体育祭
レオと一緒に住み始めて約1ヶ月が経った。
誕生日の翌日に私がレオの国の大臣?の部下に狙われていることが分かった。
そのせいで、お風呂に入ってるときもドアの前で待たれるくらいレオとずっと一緒にいる。
それがなんか嫌じゃないというか、誰かが側にいることに喜んじゃうからムカつく。
そして、とうとう体育祭がやって来た。
風凪高校の体育祭はクラス対抗ではなく性別学年関係なく混ぜられた色組に分かれる。
色組は青、赤、黄、緑、紫の5組ある
私は青組だった。璃子とレオ、そして恭も同じ組だ。
「おはよう~!千星!レオくん!」
「おはよう、璃子」
「おはようございます、篠原さん」
「今日は勝とうね!」
「うん!」
教室に荷物を置いて、ハチマキを巻いた。
ホームルームを終えてグラウンドに行くと、それぞれの組に分かれて並んで開会式とラジオ体操をした。
次は障害物競走だ。
私は参加するので退場してすぐに入場門に移動した。
並んでグラウンドに入場して自分の番がくるのを待った。
「第3走者の人は並んでください」
言われた通り並んでスタートピストルの音に合わせて走り出した。
順位は5位だった。
けど、言い訳をさせてほしい。
運動は苦手じゃないけど、バッドを持って20回も回ったら速く走れるわけがない。
一緒に走ってた人たちが凄かっただけで。
そんな感じで競技が次々進んでいってお昼休憩になった。
レオと一緒にお弁当を食べてチアの衣装に着替えるために急いで空き教室に向かった。
「千星!せっかくのチアなんだしお団子にしない?」
「いいよ」
お団子にして璃子と他の色組のチアをしているクラスメートと一緒に写真を撮ってグラウンドに向かった。
靴を履き替えているときにレオと学ラン姿の恭に会った。
「あ、黒川………」
恭が何かを言おうとして口ごもっているとレオが微笑んで私の顔を見た。
「千星さん、髪型を変えたんですね。似合ってます」
「そうかな。ありがと」
「今から少しお時間いただけますか?」
「え、まあ、少しならいいけど」
「ありがとうございます」
レオは私の手を引いて体育館の倉庫の近くまで連れてきて周りを確認してからはぁ~、と息を吐いて私の顔を見た。
そして、すみませんと言って私の首にキスをした。
驚いてレオの顔を見るとキスをしたところに指を当てて目を閉じていた。
「なにか、あった?」
「大したことでは。変な術がかけられていたので解いただけです」
「変な術って?」
「この世界には知らぬが仏という言葉があるそうですね。これもそうです」
いつもなら言ってくれないとめちゃくちゃ気になって答えてくれるまで質問責めするところだけど、首にキスをされたことへの動揺でそんなことを訊く余裕がない。
そっか~と流しながら青組のテントに向かった。
「千星!早く入場門行かなきゃ!って、顔赤いけど大丈夫?熱中症?」
「ううん。大丈夫。」
「無理しちゃダメだよ」
「うん」
入場門に向かって同じチアのメンバーで集まってグラウンドに入って流行りの曲に合わせてポンポンを持ちながらダンスをした。
簡単なダンスだけど、振り付けが可愛すぎてちょっと恥ずかしい。
なんとかダンスを終えて退場すると入れ替わるように男子の応援合戦が始まった。
「鈴原センパ~イ!」
「こっち見てください!」
近くにいた同じ青組のチアの女子生徒が恭の方を見て手を振っていた。
璃子はニヤッと笑って私の肩をつついた。
「鈴原モテるね~」
「だね」
「やっぱり千星は鈴原よりもレオくんか~」
「なにが?」
「なんでも。着替えに行こ」
「………うん」
着替えて戻って来ると午後の競技が始まった。
次は借り人競走らしい。
選手が一斉にスタートしてお題の紙を見て、校長先生や同級生などを連れて走っている。
レオも女子生徒に取り合われながら連れていかれた。
第5走者が走り出した。
その中にいた1人の男子生徒がこっちに向かってすごいスピードで走ってきた。
「黒川千星」
なぜか私の名前を呼んだその生徒は私を抱き上げてすごい速さでゴールとは違う方向の校舎に向かって走って行った。
誰も驚いた顔とかしてない。
他の人には見えてないの?幽霊ってこと?
