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視察と調査

 ひとまず私は、表向きの外出理由だったルーラック領の視察を始めることにした。


 領内を実際に歩き回って、暮らしぶりを目で見て、領民達から話を聞いてみるんだ。


 というわけで、私は動きやすくて汚れても構わない服装に着替えて、近くの茶畑へ案内して貰うことに。


「レメリア様、収穫後の茶畑は、こうして茶樹の剪定などをして、必要なところに栄養が行くように手入れするのですよ」


「へえー、そうなの」


 メアに教えて貰ったりしながら、自分でも少しだけ鋏を入れたりしてみる。


 ……これでいいのか悪いのか、それすら自分でも全く判断がつかないけど、専門家のメアがそう言っているのだから多分いいんだと思う。


「どうやって、切る場所を決めているの?」


「そうですね、例えば……」


「なんだよ、そんなことも分かんねえのか?」


 メアに質問していたら、弟のルトスがバカにしたような口調で私の鋏を取り上げて、何の躊躇いもなく目の前の茶樹へと入れていく。


「こんなのはな、毎年やってりゃ自然と分かるようになってくんだよ、お城で贅沢三昧の皇女サマじゃ一生出来ないだろうけどな!」


「へえ、確かに私じゃ出来そうにないわ。すごいわね、ルトス」


「…………ふん!」


 素直に褒めたら、ルトスは気に入らないとばかりにそっぽを向く。


 以前の私なら、この死ぬほど失礼で生意気なガキにブチ切れて、今すぐ縛り首にしろとか命じていたかもしれないけれど……不思議と今は、全く腹が立たない。


 やっぱり、最初に感じた親近感のせいかしら?


「こらルトス!! またレメリア様にそんな口を利いて!! 大体あなた、いつも面倒だからって畑仕事サボってるじゃない!!」


「いでぇ!?」


 でも、私が許すことと周りが許すことはもちろん別で、ルトスはメアから拳骨を落とされていた。


 何すんだ! と憤慨するルトスに、メアもガミガミと遠慮なく説教を飛ばしていて……何となく、そっちの方が悲しい気持ちになる。


 メアは私に対して厳しいことも言うけれど、ここまで遠慮なく叩いたり説教したりっていうことは、流石になかったから。

 やっぱり、家族は特別なんだなぁって……そう思って。


「ねえルトス、普段畑仕事をしていないのなら、何をしているの?」


 そんな気持ちを誤魔化すように、私は笑顔で問いかけた。


 それを受けて、ルトスは「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向きながらも、一応教えてくれる。


