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フォトンの1日。

 はじめまして、もしくはこんにちわ。


 初めてのスローライフものです。


 第一話がお試し品となっております。読んでいただけると嬉しいかな。面白ければ後ろの作品もご覧下さい。ポイントとかは特に気にしておりませんのでご自由にどうぞ。


 現代社会や史実等に比べたらご都合主義とか考察浅いとかありますが。広い心で受け取り下さい。広く無い人は感想まで。但し返信できるとは限りません。


 なお、この世界の言語を日本語に翻訳しているため、表現において意訳、若しくは比較対象し同じようなものを表記する場合があります。

(度量、単位や動物、植物、植生、固有名詞など)



 この物語は王国語を日本語に変換しております。読者様によっては不快な表現があるかもしれませんがご了承下さい。


 ある王国の辺境の村。ランベル。そこの村主はフォトン=ランベル。先の戦争で活躍し、貴族に成った若き騎士である。彼は個人的な事情で前職を辞し、その代償としてこの村を受領したのだ。


 彼の一日は朝早くから始まる。


 暗いうちから起きて平民が着るような粗末な服に着替える。貴族とは言え領地は村一つ。早い話が村長だ。だから大概のことは自分でする。顔を洗い、歯を磨き、それから村の周囲を走って警邏と訓練を兼ねる。たまに同じように走る村人や子供達とも出会う。それから屋敷に戻って朝食を作る。と、言っても広い台所で麦粥を煮るだけ。塩漬け肉や野菜を一緒に煮込む。出来た後に部屋の中寂しく粥をすする。一人暮らしの割には部屋数も多い。村の集会場や宿も兼ねているためだ。屋敷と言って良いそれを彼は少し持て余している。


 その後はを食器を洗い軽く部屋を掃除する。それから二階の自室で帳簿を管理。村の運用資金と次の秋の収入、王国に支払う人頭税やその他の税の計算。紙に計算用の魔導盤の計算結果を書き写す。魔導盤とは魔力回路を記し、魔法を使う板。この場合は計算結果を光魔法で出力する簡易的なものだ。フォトンはその結果を確認してニヤリと笑った。


「ま、このまま大きなことがなければ黒字に出来るな。多分」


 ほっと一息つくフォトン。辺境の村なのでまだまだ足りないところがある。色々作りたいものもあるし、この間重要な装備をうしなった。その補充の出費もバカにはならない。そしてこの村も収入も多いほうではない。が、他の経費は抑えているし、このままならなんとか暮らしていける。発展もできる、と、彼は考えている。最悪魔物を狩って金に変えてもいいし、と。


 フォトンはふと窓から外を見る。高台に建てられた彼の家から北側の村の周辺が見通せる。十五棟程の民家とそれを取り囲むように作られた壁。壁には門が拵えてあり見張り台も隣にある。その向こうには広大な広い土地と畑。外側には未完成の柵がある。その向こうには森が広がる。いや、森の中にこの村があるのだ。


 窓の反対の南側には倉庫や井戸、村の門がある。門からは道が森を切り裂いて通っている。王国が切り開いた道。でも今管理しているのは彼だ。道は辺境伯領へと続いている。


「まあ、思ったよりはなんとかなってるよな」



 フォトンは呟く。いつの間にか独り言がでてしまう癖がついたらしい。それに気付いた彼は苦笑いする。そしてこれまでの事を思い出した。


 戦争での活躍。そして英雄としての凱旋。それから多くの者たちによる陰惨な王国中央の政治。それに振り回されたフォトン。その慣れることはない数ヶ月は大変だったと彼は顔をしかめた。色々な表情の人々の顔が頭をよぎる。その光景を振り払うように頭をふって気を引き締める。


 そんな中、家の外から声が聞こえた。声と言うより怒鳴り声。


「おおい、フォトン!」


 屋敷の外からもう一人の声が聞こえる。こちらは女性だ。


「フォトンさん、聞こえる?」


 この村に来るときについてきたランドとその妻ペルセ。長い付き合いの彼らはフォトンについて来てくれた部下であり友人だ。立場は從騎士。一応爵位を持つが、それは皆には隠している。彼らも逃げてきた身であるため。


