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1話 はじまり
――パチパチ、と木がはぜる音がした。
焦げた匂いが鼻をつき、肌を焼く熱が頬を撫でる。
群衆の罵声が、遠くに聞こえた。
「悪役令嬢レイシア・クローディア。王国への反逆罪により、死刑を――」
その声の続きを、私は聞かなかった。
目を閉じる。涙ではなく、炎の赤が瞼の裏を染める。
あぁ、これで終わりだ。誰も、私を赦さない。
――なのに。
目を開けた先にあったのは、真紅の絨毯と黒曜石の床。
闇の王座。その前に、膝をつく男がいた。
漆黒の髪、黄金の瞳。私を見上げながら、静かに呟く。
「……ようやく、戻ってきてくれたな」
理解が追いつかない。
処刑されたはずの私は、生きている。
しかも、目の前の“魔王”が――私に跪いている。
運命の歯車が、再び音を立てて回り始めた。
これは、断罪の続きを生きる物語。
そして――滅びた恋の、再生譚。




