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第一話 ???


 殆どの生徒が寮生活を送るこの学園の大食堂は、昼時になると生徒たちの声とカトラリーの音でいつも賑わっている。


 長いテーブルがずらりと並ぶ一角。窓際の椅子に腰掛けた少女は、まだ湯気の立つパンを力任せに引き裂いた。


「本っ当、信じられない!あたしだけ走り込みだの殴り合いだの、バカみたいじゃない!」


 なにが気に入らないのか、翠緑の長い髪をふたつに束ねたアリカ・クーゲリルは、薄く色付いた頬を膨らませて声を荒らげた。

 士官養成科。文字通り、将来的には軍務に就くための学科だ。走り込みも殴り合いも、訓練としてはごく基本的な部類に入る。


 テーブルを挟んだ向かいの席で、顎で切りそろえられた濃紺の髪を耳にかけながら静かにスープを飲み込んだ少年は、目尻の上がった大きな目でアリカを冷ややかに一瞥した。


「アリカの加護じゃ仕方ないと思うけど。それに、走り込みの追加は自業自得だろ?強いて言うなら体力のない自分自身を恨むことだね」


 呆れたようにそう言うと、またひと口スープをすくって飲み込んだ。

 言い方はさておき、少年──リオル・マリオンの言うことはいつだって正しい。……正しいけれど、残念ながらこの場合に限っては不正解だと言わざるを得ない。

 予想通り、アリカの眉間には深く皺が刻まれている。


「そんな話してないでしょ!あたしだってねぇ、あんたたちみたいにドカンと力を使いたいのよ」


 ため息混じりに項垂れたアリカの頬を、長い前髪が撫でた。


「おいおい、不吉なこと言うなよなぁ。お前がドカンと力を使うような状況なんてどんな地獄だ」


 その隣で困ったように眉を下げながら笑っている襟足の長い真っ赤な髪の少年は、ユーリ・レイガード。

「それもそうだけどさぁ」とまだむくれた様子のアリカに、白い歯を見せてからからと笑った。


「まぁでも実際さ。リオルの言い方はアレだけど、基礎訓練は大切だろ?ここぞって時にバテて動けねぇのは最悪だ」


「……ここぞねぇ。国ができてからこの二百年間ずーっと、平和すぎるくらいだってのに?軍を目指すのもお金のためだし、正直適当にやり過ごしたいわ」


 ︎︎幼い頃から共に育った三人の、いつも通りの穏やかな日常。──残された時間は、もう限りなく短い。


 ︎︎はぁ、と深くため息を吐いたアリカが、手にしていたままですっかり湯気の立たなくなったパンを口に放り込む。


「……平和、ね。最近、身体の石を抜かれた死体が上がってるって──」


 ︎︎肘で顎を支え、さして興味もなさそうに呟いたリオルがふいに窓の外を見上げる。



「──は?」


 ︎︎その直後。空に微かな破裂音が響き、一瞬にして巨大な影が辺りを包んだ。


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