 フォトンは姿を見せるために二階の窓を開ける。魔物の素材でてきた半透過製の窓は外からは灰色の壁にしか見えない。


「聞こえてるよランド、ペルセ。いつも仲が良いな」


フォトンの声に照れる二人。


「いやぁ、まあな」


「バカ」


 ついランドに肘鉄を食らわすペルセ。ランドは大袈裟にいたがってみせるが、そのあと、更に大声を出す。


「そろそろ畑を耕すから、鋤の準備をしてやってきてくれ。みんな準備は出来ている」


「わかった。ってもうそんな時間か! すまない」


 フォトンは一階におりて二人を迎え入れる。ペルセは袖をまくりあげた。


「じゃ、屋敷の中はちゃんとしとくからね。まず掃除掃除」


 基本的にこの屋敷の家事はフォトンがやる。だが、元々フォトン自身は家事が得意なほうではない。騎士なのである程度の事は出来るが所詮ある程度。故に今では見かねたペルセが取り仕切っている。彼女曰く、フォトンはランドと一緒で大雑把だという。若しくは細かい所に行き届かないとか。


「頼みます。だいたいの物資は揃ってますから」


 ニッコリと笑うペルセ。


「わかったわ。でも上水槽に水はくんでおいてね」


 ああ、と、苦笑いするランドとフォトン。ランドは念押しした。


「大丈夫だよな。フォトン」


「勿論。同じ間違いは繰り返さない」


男2人に笑顔をみせるペルセ。


「そう? このあいだも水出なかっなかったから大変だったのよ。ここの上水槽は皆の家とつながってるからね。ちゃんとしてよ」


 その時の事を思い出したのか、フォトンは苦笑いする。そう、ペルセを中心に村の女性陣に吊るし上げられた時のことを。


「大丈夫、ペルセに言われなくなるようにちゃんとするよ。とりあえず行ってくる」


 そう言ったフォトンはランドを引き連れ、裏の納屋に行く。母屋よりもかなり大きな納屋だ。


 納屋の中には巨大な人影。立ち上がればフォトンの背丈の二倍以上にはなる大きさ。今は台座にしゃがんでいる形だ。それはグラムと呼ばれる大きな鎧、王国正式採用の魔鎧(アーマー)。魔物の素材と魔法技術の粋を集めて生み出された、この世界での最強の個人装備。大きな鎧てあり、魔法の杖でもある。王国はグラムの大量生産で国を富ませ、強国の一員に躍り出たのだ。


 フォトンは、正面の胸甲に当たる部分を開け中に入る。魔物の外殻を使ったそれは、外部からは灰色の素材にしか見えないが、中からは外の光景を透過する構造となっている。


 フォトンはグラムを起動させるために肌見放さす持っている短剣を正面の魔導盤に差し込む。


そして魔力を通し、魔法を起動する言葉、コマンドワードを言い放った。


「グラム、魔鎧駆動(アーマドライブ)


 この世界では希少な金属を使った魔法回路が起動。魔力力場をグラムの形に形成し親和させた。魔力で動くグールやスケルトンを参考に、ゴーレム駆動魔法を改良した魔法。フォトンがグラムに魔力力場を展開することにより、彼の意のままに動く魔鎧(アーマー)となる。そしてがグラムが立ち上がる。文字どおりに。


「おおい、出れるか?」


 ランドの声にフォトンも答えた。


「ああ、いつでもいい。先導を頼む」


 ランドの役目はグラムが動く際の周囲の警戒。子供達、特に男の子はグラムをみると寄ってくるためだ。魔物の外殻で作られたその姿は騎士の象徴であり、力の具現化であるから。娯楽がないこの村においては身近なヒーローと言える。


 フォトンのグラムは立ち上がり、一旦外に出る。何人かの子供が既にこちらに来ている。親たちの畑仕事を手伝っているのだから、だいたいの予定はわかる。故にフォトンの屋敷の納屋まできていたのだ。本来ならフォトンは末端でも貴族。普通はこんなふうに近寄ることはない。だが、彼は気にしない。なので子供達もなついている。ランドはそんな子供たちを笑って誘導する。魔鎧(アーマー)の周りは危険なのだ。その力はひとの数十倍やわか


