初恋、初失恋
体育祭が終わると今度は文化祭の準備が始まった。
うちのクラスは文化祭でお化け屋敷をするらしく皆で仮装はどうしようかと話している。
昼休みになると、山崎がうちのクラスに迎えに来る。
そして私とレオと山崎の3人で屋上でお弁当を食べるようになった。
「黒川のクラスは何するんだ?」
「前も言ったんだけど」
「私たちのクラスはお化け屋敷というものをするそうです」
「なんだ?それ」
だから、前も説明したってば!
レオがもう一度丁寧に説明している。
どうやら山崎は物覚えがよくないらしく興味のないことはすぐに忘れる。
レオ曰く優秀らしいがそれは主に対してだけで他は基本的にボーッとして何も考えていないように見える。
ちなみに、山崎の中で主はレオだろう。
お弁当を食べ終えて教室に戻った。
なんだかクラスの子達の視線を感じるような気がする。
なんだろ?
気が付かないふりをして残りの授業を過ごして、放課後に文化祭の準備をすることになった。
準備中、クラスの女の子に呼び出されて用具室に行った。
「黒川さんってレオくんと付き合ってんじゃないの?」
「付き合ってないよ」
「じゃあなんで一緒にいるの?」
私が異世界に行くまでレオが私を守るからなんて言っても信じないでしょ。
「たまたまだよ」
「あっそ。まあ、どうせ黒川さんとレオくんじゃ釣り合わないけど」
その子はフンッと鼻を鳴らすと、用具室から出ていった。
レオ、本格的にモテ始めたな。
まあ、あれだけのイケメンが放っておかれる方が驚くけど。
山崎もイケメンの部類らしいけど、モテてんのかな?
違うクラスのことってあんまり分かってないんだよね。
教室に戻ると、みんな忙しそうに衣装を作ったり段ボールを切ったりしていた。
私も加わって段ボールでお化け屋敷の背景を作ることにした。
「千星さん、お手伝いします」
「あ、レオ。ありがとう。じゃあ、」
私が段ボールを渡そうとすると、さっきの女の子がこっちにやって来てレオの肩を叩いた。
「レオくん。これ運ぶの手伝ってほしいんだけどいい?」
「はい。けど、千星さんのお手伝いが終わってからでもいいですか?」
「急ぎなの」
「レオ、上坂さんの手伝いしてあげて」
「………はい。では、一緒に荷物をお運びします」
「ありがとう」
レオと上坂さんは段ボール箱を持って教室から出ていった。
段ボールを切る作業に戻ろうと座ると、さっきまでいなかった璃子が目の前に座っていた。
「いいの?レオくん行っちゃったけど」
「璃子が思ってるような関係じゃないよ。私とレオ」
「え~。ホント?」
「ホントホント」
段ボールを切り終えて、パーツを置くスペースに運んだ。
頼まれた分は終わったし、切る作業はもうないみたいだからちょっと休憩しようかな。
「璃子、屋上行かない?」
「行こ行こ。もう、リア充ばっかで嫌になるもん」
「あはは」
璃子はモテるけど初恋を引きずっているといつも言っている。
初恋がまだな私からしたら、なんで全然会ってない人のことを考えるんだろうって思うときもあるけど、初恋の人の話をしているときの璃子はいつも寂しそうな顔をしていて見ているこっちが痛くなるからそんな考えはどこかに消える。
どうして皆、辛い結果が待ってるかもしれないのに恋をしようとするんだろう。
「好きです!付き合ってください!」
屋上のドアを開けた瞬間その言葉が飛び込んできた。
告白されていたのは、中学からの友達である鈴原恭だった。
「気持ちは嬉しいけど、川中さんとは付き合えません」
「そう、だよね」
女子生徒は走って私と璃子の間をすり抜けて階段を駆け降りて行ってしまった。
覗き見をしたような気がして申し訳なくなっていると、恭がこっちにやって来た。
「黒川」
「なに?」
「今度、妹の誕生日あるからプレゼント選ぶの手伝ってくれないか?」
「そっか。そういえば茜ちゃん、もうすぐ誕生日だね。いいよ」
「マジで?」
「けど、璃子とレオも一緒でいい?」
「ああ」
「璃子もいい?」
「いいよ~」
恭の妹の茜ちゃんは私たちの2個下の中学3年生で、私とは同じ家庭部で何度か家で一緒にお菓子を作ったことがある。
中学のときに今みたいに恭に頼まれて茜ちゃんの誕生日プレゼントを一緒に選びに行ったことがあったけど、それを見た同級生にからかわれたから今年はそうならないようにしたい。
それに、恭は人気があるから変に目をつけられたくはない。
「今週の土曜でもいいか?」
「いいよ」
「私も。レオにも確認しておくね」
「よろしく」
確認もなにも私がちょっとコンビニに行くだけでもついてくる。
山崎はレオがどうしても手を離せないとき以外は基本的に自由に過ごしている。
だから、今回は山崎が来る必要はないだろう。
土曜日。
早めのお昼ご飯を食べてから駅に集合してその駅のすぐ側にあるショッピングセンターで茜ちゃんのプレゼントを探すことになった。
「璃子、私飲み物買ってきていい?」
「うん」
「僕も一緒にいきます」
「あ、うん。恭と璃子はここで待ってて」
レオって一緒に行ってもいいですか?じゃなくて一緒に行きますって感じでこっちが断る隙を与えてくれないことが多い。
きっと、私以外ですごく面倒な人の執事?もしたことがあるんだろうな。
* * *
「鈴原、いいの?」
「な、なにが?」
「レオくんと千星。いい感じじゃん」
