文化祭
レオが家に来て約2ヶ月が経った。
体育祭とほぼ同時に準備を開始してきて、今日はもう文化祭前日。
私のクラスはお化け屋敷をすることになった。
衣装や教室の装飾だけでなく、音響にも力を入れている。
リハーサルで、先生に来てもらったけど全力で怖がってもらえてみんな嬉しそうだ。
そういえば、風凪高校の文化祭には伝説があるらしい。
全クラス、文化祭用にミサンガを文化祭実行委員から配られる。
そのミサンガを後夜祭のある2日目までに好きな人と交換すればずっと一緒にいられるという伝説。
しかも、実際それで結婚した人もいるらしく、去年は璃子と恭が大変そうだった。
今年はレオもかな。もしかしたら山崎も。
まあ、私には関係ない話だけど。
準備も終わったし帰ろうとリュックサックを背負うとレオがこっちにやって来た。
「千星さん、帰りますか?」
「うん」
「では、2年3組に迎えに行きましょう」
「うん」
レオと一緒に2年3組の教室に行くと、女子に囲まれて仏頂面の男子生徒がいた。
やっぱり、なんだかんだイケメンだからモテるんだな。
用事が終わるのを待とうとしていると、山崎は私とレオに気付いてリュックを持って教室から走って出てきた。
「早く帰るぞ」
「そうですね」
レオと山崎が走って昇降口に向かうから、私まで走る羽目になった。
息を整えながら帰路に着くと、レオが来るまで家に来てくれていたハウスキーパーの森村さんに会った。
「あら、千星さん。お久しぶりです」
「お久しぶりです、森村さん」
「またお掃除で困ったら呼んでくださいね」
「はい」
レオがいる限り困らないと思うけど。
てか、お父さんに急に契約解除したこと不審に思われてないかな。
いや、解除したかどうかなんて知らないか。
家に帰ってレオが夜ご飯を用意してくれている間にお風呂に入った。
髪を乾かしてリビングに行くと夜ご飯が並んでいる。
今日はオムライスのデミグラスソースかけだ。
レオはレシピ本を買っては色んな料理を作ってくれる。
「ロッソ様、今日もワインを飲みますか?」
「いただきます」
レシピ本とかワインとか、いつも買ってくるけどどこからお金が出てくるんだろうと疑問になってレオに訊いたことがあった。
そしたら、向こうのお金をこっちのお金に換金して使っていると教えてくれた。
換金所とかあるの?と訊くと魔法を使っていると言っていた。
それって法律的にアリなの?って思ったけどまあ、そもそも魔法に関する法律なんてないだろうし仕方ない。
「黒川も飲むか?」
「未成年!」
「こんな美味いのに一生飲めねえのか。まあ、俺らのとこの酒も美味いから安心しろ」
そう言って美味しそうにワインを飲む。
それが山崎の最近ハマっている飲み方だ。
言われて気が付いたけど、私、この世界のお酒飲む前に死ぬんだな。
ちょっと残念かも。
夜ご飯を食べ終えてテレビをつけた。
いつの間にかお風呂からあがっていた山崎とレオもソファにやって来た。
夢にまで見た家族団欒。
家族って言っていいのか分からないけど、今ではその夢は毎日叶ってる。
その点においては2人に感謝している。
だって、みんな早く帰りたいって言ってるけど、私は帰ったら1人だから早く帰りたいなんて思ったことがなかったから、早く帰りたい家になったのはホントに2人のお陰だな。
恥ずかしいから言わないけど。
テレビの画面に視線を向けると、猫の可愛い動画集が流れていた。
山崎はふ~んと興味がなさそうな顔で見ていたけどレオは珍しく頬を緩めて画面を見つめていた。
「………レオ、猫好きなの?」
「好きというか、心が和むだけです」
「癒されるよね。山崎は、」
「俺は毛がつくから好きじゃねえ」
「そこは我慢するしか」
てか、猫見て和んでるレオ、ちょっと可愛い。
番組が終わると、10時半を過ぎていた。
そろそろ寝ないと、明日の朝寝坊するかも。
テレビを消してグッと背伸びをして立ち上がった。
「おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみなさいませ」
部屋に行ってベッドに入る。
急に知らない人が家に来て最初はどうなることかと思ったけど、人間ってすごいな。
こんなに慣れれるんだ。
むしろ、レオと山崎がいる方が家って感じがする。
~~~~~
スマホのアラームを止めて目を覚ます。
パジャマのままリビングに行くと、レオが朝食の準備をしてくれている。
「おはよう、レオ」
「おはようございます」
「山崎は?」
「まだお休みのようです」
「そっか」
ソファに座ってニュース番組をつけると占いをやっていた。
今日の天秤座の運勢は6位。
まあ、良くも悪くもないってことかな?