「おおい、グラムに近づくと危ないぞ。そっちの方まで下がれ」


 子供たちは素直に下がる。ランドとフォトンは彼らの師匠でもある。色々教えているため一応言う事を聞く、事が多い。


 フォトンはグラムを井戸の近くに立たせでつるべを使ってで水をくみ上げる。水は大きな樽に詰めて二つたまった所で屋敷の近くの上水槽に持っていき水を流す。その繰り返し。やがて上水槽の上まで水がたまる。溜まった後はふたを閉めてランドに指示した。


「すまないが、子供たちを先に畑まで連れてってくれ」


 ランドは二つ返事で引き受ける。


「ああ、いいぞ。しかし、大丈夫か? ちゃんと道を歩けるか? 人踏んだり建物とかぶつかったりしないよな?」


 笑って誂うランド。


「何言ってる。こう見えても騎士だぞ。魔鎧(アーマー)の扱いには慣れているよ。ちゃんと安全第一で歩く。」


「そうだよな、でも昔は良くすっ転んでたよな」


 ランドはニヤリとわらった。歓声を上げる子供達。


「あれは君がちょくちょくちょっかいかけてきたからだろ。俺のほうが早く走れるとか何とか言って」


「それでムキになって走らせたのは何処のご領主様かな、フォトンどの?」


「君の煽りが非常にすごかったからね。負けたくなかったんだよ」


「同級生の制止も教師の命令も聞かずにな」


「君も同罪だ。第一、あの時だけじゃないだろ! 他にもちょっかいかけてきて」


 それを聞いてさらに騒ぐ子供たち。


「ほら、やっぱり師匠達もワルガキだったってペルセさん言ってたよな」


「そういえばランドししょーもフォトンししょーもグラム壊してたって言ってた。しょーもないことで」


「アルと同じよーなことしてたの? ししょーたち、すごいいたずら好きだったんだ」


「ペルセさん言ってたな。二人組んだらいつもトラブルばかりだって。実はどんくさいんた、とか」


「師匠達も子供みたいなところがあったんですね」


 ランドは、少し恥ずかしくなって怒鳴る。


「うるせー! 俺たちにもガキの頃くらいあるわ。失敗もした。でもなちゃんと失敗繰り返したりしないように工夫したり鍛錬したり鍛えたりしたんだぞ。笑うな!」


 フォトンは静かに言った。


「ふむ、みなさんには人生の厳しさを教えましょうか。明日からの鍛錬は二倍にしましょう」


「ランドししょー、おうぼう!」


「フォトンししょー、陰険」


「師匠達、ひどいです」


「うるさい、ガキども、行くぞ」


 ぼやきながらも子供達を引率していくランド。騒ぎながらもちゃんとついていく子供達。


 フォトンは笑いながらグラムを動かし納屋へ戻る。そして魔鎧(アーマー)用の台座からこちらも大型で幅広の鋤と同じく大型の槍を持たせて外へ出る。いずれも魔物を素材としており、人が持ったり出来る大きさではない。ちなみに台座は三つあり、今使われているのは一つ。武器等を備え付けられるようにもなっている。それでも前任の男爵はほとんど全てを持ち帰ったため、内部は広い。奥にはバラされた交換部品が山程あるが。


 フォトンはグラムに槍と鋤を持たせて屋敷を出る。一段下の平地へと道を下る。道の両側には民家が並んでおり、やがて村を囲む柵、と、言うより壁の所まで来た。丸太をくんでおり、大型の魔物でも飛び越えたり倒したりするのに一苦労する強度を備えている。


