祝福
パレード当日。
黄色のドレスを着て、手袋まで黄色でふんわりと髪を巻いて花の髪飾りをつけた。
騎士たちがフロートの前を行進していって、私とレオの乗っているフロートが続いて、後ろのフロートにはお兄様が乗っている。
レオは、とどめを刺してドラゴンを倒したのはお兄様だからと別のフロートに乗ることを提案していた。
観衆に手を振りながらレオの顔を覗き見ると、バッチリと視線が合った。
少し恥ずかしくて視線を逸らすと、レオが私の腰に手を回して抱き寄せるようにした。
すると、観衆からは悲鳴のような声援が聞こえてきた。
「………近いよ」
「ごめん、」
「どうしたの?実は怪我が治ってなかったの?」
「そういうわけじゃないけど、少しだけこのままでもいいかな?」
「うん、」
レオの手に自分の手を重ねて微笑んだ。
パレードが終わると、パーティー用のドレスに着替えて王宮で開かれる疲れた騎士たちを労うための慰労パーティーに参加した。
いつものパーティーとは違って、立食パーティーのようなダンスよりも食べること重視のパーティーだ。
レオもお兄様も騎士やその家族である女性たちに囲まれている。
まあ、ドラゴン退治に大きく貢献したって聞いたら話を聞いてみたくなるとは思うけど。
ムッとしながらも、扇子でなるべく口元を隠して目を細めて笑顔を浮かべていると、お義姉様がこちらに歩いてきた。
「旦那様方は私達のことが見えていないのかしらね」
レオは本当に私のことが見えていないと思う。
もしかしたら、レオの想い人がいるかもしれないとすぐにモヤモヤしてしまう。
やっぱり、早く気持ちを伝えて婚約を解消してレオの元を去らないと。
そんなことを考えていると、お兄様とレオがこちらにやって来た。
「シャルレット、待たせたな」
「もっと待たせてもよろしかったのですよ。私にはエリサ様がいますから」
「拗ねないでくれよ」
「拗ねてなどいません」
「俺がシャルレット以外の女性に興味を持つことはないよ」
お兄様は少し照れたように頬が赤く染まっていた。
お義姉様はふふっと笑ってお兄様の腕を組んだ。
「ありがとうございます、ヒルディード様」
お兄様とお義姉様は微笑んで歩いて行った。
いいな。お互い想い合っているって、幸せなことなんだろうな。
レオも、想い人と相思相愛になれたら幸せになれるんだろう。
私は、それを心の底から祝福できるかな?
………できない。
どうして私じゃないんだろうって、レオの想い人が羨ましいって、そんな自分勝手な気持ちで埋め尽くされるだろう。
「エリサ、何か食べた?」
「はい」
「じゃあ、デザートでも食べようか」
「そうですね」
レオ、あなたの想い人は誰なの?
ものすごく鈍感で、レオが好意を伝えようとしても気付かないような人のどこがいいの?
デザートには私が料理長にレシピを教えたシュークリームも置いてあった。
さすが王宮料理長。
私が教えたレシピに工夫を加えていて、家庭的なスイーツから一気に高級スイーツに生まれ変わっている。
デザートも食べて、ついに暇になってしまった。
バルコニーに出ようかとも思ったけれど、昨日降った雪がまだ溶け残っているせいでいかにも寒そうだ。
窓から空を見上げると、そこには満天の星空があった。
レオが私の隣に並んで私の方を見下ろした。
「エリサ、何を見ているんだ?」
「綺麗な星空だと思いまして」
「そうだな」
レオは微笑んで星空を見上げた。
そして、私の手を握った。
「エリサ、本当に、助けてくれてありがとう。分かっていたけれど、エリサの癒しの力は本当にすごいのだな。私は結構な大怪我をしていたと聞いていたけれど、そんな怪我をたった1人で、しかも1時間も経たずに治してしまうなんて。ヒルディードから聞いたときは本当に驚いたよ」
レオは私の顔を見て微笑んだ。
やっぱりこの笑顔、大好き。
だけど、私に向けられている表情は幼馴染みに対する表情なのだと自分に言い聞かせた。
レオは、私が口づけをしたなんて知ったら、きっと困惑して嫌な思いをしてしまうかもしれない。
だけど、話さないといけないと思う。
「レオンハルト様、慰労パーティーの後、お話したいことがございます」
「………」
「お疲れなのであれば寝る支度を終えてからでも構いません。お時間をいただけますか?」
「………分かった」
慰労パーティーが終わるまで、すごく時間が長く感じた。
緊張しているのか、なんだか落ち着かない。
部屋に戻ってすぐにメイクもヘアセットも落としてお風呂に入った。
寝る支度を全て終えて、侍女とカイルにはもう下がってもらった。
レオもそろそろ支度は終わったかな?
