えた。


「……そうなの?」


「すまない」


俺は俯いた。


「信じてもらえないと思って……黙ってた」


ガレンが無言で俺の肩に手を置いた。


重い、温かい手だった。


アルベルトが立ち上がる。


「詳しい話は、フリーハーバーで聞ける。

 風の会の本部がある。

 ――そこに行けば、すべてが分かる」


馬が鼻を鳴らした。


「さあ、出発だ。次の街まで、まだ遠い」


俺たちは互いに視線を交わし、


それぞれの想いを胸に秘めて、


馬車を走らせた。


夜の風が、冷たく頬を打つ。


まるで、まだ血の匂いを運んでいるように。

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