 フォトンのグラムは道の先にある門まで歩く。そこには村人が門番をしていた。門番は毎日交代制で行っているのた。


「こんにちわ、フォトン殿。今日はよろしくおねかいします」


「ああ、」


 フォトンのグラムは門番が開けてくれた大扉を通った。そしてランドや子供達と合流し畑に向かう。


 畑に着くと、既に村人達が集まっていた。まとめ役のドレンが声をかけてくる。


「フォトン殿、お待ちしてましたぞ」


 ドレンは礼儀正しく言う。この村の古参で既に孫もいる初老の村人である。とは言え農作業と魔物との戦いで鍛えた体は引き締まり、眼光は鋭い。


「遅くなりました。今から準備します。少し待って下さい」


 そう言ってフォトンはグラムを動かす。畑の端まで来ると持っていた槍の穂先を大地に突き刺す。そして押し込み倒れないのを確認するとまた村人の所に戻ってきた。そして大型の鋤を大地に突き刺す。それから後ろを向いてしゃがむ。


 村人はグラムがしゃがむのを見て鋤に縄を結び、もう一方をグラムの腰に結びつける。グラムの腰には色々取り付けることができる様にカラビナが多数付いている。勿論武器も吊るせるが、本日は農作業の為に嵩張る剣などは吊り下げていない。前の方に短刀が2本下げてあるだけだ。グラム用なので人が使うには重いが。


 そして村人4人が鋤を掴み耕す準備をする。


「取り付け終わりましたぞ。フォトン殿」


 ドレンの声にフォトンはゆっくりグラムを立ち上がらせる。そして、ドレンたちに言った。


「じゃあ、動かすぞ」


「はい、お願いします」


 そしてフォトンはゆっくりグラムを歩かせる。その後に鋤を持った村人4人が続き、畑を耕す。のんびりとグラムと村人は歩き、その後を他の村人と子供達とが細かい石や雑多なゴミ等を拾い集める。ランドと。他の村人二人は武器を持ち、周囲を監視。畑の周囲は荒れ地がひろがっており、その先に丸太が多数。切株もアチラコチラに大量にある。森が近いため魔物が迷い込んでくることも多い。その警戒の為だ。


 魔の森の向こう、更に遠くには白い山陵が続いている。そこまでは少なくとも王国の手は伸びていない。否、あらゆる人の手は入っていない。この村が魔の森の最前線と言える。


 国の勢力争いの余波を受けた男爵が魔鎧(アーマー)を駆ってこの村を切り開いた。その後男爵は中央に返り咲き、そのかわりとして英雄フォトンが赴任してきたと言うわけだ。少なくとも士爵以上、魔鎧(アーマー)所持する騎士でないとこの村は詰む。


 フォトンは山の稜線をぼんやり眺めながらグラムを歩かせる。後ろでは村人が時折交代しながら鋤で畑を耕す。次にまくのは豆。これから暖かくなる春。その後豆の収穫を終えたら麦を蒔く。三年の間にフォトンはこの村の様子に慣れてきた。村人も何とか村長として扱ってくれている。


 森の方が騒がしくなる。鳥や獣が飛び出してくる。ランドは遠眼鏡で森を見た。顔が引き締まる。


「フォトン! オークだ! 3体こちらにやってくる! 結構早い」


 ランドが叫ぶ。フォトンはランドが指さした方向をみる。木を、いくらか倒して三つの影がこちらに近づくのを確認する。オークか、それに似た中型の魔物の可能性が高い。探査の魔導盤確認して距離を読んでから確認。その後、グラムをしゃがませ、村人に叫ぶ。


「すまない、鋤を外してくれ。ランドは皆を護衛しながら村まで避難」


 村人がグラムの腰の綱を外す間にランドが怒鳴る。


「フォトン、随伴は必要か?」


「不要だ。相手は中型の魔物だけだろう。ドレン、ランドを助けてくれ」


 ドレンは、鋭い目でグラムを見る。


「フォトン殿。オークのみではありますまい。ゴブリンを連れていることもありえます」


 オークはゴブリンの進化種。より獣側に進化している。その大きさは魔鎧(アーマー)とほぼ同じ中型の魔物。人より一回り小さいゴブリンのような小型の魔物よりは危険度が高い。