レオの部屋のドアを叩くと、レオが部屋のドアを開けた。
部屋に入れてもらって座るように促されたけど、私は立ったまま話すと答えた。
「早速本題に入るけれど、私がレオを助けた力は生涯でたった1人にしか使えない特別な力なの」
「そう、なのか?」
「うん」
「エリサは、そんな力を私に使ってしまって良かったの?」
「レオにしか使えないから」
私は微笑んでレオの顔を見上げた。
「癒しの力の中には、どんな大きな傷や病も治せる力があるの。だけど、それは生涯でたった1人、誰よりも愛している相手にしか使えない縛りがあるの」
「え、」
「力を使うためには、口から直接魔力を送らないといけないの」
「は、」
「だから、治癒のためだと言っても許可なくレオに口づけをした。ごめんね」
私がレオの顔を見上げると、レオは自分の唇に触れて私の方を見ていた。
私は、最後だからと思ってレオの胸にコツンと額を当てた。
「レオンハルト様、私はあなたが好き。大好き。幼馴染みとしてじゃない。1人の殿方として、レオのことを愛しているの」
そう告げて、私は目から溢れ出す涙を指で拭いながらレオの胸から額を離した。
「私はもう、レオの想いを応援できない。誰かも分からない、あなたの想い人に嫉妬しているの。いつか、レオと想い人が親しい関係になったときに、邪魔をしてしまうかもしれない。だからね、」
涙を呑んで、私は令嬢らしい笑顔を浮かべてレオの方を見た。
「婚約は解消しよう」
レオは驚いているのか、何も言わずにその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
私はすぐにレオの部屋を出て、ブラックの瞬間移動の魔術で実家に帰った。
お兄様を通じて、帰ることは伝えてあったためベッドメイキングはされていた。
私はベッドに潜り込んで声を殺して泣いた。
何か、言ってくれたら良かったのに。
有り得ないって、顔をされるとさすがに傷つくよ。
翌朝、腫れた目は私の力で治ったけれど、気持ちは重く沈んだままだ。
ビアンカとフィオレが私を起こしに来てくれた。
だけど、なんだか様子がおかしい。
サーヤまでやって来て私のメイクやらヘアセットやらをしてドレスに着替えさせられた。
何事かと思っていると、小広間に連れて行かれてビアンカが扉を開けると部屋にはレオと従者が立っていた。
走り去ろうとしたけれど、サーヤに腕を掴まれた。
そして、そのまま部屋に放り込まれてレオの従者も出ていって部屋には2人きりになった。
視線をレオから逸らすと、レオはゆっくりと私の前にやって来た。
「エリサ」
「はい、」
「昨日、私に愛していると言ったか?」
「………そう、告げましたが」
「夢ではないのだな?」
「夢だと思いたいのなら、そう思われても結構です」
私が棘のある言い方をしたにも関わらず、レオは私のことを抱きしめた。
驚いて目を見開くと、レオは私からそっと離れて頬を指で撫でるようにして私の顔を見下ろした。
「婚約は、もう、絶対に解消しないよ」
「どうして?私はもう、レオのことを応援できないのに」
「応援なんてしなくていいよ」
「でも、私と婚約したのは想い人と親しくなるまでの期間、他の令嬢たちから婚約を申し込まれないように」
「私はそんなこと一言も言っていないよ。エリサが勝手に1人で思い込んで納得したんだよ」
………そういえば、レオは何かを言いかけていた気がする。
もしかして、1人で暴走してただけ?
急に申し訳なくなってきてレオに謝ろうとすると、レオは私の額に自分の額を重ねた。
「だけど、勘違いしてくれたお陰でエリサと婚約できてエリサは私に好意を抱いてくれたんだよね?」
「近いよ。こ、こういうのは、想い人にしなよ」
「本当に鈍感すぎるよ。まあ、そういうところも好きなんだけど」
レオは額を離して私の目を見つめた。
そして、微笑んで私の手を握った。
「私の想い人はずっと君だよ」
「へ、」
「エリサ、誰よりも君のことを愛しているよ」
「幼馴染みだから?」
「本当にエリサには伝わらないな」
レオは苦笑して私を抱き寄せた。
そのせいか、レオの心臓の鼓動が聞こえてくる。
すごく速い。
驚いてレオの顔を見上げると、頬が少し赤く染まっていた。
「エリサを1人の女性として愛しているんだよ。だからエリサ、婚約はこのまま続けてくれる?本当に想い合っている婚約者として私の隣に並んでくれる?」
「いいの?このまま、ずっと、レオの隣にいても」
「願ったり叶ったりだよ」
レオは微笑んで私の頬を手で支えるようにした。
私を愛してくれていると分かって、嬉しくて涙が溢れてきた。
「エリサ、これからもずっと愛し続けるよ」
「私も、レオのことをずっと愛してる」
レオは嬉しそうに微笑むと、私に口づけをした。
大好き。この世界の誰よりも大好きだよ、レオ。
レオは微笑んで私を抱きしめた。
私も強く抱き返した。
ずっとこの日を待っていたのかもしれない。
そう思えた。