7時20分頃に山崎もリビングにやって来て、すぐに甘い香りのするキッチンに行った。
「レオ様、今日の朝食って」
「ハニーエッグトーストです。この世界ではフレンチトーストと呼ばれているそうです」
「こっちにもあるんですね!」
山崎は嬉しそうにランチマットとフォークとナイフをテーブルに並べた。
レオは焼きあがったフレンチトーストをお皿に並べてアイスクリームをすくって上に乗せた。
最後にフルーツを盛り付けて完成だ。
テーブルを囲んでフレンチトーストを食べ終えて璃子にみつあみのヘアアレンジをしようと言われていたから動画を見てヘアアレンジをすることにした。
けど、なかなか綺麗に出来なくて苦戦していた。
「千星様」
「ん?なに?」
「私で良ければお手伝いしましょうか?」
「お願い!この動画と同じ髪型にして!」
「お任せください」
レオは器用に私の髪を編み込んでいって最後にシュシュでまとめた。
ホント、器用な手だな。
レオに出来ないことってあるのかな?
「どうでしょうか」
「すごい!ありがとう!さすがレオだね!動画よりも綺麗かも」
「お褒めに預かり光栄です」
レオは笑ってブラシや小さいヘアゴムをまとめて片付けた。
レオと山崎が制服に着替えてから戸締まりをして一緒に家を出た。
いつもの通学路だけど、文化祭の日だとちょっと違って見えるな。
レオと山崎もなんかいつもと違って………
「2人とも髪色と瞳の色!」
「「あ、」」
銀髪のレオと赤髪の山崎。
家ではいつもそうだから見慣れすぎて違和感を感じるのに時間が掛かった。
2人は前と違って何も呟かずに目を閉じた。
すると、だんだん髪色が濃くなっていって真っ黒になった。
ゆっくりと瞼を開けた2人の瞳も黒色になっていた。
「あれ?呪文みたいなのは?てか、光らないの?」
「力を制御すれば光らねえし、しっかりイメージしていれば無口頭でも術は使える」
「そうなんだ。てか、それだったらいつもそうしたらいいじゃん」
「すみません。千星様の反応が面白かったので」
「俺はレオ様がそうしてるから俺もそうしてただけ」
つまり、レオにからかわれてたプラス無意識に山崎にもからかわれていたわけだ。
………どうやら2人とも若者らしい一面もあるようだ。
ため息をついて早歩きをすると、一定の間を空けてレオと山崎がついてくる。
気にせず学校に行って、教室に入る前に山崎と別れた。
HRは教室では出来ないため、隣の空き教室で行ってリュックサックもそこに置いておいた。
「千星!髪型可愛いね!」
「ありがとう。璃子もね」
「ありがとう!それにしても、準備係の私たちは本番は暇だね。受け付け当番もないし、脅かし役でもないし」
「じゃあ、恭のクラス行く?」
「そうだね」
璃子と、当然レオも一緒に恭のクラスに行った。
恭のクラスでは写真館をやっているらしい。
教室のドアを開けると、猫耳カチューシャをつけて高い位置でポニーテールをした少し小柄な女の子が髪を揺らしながらこっちに走ってくる。
その女の子は目の前で足を止めてニコッと笑って私の顔を見上げた。
「千星センパイ!お久しぶりです!」
「茜ちゃん、久しぶり。猫耳可愛いね。似合ってるよ」
「ありがとうございます!てか、恭呼んできますね!」
茜ちゃんはお客さんと話している恭の方に行って話し終わるのを待っていた。
私と璃子とレオも教室に入ってカチューシャでも探そうと思っていると、璃子が茜ちゃんの方を見て小さい声で話し掛けてきた。
「あの子が鈴原の妹ちゃん?」
「そうだよ」
「鈴原のこと、名前呼びなんだね」
「人前だけね。茜ちゃん、基本兄貴呼びだから。人が大勢いるときは名前で呼んでるだけ」
お兄ちゃんって呼ぶのはなんか嫌らしい。
かと言って、大勢の人の前で兄貴呼びをすると見た目のせいか驚かれることが多いからそれもそれで嫌らしい。
「あんなに可愛い子が兄貴とか、ギャップだね」
「私は慣れたけど。璃子はお兄ちゃんのことなんて呼んでるの?」
「普通だよ、普通」
普通って?
お兄ちゃんってこと?
「そんなことより、レオくんは兄弟いるの?」
そういえば、レオの家族のこと聞いたことないかも。
興味津々な顔でレオの顔を見上げると、少し間を空けて微笑んだ。
「いますよ。兄が1人」
「へえ~」
話していると恭がこっちにやって来た。
「3人も写真撮っていくか?」
「はい」
「鈴原も入ってよ」
「茜ちゃんもね」
そして、4人で写真を撮って少し話しただけで意気投合したらしい茜ちゃんと璃子は2人で食べ歩きをするらしく途中で別れた。
私とレオは山崎のクラスに行った。
山崎のクラスはストライクアウトをしているらしい。
けど、教室内に山崎の姿はなかった。
「あ、黒川さん」
「東村くん」
去年同じクラスだった東村くんがいた。
「山崎、どこいるか知らない?」
「先輩の女子から逃げてると思うぞ」
「分かった。ありがとう」
レオと一緒に校舎をまわりながら山崎を探すことにした。
* * *
なんか、流れで茜ちゃんと一緒にまわることになったけどなんで鈴原まで一緒にいるの?