頭の中がグルグルしているといつの間にか音楽室に来ていた。
「黒川千星、いや、エリサ嬢。また会えて嬉しく思う」
「………は?エリサ嬢?誰?」
困惑しながらその男子生徒の方を見ると、男子生徒は顎に手を当てて何かをブツブツ言い始めた。
「そうか。記憶はないのか。魔力やオーラはエリサ嬢そのものだが意識は残ってないんだな。これは計画を変更する方が………」
「なるほど」
こいつも中二病か。
流行ってんの?
いや、違う。レオはぽいけど中二病ではなかったし。
あ、もしかしてこいつ。
「大臣の部下?」
そう訊くと男子生徒はなぜ分かった?とでも言いたげな顔をしていた。
ホントに大臣の部下なんていたんだ。
てか、何の大臣なんだろう。
「バレたなら仕方がない」
男子生徒はため息をついて小さく何かを唱えると赤髪の青年の姿に変わった。
髪色で人の印象ってすごい変わるよな~、なんて呑気に考えられるようになったのはつい最近だ。
レオが変身する度に内心驚いていた。
さすがにもう慣れたけど。
「黒川千星。お前の中に眠っている星の魔力をぶっ潰す」
「私、今から殺されるんですか?」
「殺さねえよ」
「痛くないですか?」
「あ、ああ」
「なら、どうぞ」
両手を広げて男子生徒の方を見ると驚いたように何度も瞬きをしていた。
コホンッと咳払いをすると男子生徒は私に近付いた。
その瞬間、音楽室のドアが開いてレオが入ってきた。
「千星様!すぐに駆けつけられなくてすみません!お怪我はありませんか?」
「ないけど」
レオはホッとため息を着くと男子生徒の方を見た。
その瞬間、男子生徒は胸に手を当てて膝まづいた。
あれ?もしかしてレオってなんかお偉いさんなの?
「ロッソ様、お久しぶりですね」
「お久しぶりです、レオ様」
「ロッソ様、今すぐ大臣との連絡を経ち、私と共に千星様をお守りください」
「レオ様がおっしゃるのなら」
「では、よろしくお願いしますね」
「はい。任せてください」
いやいやいや、私の意見は訊かないの?
てか、ロッソ?って敬語使えるんだ。
敬語とか絶対に使えないタイプだと思った。
「えっと、ロッソはレオと知り合いなんだよね?」
「ああ。俺も王宮で働いてるからな」
私には敬語使わないんだ。
まあ、いいんだけど。
「黒川千星」
「はい」
「山崎透って名前使ってるから好きに呼べ」
「じゃあ、山崎でいい?」
「ああ」
ロッソ改め山崎は髪色を焦げ茶色に戻して音楽室のドアを開けた。
それからレオと山崎と一緒にグラウンドに戻るとリレーが既に始まっていた。
青組のアンカーは恭で、今はアンカーの前の第3走者で順位は5チーム中5位だ。
そして、恭にバトンが伝わった。
恭は次々他のチームのアンカーを抜かして行って2位の選手に並んだ。
「頑張れ!恭!」
周りの歓声に紛れるぐらいの声の大きさだったけど、恭はピースサインを向けて2位だった選手を抜かしてゴールテープを切った。
閉会式を終えると恭は後輩の女子に囲まれていた。
レオもレオで女子生徒に囲まれていた。
私と璃子がブルーシートの片付けを手伝っていると山崎がこっちにやって来た。
てか、同い年なんだ。
体操服のラインが青だし。
「千星、知り合い?」
「まあ、知り合ったばっかだけど」
「そうなんだ」
「2年3組の山崎透だ」
「私は千星のクラスメートの篠原璃子だよ。よろしくね」
「よろしく」
山崎が璃子と話しているのを見てるとなんか普通の高校生に見えるな。
片付けを終えてそれぞれ下校することになった。
私とレオもリュックを背負って帰ろうと校門に行くと山崎が待っていた。
そっか。そういえば私の護衛してくれることになったんだっけ?