「ルーラック家の騎士団の訓練場に行って、訓練に参加してるんだよ。俺は将来、世界最強の騎士になる男だからな!」


「騎士団といっても、やってることはただの警備隊とかそんなものですけどね。構成員みんな町の有志で、普段は畑仕事してますし」


「ちょっ、姉ちゃん、余計なこと言わなくていいんだよ!!」


 ルーラック家の騎士団か……考えてみれば、普通はそれくらいいるわよね。当然、一度目の時の……このルーラック領が滅んだ時も、ちゃんといたはず。


 それでも守れなかったというのは、それだけ敵が強大だったのか、数が多かったのか、あるいは……。


 それだけ、頼りない騎士団なのか。


「そっちも、後で見学してみたいわね」


「へっ、いいぜ、俺が案内してやるよ!」


「そう? じゃあお願いしようかしら。……あ、ちょっと待って」


「ん? なんだよ」


「最近……何か、おかしなことはなかった? やたら動物を見るなー、とか?」


 すぐに行こうとばかりに走り出すルトスに、私は何気なく問い掛ける。


 それに対して、ルトスははてと首を傾げた。


「動物……? いや、見てないけど……あー、でも」


「どうしたの?」


「見てないけど……そういえば最近、やけに向こうの山から、狼の遠吠えが聞こえるなーって」


 それくらいかな? と語るルトスに、私は「そう、ありがとう」とだけ伝えて、一緒に騎士団の訓練場へ向かうことに。


 ルトスからも、メアからも訝しげな視線を向けられたけど、確証も無い内から適当なことは言えない。


 ただまあ、そうね。


「グランデル、ちょっといい?」


「? はい、なんでしょう」


 護衛としてずっと背後に付き一言も発さない銅像か何かみたいになっていたグランデルを呼び寄せて、一つ頼み事をする。


 それを了承して貰ったところで、私達は騎士団の訓練場へ向かうのだった。





 そうしてやって来た、騎士団の訓練場だけど……まあうん、そこで訓練していた男達は、遠目に見ただけでも分かるような、お察しレベルの練度だったわ。

 やり直す前の私だったら、一人で全員制圧出来そうなくらい。


 今の私でも……最初から殺すつもりなら、全滅させられるんじゃないかしら?


「皇女殿下、ようこそ。男ばかりのむさ苦しいところですが、どうぞゆっくりしていってください」


「ええ、ありがとう」


 そんな感想を表に出すこともなく、私は一応騎士団の団長をしているという男性……クロシェさんと顔を合わせた。


 お父様より少し老け顔、四十代くらい? そんなクロシェさんは、他の団員達と比べると幾ばくか腕が立ちそうに見える。


 流石に、うちのグランデルと比べたら天地の差だろうけど。


「早速だけど、ここの騎士団の普段の活動内容を教えて貰える? 街の周辺を哨戒したりとかするのかしら?」


「あー、そうですね……」


 クロシェさん曰く、ここの騎士団の仕事は、持ち回りで街の近くをぐるりと見て回って、おかしな足跡──魔物や危険な害獣の接近を示すサインがないかを確認すること、もし確認されたら、罠を仕掛けたりみんなで山狩りをして、安全を確保すること。それくらいみたい。


 ただ、この辺りはあまり魔物が多く発生するような土地柄でもないから、実戦経験のある騎士はクロシェさん以外ほとんどいないんだって。


「それは……なんというか、大丈夫なの?」


「それはまあその……本職の騎士を雇う余裕もほとんどありませんからね」


 だから、クロシェさん一人だけが本職として騎士をやり、構成員は領民の有志が兼業でってことになってるみたい。


 想像していたより、ずっと状況が悪いわね……。


「……なら、もしかして狼の遠吠えの件も、まだ調査は進んでいなかったりするのかしら? 領民から、不安の声が上がっていたけれど」


「えっ」


 不安だなんて一言も言ってないぞ!? とばかりに睨んで来るルトスを無視して、クロシェさんをじっと見つめる。


 すると、彼は「参ったなぁ」とばかりに頭をかいた。


「狼の遠吠えですか……一応、把握はしているのですが……数名で山に入っても、痕跡はあれど狼の一匹たりとも遭遇しないもので。今のところ、何も進展はありませんね」


「そうですか」


 直接口にはしなかったけど、“まだ実害もなく、ただ遠吠えがうるさいという苦情が入っているだけの状態であまり本腰を入れて調査をする人的余裕はない”と、ハッキリその顔に書いてあった。


 もちろん、私だってそれくらいは予想している。だから……。


「でしたら、私の護衛から一人、調査に同行させましょうか? 魔法が使えますから、さほど人手も時間もかけることなく、あなた方の助けになれるかと思います」


 さっきグランデルにお願いしたのは、この件についてだ。

 狼が人里に現れれば、当然被害が出る。彼らも憂慮はしているだろうけど、もし手が足りていない様子だったら、誰か手伝いに回してあげて、って。


 私の滞在中の身の安全を確実なものにするために必要だから、って言い訳を添えたら、快く了承してくれたし……後は、クロシェさん次第だ。


「本当ですか!? いやぁ、かの有名な近衛騎士の御力を借りられるのでしたら、非常に助かります。ありがとうございます、皇女殿下」


「いえいえ、これもまた皇族の務めですから」


 これで、自然な流れで周辺の様子を確認する口実が出来たわ。


 後はもう、お父様ご自慢の近衛騎士が、その力をしっかり発揮してくれることを祈るだけね。


 そんな風に考えながら、私はニコニコと笑顔の仮面を貼り付けて、クロシェさんとの応対を続けるのだった。


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