ドラゴン討伐
目が覚めると、いつもの部屋にいた。
私は朝の身支度を終えて、朝食をとって急いでエルリック殿下の執務室に向かった。
「失礼します。エリサです」
そう、声を掛けるとロッソ様がドアが開けてくださった。
私は執務室に入ってロッソ様に璃子から貰ったヘアゴムを見せた。
「ロッソ様、これを持ってきてくださりありがとうございました。今日、璃子と夢の中で会えたのです。本当にありがとうございました」
「エリサ嬢の魔力が籠もっていたから、何か良いことが起こると思っていただけだ。本当に起こるなんて俺も予想していなかった」
私は微笑んでヘアゴムを見つめた。
そして、とても大事な本題に入った。
エルリック殿下とロッソ様と私の3人にしてもらって私はお二人の方を見た。
「私、レオンハルト様をお慕えしているようなのです」
お二人は驚いたように顔を見合わせていた。
「それで、相談とはなんだ?」
「レオンハルト様には想い人がいるのはお二人ともご存知ですよね?その方とレオンハルト様の仲を応援するために婚約したので、私は婚約を解消しなければならないのでしょうか?」
「待て。どうしてそうなる」
「私の気持ちがレオンハルト様の想いを妨げてしまうかもしれませんので」
そう答えると、お二人ともため息を吐いて頭を抱えた。
そして、ゆっくりと私の方を向くとはぁ〜とため息を吐いた。
さすが従兄弟。仲がよろしいようで。
「婚約を解消するなら、先にレオに気持ちを伝えてからにしろ。理由もわからず婚約解消だなんて、レオも母上も父上も許さない」
「そう、言われましても」
「ならば、婚約は解消できない」
「分かりました。レオンハルト様に、気持ちを、お伝えします」
そう言い残して、殿下の執務室を出た。
レオに気持ちを伝える。
どうやって伝えたらいいの?
レオに告白をすると宣言して3日目。
なかなかレオと話す機会が無くて、告白どころじゃない。
第二王子としての執務が私の思っていた以上に忙しいらしく、顔を合わせるのは朝食と夕食のときくらいだ。
昼間はレオは執務をしているし、色んなところに行っているから告白するならやっぱり朝か夜しかない。
レオの想いの邪魔をしてしまう前に、早く婚約を解消しておきたい。
どうせ、叶わない恋なら嫌われたくはない。
大切な幼馴染みのままで終わりたい。
どうしても暇で落ち着かなくて、騎士団の訓練の見学にやって来た。
なんと、そこにはミューラエル様とレオがいて何か話していた。
レオが困った顔でミューラエル様に話しかけていて、ミューラエル様は楽しそうに笑って聞いている。
本当に、お似合いだな。
違う違う。レオの想い人はミューラエル様じゃないんだ。
くるりと背を向けて、訓練場から去ろうと歩き出すと後ろから声を掛けられた。
「エリサ嬢、こんなところで何をしているんだ?」
「ロッソ様」
「レオ様をお呼びしようか?」
「い、いえ!お構いなく!」
「想いを告げる気はあるのか?」
「ありますよ!けど、タイミングとか色々、悪くて」
「なら、今告げれば良いだろう」
振られるのが分かっている相手に人目を気にせず告白しろと?
ロッソ様は結構鬼畜な方なのかしら。
う〜ん、と悩む素振りを見せていると、ロッソ様がレオを呼んだ。
呼ばなくていいって言ったのに!