「どう見てもあの速さならゴブリンはついてこれまい。各個撃破出来る。オーク三匹なら何とかなるから早く逃げろ」


 ドレンは不審そうな顔をするものの、フォトンの指示に従う。その間にもグラムの鋤は外された。そのまま放置して逃げ出す村人。


 村人と子供達とが砦方面にうごきだしたのを見てフォトンは再度魔力探査盤でランドが示した方向を捜査。魔力反応を確認してからグラムを動かす。先ほど槍を突き立てた場所。畑の端。荒れ地が広がり、更に魔の森までかなりの距離があるが、気にせず槍を引き抜かせて深呼吸した。そして魔法を起動するコマンドワードを言い放つ。


武装化(アームド)


 魔法回路から魔法印が展開。槍とグラムの外装に魔力力場が親和し強度が強化される。


 それからフォトンはオークの方向へとグラムを走らせた。人の数倍の速度。森から飛び出てきたオークが近づいて来る。


 オークもゴブリンも頭部には赤く大きな宝石が顔の上半分についている。魔物の(コア)であり、頭や目の代わりをする器官だ。。当然目はない顔の下は牙が生えた広い口。特にオークは顔が突き出ていてイノシシのようになっている。


 オークは長い手も使って四足歩行、ナックルウォークしてくる。ゴブリンの類は基本的に手が長く、腕力に長けている。

 

 フォトンは、グラムの速度を少し落とす。そしてやや斜め前方から一気に近づき間合いをはかってオークの頭部、(コア)を槍で突く。避けもせず、中央を貫かれたオークは力を失いその場に崩れ落ちた。


 残り二匹はグラムに気づき、方向を変えてきた。フォトンはグラムを止め足場を固める。そして槍を構えた。


 二匹のオークはグラムに向かって突撃してくる。手前は四足歩行で速く、後ろは両腕を振り回して歩いてくる。フォトンのグラムは手前のオークが飛び込んでくるのを最小の動きで躱し槍でなぎはらってオークの足を払う。それから石突き側でオークの肩を突きバランスを崩す。、それから返す刀でオークの首を斬る。槍の穂先は魔力力場で切れ味を増しており軽く切り落とした。それと、同時に最後のオークが腕を叩きつけてきた。回避できず左上腕部に打撃を受けるグラム。しかしフォトンは力を受け流す操作をしてグラムのダメージを極力抑える。グラム自体の魔力力場が更に防御するが、上腕部装甲がきしみ破損する音が聞こえる。


 フォトンはグラムを数歩後退させ、間合いを取った。オークも追ってくるが、両腕を振り回しているためバランスが悪く、その速度は遅い。その打撃を槍の穂先で逸らす。たたらをふむオーク。間髪入れずにフォトンはグラムの槍を振り回し、オークの頭を穂先で叩き斬る。再度穂先は難なくオークの首を切り落とした。グラムは残心。しばらく様子をみる。


 そしてフォトンはほっとする。他にオークは居そうにない、と、思ったのもつかの間。


 魔力反応盤に大きな魔力反応。大型の魔物くらい。


 瞬時に森から飛び込んできた大きな影。


 フォトンは、グラムを後退させながらもぼやく。


「竜種、ワイバーンかよ」


 現れたのはグラムの数倍にはなる竜種。大型の魔物ワイバーン。頭部は角と外殻で覆われており、(コア)を守っている。前脚は肥大化し翼となっている。もっとも今は胴体横に折りたたまれて邪魔にならないようになっている。足は鳥のようで、蹴爪は鋭い。尻尾は長く鋭い穂先のような鱗が先端に生えている。


 その走力はとても早く、魔物の中でもトップクラス。今もグラムに近づくその姿はまともに捉えられず閃光のよう。


 突撃してきたワイバーンをフォトンはグラムを駆り避ける。とは言え魔力力場が震え、ぎりぎりかわすのがやっと。先ほど倒したオークがワイバーンによって踏みつぶされる。


 姿勢を立て直すフォトンの視野の隅に黒い影。グラムは左側に飛び込む。が、更に左腕の装甲が軋む。ワイバーンの頭甲があたった。一瞬、冷や汗をかくが、剣のような角に突かれなかっただけましだ、とフォトンは思う。そして旋回しワイバーンの方を向く。ワイバーンは走り去り、既にかなりの距離を取っている。