「璃子ちゃん!クレープ食べよ!」
「うん」
クレープを買って鈴原のいるところに戻って茜ちゃんとシェアして食べた。
「美味しっ!鈴原も1口食べてみて!」
「………いただきます」
そう言って、鈴原は私が持っていたクレープを受け取らずに私の手を自分に近付けてクレープを1口食べた。
これは反則でしょ。
「美味。ありがとう、篠原」
「うん、」
鈴原は口の横についたクリームを舐めてニッと笑った。
ヤバい、可愛い。
食べ終わると鈴原が私と茜ちゃんのゴミを捨てに行ってくれた。
「璃子ちゃん」
「なに?」
「もしかして、兄貴のこと好き?」
「へ!いや、好きっていうか、ちょっと気になるっていうか」
てか、ホントに兄貴って呼んでる。可愛い。
「そっか。けど兄貴、千星センパイのこと好きだと思うよ」
「うん。知ってる。だから、言うつもりはないんだ。困らせたくないから」
「私は璃子ちゃんがお姉ちゃんになってくれたら嬉しいけど」
「茜ちゃん!?」
茜ちゃんはイタズラっぽく笑うと、あるアドバイスをして塾があるから帰るねと手を振って帰ってしまった。
鈴原は茜ちゃんとすれ違って少し話してこっちに戻ってきた。
「おかえり、恭、くん」
「ただいま。………え、」
「茜ちゃんも鈴原だから分かりやすいように名前で呼んでって言われて。帰っちゃったけど」
「いいよ。俺も璃子って呼ぶ」
「うん」
嬉しい。
恭くんが名前で呼んでる女子って全然いないし。
千星たちも今頃楽しんでるかな?
* * *
山崎は屋上にいた。
ミサンガを見て、空を見上げていた。
「何してんの?ロッソ」
「黒川に名前呼ばれるの、初めてだな」
「まあね」
隣に行くと山崎はミサンガを屋上の柵にくくりつけた。
「この紐が切れたら願いが叶うんだよな?」
「そうだよ」
「叶うといいな」
「何お願いしたの?」
「言わない」
逆に気になるな。
それからあっという間に文化祭1日目も2日目も終わり、後夜祭がやって来た。
私もレオもミサンガを交換することはなかった。
後夜祭は自由参加だから恭と璃子は帰ってしまった。
山崎はクラスメートに捕まってどこかに行った。
私とレオは教室からキャンプファイヤーを見下ろしていた。
「最後の文化祭なんだよね」
「そうですね」
「あっという間だったなぁ」
「楽しめましたか?」
「うん」
笑ってレオの顔を見上げた。
暗くて気付かなかったけど、いつの間にか銀髪の碧眼に戻っていた。
月明かりに照らされて銀髪がキラキラと光った。
そっとレオの髪に触れた。
「レオの髪って星みたい」
そう言った瞬間、レオの表情が固まった。
急に髪を触ったからかと思って謝ろうとしたけど、レオは私の手に触れて目には涙を浮かべていた。
「エリサ、なのか?」
「え、」
エリサって、山崎が初めて会ったときに言ってたような。
でも、なんで泣いてるの?
ハンカチを取り出そうとした瞬間、頭痛と一緒に記憶の欠片が頭に飛び込んできた。
~~~~~
その場面には薄い水色の髪の少女と銀髪の碧眼の少年がいて、お城かどこかのバルコニーから夜空を見上げていた。
『レオの髪って星みたい』
『星?』
『うん。月明かりに照らされてキラキラ輝いてると夜空の星みたいに見える。綺麗ね』
『ありがとう、エリサ』
エリサ、この少女の名前?
銀髪の少年はエリサという少女の方に視線を向けてまた空に視線を戻した。
記憶はここで途切れる
~~~~~
「いった~!」
「千星様!?どうしましたか?」
「いや、なんか頭痛が。今、変な記憶?みたいなのが流れてきたんだけどレオの魔法?」
「いえ、千星様の前世の記憶だと思います」
前世の記憶?
じゃあ、あのレオった呼ばれてた銀髪の少年は今目の前にいるレオ?
ちょっと信じられないけど、魔法を使っているレオが前世って言うなら前世なのかもしれない。
私、前世でレオと知り合いなの?
「ごめん、レオ。今日はもう帰りたい」
「分かりました。ロッソ様をお呼びしてきます」
レオは教室から出ていった。
なんでレオ、さっき泣いてたんだろう。