「………黒川、最近明るくなったよな」
「あ、話逸らした」
千星とレオくんを待つためベンチに座っていた鈴原は少し気まずそうに笑った。
「そういう意味じゃねえんだよ」
どういうこと?と訊かずとも鈴原は話してくれた。
「黒川の家族のこと知ってるか?」
「ううん」
千星は家族のことについては何も話さないから訊かない方がいいと思って触れないようにしていた。
けれど、今の口ぶりだと鈴原は知っているのだろう。
少し、羨ましいと思ってしまう。
私は千星がこれまでで一番の友達だと思えるくらいだけど、必ずしも相手もそう思っているとは限らない。
それをつきつけられた気分だ。
「色々あって、黒川って中学のときは今みたいに笑ったりすることがほとんどなかったんだよ。けど、高校に入って笑うようになって、岩崎と仲良くなってからは毎日が楽しそう。それを邪魔なんてできない」
「鈴原っていいやつだね」
私は欲張りだから、レオくんに千星を取られているみたいで少し悔しい。
千星もだけど、いい人と一緒にいると時々自分が真っ黒で醜い人間だって思うことがある。
その度に自分のことが嫌いになる。
あの人達は自分より他人を優先するくらい優しいのにって思ってしまうのに、嫌いになれないから自分ばかり嫌いになる。
私が小学生のときに好きだった人も、
「璃子?」
「………瑛斗くん」
「璃子だよな!?久しぶり!」
「久しぶり」
「えっと、」
鈴原は私と瑛斗を交互に見て何度も瞬きをしていた。
「初めまして。小学生の頃まで璃子の家の近所に住んでた西崎瑛斗です。ちなみに璃子の1個上だよ」
「俺は篠原と同じ高校の鈴原恭です」
2人はよろしくと笑っていた。
瑛斗くん、全然変わんないな。
相変わらず笑った顔が無邪気で私が大好きな瑛斗くんのままだった。
「璃子たちは何買いに来たの?」
「俺の妹の誕生日プレゼントを選ぶのを手伝ってもらってるんです」
「偶然だね。俺も彼女の誕プレ選びに来たとこ」
「瑛斗くん、彼女いるの?」
「付き合って半年のめちゃくちゃ可愛い彼女いるよ」
「そうなんだ」
「じゃあ、そろそろ帰るから。またね、璃子」
「またね」
瑛斗くんに手を振って前よりもずっと大きくなった背中を見送っていると自然と涙が溢れてきた。
瑛斗くんはもう高校3年生。優しくてカッコいいんだから彼女くらいいて当然。
分かってるのに、失恋してることなんてとっくの前に分かってた筈なのに。
「璃子!恭!待たせてごめん!自販機が全然なくて探し回ってたの」
千星に泣いてるところ見られるのは嫌だ。
だけど、千星は気付かずにこっちにやって来る。
どうしよう。嫌だ。来ないで。
心の声が聞こえたのか、鈴原が私の手を引いてその場から立ち去った。
~~~~~
ベンチに座って息を整えていると、また、涙が溢れてきた。
ここには、千星もレオくんもいないけど、他のお客さんがいる。
キュッと唇を噛んで泣くのを我慢していると、鈴原が羽織っていたシャツを私の顔に掛けた。
「見えてないから、我慢せず泣けよ」
その言葉に反応するように涙はさらに溢れてくる。
やっぱ、鈴原はいいやつだ。
しばらく経って、千星から連絡が着た。
鈴原から先に帰ってと連絡がいっていたらしく約束していたプリクラはまた今度撮ろうねということだった。
返信して、スマホを閉じると鈴原に手を引かれて立ち上がらされた。
「今から誕プレ選び手伝って」
「え、」
「そのために来てくれたんだろ?」
「まあ、そうだけどさ」
結局、プレゼント選びを手伝ってから家に帰った。
ちなみに、茜ちゃんのプレゼントにと選んだのは文房具セットだ。
使いやすく、少し可愛いデザインの入っている私愛用のシリーズに新しい商品が出ていたからそれにしていた。
「今日はありがとう」
「こちらこそ。ありがとう、鈴原」
「………ああ」
「シャツは洗って返すから。じゃ、また学校で」
「バイバイ」
「バイバイ」
笑顔を作って鈴原に手を振ってホームに向かった。
電車が来るのを待っていると、スマホの通知音が鳴って切るのを忘れていたことを思い出した。
画面をつけると、鈴原からラインが着ていた。
『無理して笑わなくてもいいから』
やっぱ、いいやつだな。
鈴原には失恋なんてしてほしくないけど、千星が好きなのは鈴原じゃないんだよね。
いいやつにはなるべく傷ついてほしくないんだけどな。
ため息をついてスマホの画面を消した。
~~~~~
月曜日の昼休み、2年3組にやって来た。
鈴原を探していると2人組の男子生徒がこっちに来た。
「篠原さんじゃん。どうした?」
「鈴原、いるかな?」
「恭!」
男子生徒が鈴原の名前を呼ぶとベランダにいたらしい鈴原がやって来た。
冷やかされても全く動じていない鈴原に洗濯してアイロンをかけたシャツとお礼のお菓子を入れた紙袋を押し付けた。
「これ渡しに来ただけだから。次、体育だからもう行くね」
早足でその場を去ると少し離れたところから「ありがとう!体育頑張れ」という鈴原の声が聞こえてきた。
親指を立てて走って教室に戻った。
「璃子、そんなに急いで来なくてもまだ時間あったのに」
「早めに行かないと体育教師怒るじゃん」
「確かに」
走ったせいで胸がドキドキして痛い。
体育の前だってのにこんなので息切れとか、体力落ちたな。
どうせ暇だし休みの日ぐらいランニングでもしようかな。