 ワイバーンは振り返ってグラムの様子を見ると、いきなり跳躍してきた。魔力力場によって更に加速しており、一瞬でグラムまで飛び込む。そしてグラムを角でつきさほうとする。その姿は巨大なバリスタの矢。


「甘いぃぃぃ」


 しかし、フォトンは叫び、グラムの腰を落としながら槍を薙ぎ払ってワイバーンに斬りつける。ワイバーンは吠えた。脚部に穂先が入り切り傷をつける。距離をとり、ワイバーンはグラムを睨みつけた。脚部の傷はふさがっていく。魔物の再生能力。特にワイバーンにまで進化すればその様なこともありうる。


 が、フォトンはニヤリと笑った。戦場ではワイバーンと対峙したことが何度かある。その経験が告げる。


「お前の動きは見切った。意外とたいしたことはないな」


 フォトンはグラムの足場を固め、槍を構えた。そして魔力力場を展開し、槍の穂先に集める。そう言えばワイバーンの素材は質も量も多いからかなりの金になるなんて思いながら。


「来い、今度はその首叩き切ってやる」


 フォトンは、ワイバーンもニヤリと笑った気がした。どちらにしても次の戦いで勝負が決まる。そう感じ、両者の緊張が高まる。


 そして最初に動いたのはワイバーンだった。両足を使って跳躍した。強靭な脚力と魔力力場がなせる技だ。そして翼を広げて、


「何? 貴様!」


 反転して加速する。その先には彼の村。勿論村人がまだ逃げでいる。厄介な奴はスルーして、人から食うつもりなのた。オークなどより柔らかく食べやすい獲物を。そして、距離をとればグラムは攻撃出来ないと踏んだのだ。 


「まて、卑怯だぞ」


 フォトンはグラムに槍を逆手に持ち替えさせて投擲姿勢をとる。


「穿て!」


 槍の穂先に魔力力場が集まり白く輝く。



「ゲイ・ボルグ!」


 コマンドワードを言い放ち、魔法発動。ゲイ・ボルグ。超光速で武器を投擲する魔法。グラムが穂先が光る槍を投擲する。


 グラムが放った槍は白い閃光となり、ワイバーンを貫いた。その威力でチリ一つなく消失させた。ワイバーンの魔力力場も身体もフォトンの放つ「ゲイ・ボルグ」の威力に耐えられなかった。



 はっとしたフォトン。


 「あ、やばい。素材が……」

 

 ワイバーンの素材の利益を頭の隅に負いていたフォトン。彼は利益が失われたのを感じ、落ち込み後悔した。がすぐにつぶやく


「けと、仕方ないよな。村が全滅するよりはマシだ」


 遠くでは、大人も子供もワイバーンがフォトンによって倒されたのを見て歓声をあげていた。特に子供たちは狂喜乱舞している。


 フォトンはその様子を見て無理やり笑った。とりあえず村は守れた。それでいい。と。


「でも、素材、惜しかったな」


 と、何度もつぶやきながら。






 時は変わって夜。


 フォトンの栄誉をたたえて宴会が開かれた。女衆によってオーク肉が焼かれ、とっておきの酒が出された。子供たちもとっておきの麦とバタを使った菓子が振る舞われる。場所は村長の屋敷の大広間。大人数がこの村にやってきたときの宿泊場となる場所だ。テーブルや椅子が並べられ。フォトンの言葉もそこそこに宴会が始まる。村人も子供達も祭りの時しかないご馳走に目を輝かせ、笑顔で頬張り、飲み物を飲む。