「山崎って帰る方向どっち?」
「いつもテントを張ってるから日によって変わる」
「………家来たら?部屋余ってるし、親帰ってこないから」
「レオ様がいいなら」
普通は私が許可出すとこなんだけど。
「もちろんです。千星様も人が多い方が寂しくないでしょうし」
なんでバレてんの?
まあ、いいんだけどさ。
家まで山崎とレオと帰って空いている部屋(お母さんが衣装部屋にしていた部屋)に山崎を案内した。
ちなみに、お母さんの服はほぼ新品のものばかりで売ったらめちゃくちゃお小遣いが増えた。
けど、一着だけ手放せなかった服だけ私の部屋のクローゼットに、入っている。
その服は小さい頃にお母さんとお揃いで来た服で捨てようとしても捨てられなかった。
私はなんだかんだまだお母さんのことが好きらしい。
「ここ使って」
「助かる」
「うん。けど、ベッドとか布団とかは客間から持ってこないと」
「いや、大丈夫だ。作るから」
え、作る?
日曜大工でもするの?今日は金曜日だけど。
そんなことを考えていると、レオが私の手を引いて部屋から連れ出した。
そして数分後、山崎が部屋から出てきた。
部屋を覗くと壁紙が変わっていてベッドとかソファとかテーブルとかもできていた。
「すご。あ、もしかしてレオも?」
「はい」
「そういえばレオの部屋入ったことない。見たいな」
「千星様が見て面白いものではないと思いますよ」
「いいよ。見たい」
「分かりました」
レオは部屋に行ってドアを開けてくれた。
部屋の中は1人掛けのソファとテーブルと本棚、それとベッドが並んだいたってシンプルなレイアウトだったけどなんだかレオらしい部屋だった。
「では、私は晩ごはんをご用意しますね」
「うん」
自分の部屋に戻って明日提出の宿題を終わらせて、お母さんの服を売って儲けたお小遣いで大量に買った漫画を読んでいると部屋のドアを叩く音がした。
漫画を閉じてドアを開けるとレオではなく山崎が立っていた。
「レオ様が呼んでるぞ」
「あ、ありがとう」
リビングに行くといつもと違ってワインとグラスが並んでいた。
家にお母さんの旅行先から時々届いていた赤ワインをレオが料理に使ってはいたけど飲んでるのは見たことない。
てか、飲んでいいの?
凝視していると、ワイングラスの置いてある席に山崎が座った。
「は?ちょっと待って!あんた何歳なの?」
「なんだよ、急に」
「だって、お酒は二十歳以上だし。いや、そっちの世界では関係ないのかもだけど」
「確かに俺の世界では16歳以上からだが俺は20歳だぞ」
嘘だ~。
どっからどう見ても高校生じゃん。
てか、山崎よりもレオの方が絶対年上だからレオも二十歳越えてるってこと?
「レオは何歳なの?」
「21歳です」
「私より4歳も年上なの?」
「はい」
通りで大人っぽいわけだ。
なんか納得したかも。
夕ごはんを食べながらやっぱり山崎にワインは似合わないなと思いながらじーっと見てると少し気まずそうに顔を背けてグラスに入っていたワインを飲み干した。
それにしても私、レオのこと何にも知らないんだな。
年齢は知ったけど、誕生日はいつか知らないし。
今度訊いてみよう。