第6話 光花
西門を抜けた先、僕たちは薬草を採取するために夜の草原に立っていた。
遠くには町の明かりがチラチラと輝いている。
私は月明りを頼りに依頼書を読んでいた。
「ホームズ、この依頼書には薬草としか書いていないが。」
これではなんの薬草を採取すればいいのか分からない。
タイムなのかマレインなのか。
私が挙げた薬草の名前は共にイギリスで使われるものである。
「ああ、僕もそれが気になって聞きまわったんだが、どうやらこの国では薬草と言えば一種類しかないんだそうだ。」
ホームズは周囲を見渡しながらそう答えた。
「そう。私たちの国では薬草と言えばこれ、光花なんだよ!」
アドラーはそう言って一輪の花を私の鼻先に持ってきた。
それはとても甘い、上品な香りがする小さな花だった。
そして一番の特徴はなんと、花弁が白く輝いていたのだ。
「この光花は刺激をあたえると輝くの。そして夜にしか咲かない花なんだ。」
アドラーはその花の明かりを愛おしそうに見つめながらそう言った。
「だから夜にのみの依頼だったのだ。」
ホームズは自分の説明がアドラーに取られたのが面白くないのか、少し元気がなかった。
とにかく、私たちのするべきことは分かった。
さっそく、この野原に咲く光花を集めにかかった。
集め始めて分かったが、光るものと光らないものが混在していた。
アドラーに聞くと、どうやらまだ成熟していないものは光らないのだそうだ。
「アドラー、この薬草はなにに効くんだい?」
私は光る花を探しながらそう彼女に聞いた。
「うーん、基本的には傷薬だけど。」
「だけど?」
「この薬草をもとにして、いろんな薬を調合するんだ。」
なるほど。
この薬草に他の成分を混ぜ込むことによって、様々な効果が望めるということか。
「風邪薬や火傷の薬。それに解毒とかも。」
アドラーは持ってきたポーチいっぱいに光花を集めながらそう付け加えた。
空白。
その言葉を聞いた瞬間、私の頭は空白に満たされた。
「ワトソン君!」
遠くでホームズの声が聞こえる。
なにが起こったのだ…
興奮する感情を抑え、冷静に周りに注意を向ける。
端的に書こう。
私はぶら下がっていたのだ。
「ミス・アドラー。あの怪物はいったいなんだ!」
下の方でホームズが見える。
彼の顔は青ざめていた。
「あれは…。マンドラゴラだ!!」
アドラーは素早く懐から短刀を取り出していた。
できれば背負っているマスケット銃を使ってほしいのだが。
さて!
読者諸君に私のこの時の状況をお教えしよう。
まず、私は地上から約20フィートばかりのところにいたのだ。
それも逆さまで。
どうやら私は、足首をツルのようなもので縛られ、一気に上空の世界へと連れていかれたようなのだ。
先の空白は、視界が高速で回転したために起こったブラックアウトだったのだ。
勘弁してほしい。
次に、この一連の犯人について記載していく。
見た目はデカいミミズだ。
それも植物のツルが絡み合ってできた緑色のミミズ。
そのツルのうちの三本が、私の足首に絡みついていた。
おそらく頭と思われる部分にはピンクの花が生えており、ヒマワリのように中心に種のようなものが見えた。
大きさは30フィートはあったと思う。
「ワトソン、そいつの頭に気をつけてね!食べられちゃうから!」
ん?
今、アドラーから何か聞こえたが気のせいだろう。
私は深呼吸をして、その花の部分をよく見た。
あ……
ああ、あれはヒマワリじゃないな。
種だと思っていたものはすべて小さな鋭い歯だったのだ。
ホオジロザメの歯もあんな感じだったなぁ。
私は一周回って冷静になり、叫ぶのだった。
「どう気をつけろというのだァ!!!」