 そんな中、フォトンはその場を離れ、屋敷の外で一人ため息をついていた。外は満天の星空で、遠くに動物の声がするくらいだ。勿論屋敷の中からは雑多な声がする。


 そんな彼の所にいつの間にか近づくランド。彼はフォトンの様子を見て声をかけた。


「ああ、こんなとこにいたのか。フォトン。もしかしてワイバーンのことか?。気にしてるのは」



「ああ、ランド、すまない。ちょっと、な」


 ランドはフォトンの背中を叩く。


「お前、村を救ったんだぞ。普通ワイバーンなんかが襲ってきたら全滅だぞ。それからすると英雄だぞお前」


 ワイバーンは下位とは言え竜種。本来ならば魔鎧(アーマー)一騎で倒せるものではない。せめて伯爵が持つ戦力は必要だ。それを随伴兵もつけずに倒したのだから、フォトンの技量はかなりのものと言える。


「とは言え、何とかでしなかったかな、とは思うよ。魔物の素材。無駄にしちまった。ワイバーンの素材の金があれば出来ることはいくらでもある」


 そんなフォトンの言葉にランドは口笛を吹く。あまり良くは鳴らなかったが。


「流石、ドラゴンスレイヤー。言う事が違うね。軽く奴らを退けたって事か?」



 茶化すランド。フォトンは仏頂面で答える。


「そこまで自惚れてるつもりはないけどな。しかし、オーク二匹はワイバーンに潰されたし、ワイバーンは影も形もなくなった。素材や報奨がパァだよ。しかも槍一本全損。グラムもあちこち壊れたし。どちらかと言うと赤字だからな」


 フォトンの愚痴にランドが笑う。


「それでもオーク一匹は手に入ったんだ。何もないよりはいいさ」


「でも(コア)全損。中の魔石も屑石としてしか売れない」


 ランドは少しばつが悪そうに言った。


「俺が魔鎧(アーマー)壊したから、お前に負担かけてるな。 俺の実家から魔鎧(アーマー)出して貰おうか?」


 フォトンは首を振る。


「そんなことしたらお前がここにいることがわかってしまうぞ。それはお互いに困るだろ。それにあとしばらくしたら中古の魔鎧(アーマー)が来る。そしたら楽になるさ」


「あ、ああ。しかし」


「それに彼奴等が来なければ金銭的に何とかなったんだ。最悪、魔物を狩る事ができれば今回の損害は補填出来る。次はちゃんとするからさ、大丈夫だ」


ランドは頭を下げた。


「すまないな」


 ランドの様子に笑うフォトン。


「いいさ、友達だろ。しかし明日は魔物の群れが降るな。君が殊勝に謝るなんて」


「お前、ひどいぞ。こっちは真面目に言ってるんだからな」


「はは。とりあえず明日は明日の風が吹く。何とかする。とりあえず今日は酒飲んで寝よう」


「ああ」


 そんな二人を屋敷から出てきペルセが声を掛ける。


「もう、二人ともこんな所にいて。早く来なよ。せっかくのお肉にお酒、あいつらに食べ尽くされちゃうよ」


 ペルセはランドの腕を取り引っ張る。ニヤけるランド。


 それを見ながらフォトンは苦笑して後を追った。彼女ほしいよな、とか思いながら。

 

 こうして三人は宴会場へと戻っていった。





 この物語は、フォトンと言う貧乏貴族が、僻地の領地で苦労を背負い込む物語である。


 人はそれをスローライフと呼ぶ。

解説


魔物


 魔核をもち、魔法を使う生き物。基本はスライムであり、それから多種多様な魔物に進化する。大きさによって小型(人くらい)、中型(人の五倍くらいまで)、大型(人の五倍から十倍くらいまで)、超大型(十倍以上)となっている。超大型は魔力力場で動ける限界を超えるとその地に住み着き、ダンジョンになると言われている。知性を備えた魔物もいるとされるが詳細は不明。いまだ不明な点が多いいきものである。


魔鎧(アーマー)


錬金術で魔物の素材を使って作られた大きな鎧。魔法の媒体。魔物の素材による半透過性の素材を胸甲に使うため、直接視認できる。


士爵以上の貴族でないと所持出来ない、と、いうより魔鎧(アーマー)を、持つことで貴族となれる。基本的に士爵は一騎。男爵三騎。子爵六騎。伯爵九騎から十二騎。を持つことが必要とされる。



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