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死刑宣告を受けた悪役令嬢、目覚めたら魔王に跪かれていました  作者: 妙原奇天


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第四話 断罪の日に交わした“約束”

 ――鐘の音が響いていた。

 どこか遠く、懐かしい音。

 それは夢の中の音なのか、それとも記憶の残響なのか。


 目を開けると、窓の外に薄い霧がかかっていた。

 魔王の城の朝は、世界がまだ眠っているように静かだ。

 私はその静寂の中で、心臓の鼓動を確かめた。

 ――生きている。確かに、今、私はこの世界に存在している。


 「よく眠れたか」


 低く穏やかな声。

 振り返ると、魔王――彼が、窓辺に立っていた。

 鎧を脱ぎ、黒衣の上着だけを羽織っている。

 夜明けの光が彼の横顔を照らし、まるで彫像のように美しかった。


 「眠れたわ。でも、夢を見たの。……また、塔の夢を。」


 魔王はゆっくりとこちらを振り返った。

 「塔の夢。――それは“記憶の呼び声”だ。おまえの魂が、かつての約束を思い出そうとしている」


 「約束……?」


 彼は近づき、机の上の封筒を指さした。

 黒い蝋で封じられたその封筒には、金糸で紋章が刻まれている。

 見覚えがあった。胸の奥が微かに痛んだ。


 「開けてみろ。それは、断罪の日の前夜、おまえが自らの手で書いた手紙だ」


 震える指で封を切る。

 中には、震える筆跡で書かれた一行だけの文字。


 『もし私が死んだら、あなたの名を呼ぶわ――“リオル”』


 ――リオル。

 その名を目で追った瞬間、頭の奥で何かが砕ける音がした。

 火刑台の赤、夜の塔、焼け落ちる空。

 そのすべての中心に、ひとりの男がいた。

 “リオル”。

 彼が、私の魔王。かつての恋人。かつての敵。


 「思い出したのね」


 魔王――リオルが、微かに笑った。

 「おまえがその名を思い出した瞬間、契約の封印がひとつ解けた。

  ……これで、おまえは完全に“こちらの世界”の存在になった。」


 胸の紋が淡く光り、痛みがすうっと消える。

 それはまるで、鎖がほどけたような感覚だった。


 「でも……なぜ、わたしを死なせたの? あの日、あなたは――」


 問いかけの途中で、リオルの瞳が曇る。

 「俺が殺した。

  だが、それしか方法がなかった。おまえを生かすには、王国の儀式を“完遂”するしかなかったんだ」


 「完遂……?」


 「おまえの魂を守るために、形だけでも“処刑”が必要だった。

  それが、王国と魔族の均衡を保つ“偽りの贄”の儀式――」


 リオルの言葉は、静かな怒りに震えていた。

 「俺たちは、愛し合ってはならなかった。

  魔族の王と、人間の王女――おまえの血筋は、世界の均衡を揺るがす存在だったからだ」


 胸の奥で、何かが軋む。

 そんな理由で、あの日、私は――。


 「わたしは……贄だったのね」


 「違う。おまえは希望だった」

 リオルが強く言い切る。

 「誰も知らないところで、世界はおまえの命に救われた。

  だが、その代償として、おまえは“記憶”と“人間としての時間”を失った」


 「じゃあ、私は今……何なの?」


 リオルは目を伏せた。

 「半分は人間。半分は、魔の契約者。

  ……おまえは、この世界の境界に立つ者になった」


 沈黙。

 窓の外では、薄明の空が金色に染まり始めている。

 鳥の声も、風の音も、遠い。

 ただ、リオルの瞳だけが、私を確かにこの世界に繋ぎ止めていた。


 「レイシア。もう一度だけ聞かせてくれ」

 彼が私の手を取る。

 「おまえは――それでも俺を、許せるか」


 言葉が出ない。

 許す、なんて簡単な言葉では足りない。

 けれど、指先に伝わる熱が、あの日の約束を思い出させた。


 「リオル。あなたの名を呼ぶことが、私の選んだ“赦し”よ」


 その瞬間、黒い紋が完全に消えた。

 同時に、空が揺れた。

 遠く、王国の方向から、青い光柱が立ち昇る。


 「――来たか」リオルが呟く。

 「王国が、境界を越えた。断罪の続きが、始まる」


 彼の背に、黒い翼が広がった。

 私はその光景に息をのむ。

 炎のように美しく、そして悲しい翼。


 「行くのね」


 「守るために。おまえを、そしてこの世界を。」


 彼は手を差し出した。

 私はその手を取る。

 かつて処刑台で失ったはずの手。

 いま、再びつながる。


 ――断罪の続きは、ここから始まる。

 魔王と悪役令嬢、二つの罪を抱いた者の、もう一度の物語。

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