「エリサ!どうしたの?」
「少し暇だったので、訓練の見学に来てみたのです」
「見学なら、もっと近くでしたらいいよ」
「え、」
レオに手を引かれて訓練場のすぐ側まで連れてこられた。
そして、レオは訓練着のコートを私の肩に掛けた。
「エリサ、寒くないか?」
「はい。ありがとうございます」
キュッとコートを握って笑った。
レオは少し目線を逸らした。
その目線の先にはミューラエル様とは別の女性騎士がいた。
やっぱり、早く気持ちを伝えて婚約を解消しよう。
私、器小さすぎるよね。
もう、こんなに苦しい気持ちになるのは嫌だ。
木剣を使った一対一の手合わせが始まった。
レオの相手は大きな体格をした男性だった。
レオも長身な方ではあるけれど、相手な方は長身なだけでなく筋肉も大きいため見た目だけでも強く見える。
レオが木剣を少し動かすと、相手が打ち込みに来る。
レオはそれをかわして木剣の柄で相手の腹を突いた。
相手は軽く飛んだけど、そのまま木剣を握り直してレオに打ち込みに行く。
レオは木剣かわして、相手の首に突きつけると、相手は両手をあげた。
すごい。
「お疲れ様です」
「ありがとう」
「レオンハルト様は剣術も得意なのですね。とても格好良くてつい見惚れてしまいました」
「ありがとう。エリサが見てくれていたお陰だよ」
レオは微笑んで木剣を鞘にしまった。
「あの、レオンハルト様。お話ししたいことがあります」
「………分かった」
レオはロッソ様に何かを言って木剣を置いてこっちにやって来た。
だけど、王子が護衛を付けないわけにはいかないため、ロッソ様も別の騎士に声を掛けてこっちにやって来た。
中庭のガゼホにやって来てレオの方を見た。
隣りにいるロッソ様は話せと視線を向けてくる。
「私、レオンハルト様に、嫌われたくないのです!」
「嫌いじゃないよ」
「あ、えっと、………やっぱり話は結構です!」
「エリサ嬢」
「分かっています。だけど、また機会を改めます。レオンハルト様、コートありがとうございました」
レオにコートを返して、急いで部屋に向かった。
本当に、ダメだ。
気持ちを伝えるのってこんなにも難しいんだ。
部屋に戻ってそれからあっという間に夕食の時間になって食堂に向かった。
気まずくて無言で食事を終えて挨拶をして部屋に戻ろうとすると、笑顔のエルリック殿下に止められた。
「エリサ、私の執務室に来なさい」
「はい、」
エルリック殿下について行って執務室に入った。
そして、この前同様エルリック殿下とロッソ様と私の3人になった。
だけど、この前とは違って空気が重い。
「エリサ、本当に想いを告げる気はあるのか?」
「あります。ですが、私の想いがレオンハルト様を困らせるというのは分かっていても、実際に本人から言われてしまうのが怖いのです」
「どうしてそう決めつける。エリサに好意を寄せられていることに嬉しく思うかもしれないだろう」
「殿下もロッソ様もご存知でしょう?レオンハルト様には想い人がいるのです」
そう言うと、お二人は黙り込んだ。
だけど、言い訳をしたところで気持ちを伝えられるわけじゃない。
頑張らないと。
執務室を後にして、部屋に向かうと騎士たちが隣を走り抜けていった。
そして、部屋に行くとレオも戦闘服に着替えて部屋から出てきた。
「これからどこか行くの?」
「ついさっき、イリス王国西方でドラゴンが出現したと連絡があったんだ。住民がまだ完全に避難できていないようで転移魔法で今からそこに向かうんだ」
「ドラゴンって。大丈夫なの?私も行こうか?」
「ドラゴンは魔獣じゃないから話せないのだろう?エリサは危ないからなるべく城から出ないように。それと、帰ってきたらシュークリームを食べたい」
「うん。作っておくね。だから、早く帰ってきてね」
「ああ」
レオは笑って私の額にキスをすると、走って行ってしまった。
ドラゴンの討伐。
王族の持つ、民を守る力がすごいのは分かってる。
だけど、心配だよ。
翌日、私の家系の女性たちは転移陣で運ばれてくる怪我人の治療に当たることになっているため転移陣のある部屋に向かった。
私にできるのは、治癒ではなくあくまでも治療。
ただ、私の叔母様だけは一族の中で唯一、誰に対してでも大怪我でない限りは治癒をすることができる。
なので、私達は基本的に叔母様の補佐に当たる。
叔母様も治癒を使うことで体力と魔力が削られるため、私達が交代で叔母様を治癒して体力と魔力を維持できるようにする。
気持ちを落ち着かせていると、早速怪我人が運ばれてきた。
軽い怪我のうちに転移陣で戻って来て治癒を受けて討伐に戻っていく。
そのうち、中程度の怪我をした騎士たちも増えてきた。
なるべく叔母様の負担が減るように、止血は先にしておく。
そのうち、自分の婚約者や夫、息子の心配をする声が上がってきた。
「心配なのは、皆同じです。私だって、夫と長男のことが心配でなりません。ですが、これは私達にしかできないのです。私達は直接討伐に参加はできないですがこうして愛する人たちの手伝いをすることができるのです。ですから、皆さん。今は治療に集中してください」
「「はい、」」
レオ、私も心配で不安で仕方がないから早く帰ってきてね。
それから、あっという間に時間が過ぎた。
ドラゴンは1日数時間、眠る時間があるため、今は騎士たちも交代で休憩を取っているらしい。
私達も交代で少しずつ眠った。
日が昇ってくる頃、転移陣を通じてレオがやって来た。
だけど、頭と胸から出血していて呼吸も浅くなっていた。
叔母様はすぐに私の方を見た。
「ここまでの大怪我は私には治せません。エリサ、あなたが助けるのよ。だけど、こんなに大勢の人がいる前では力は使えない。レオンハルト殿下を部屋まで運ぶわよ」
私が、レオの怪我を治すの?
私が治せるの?
レオの方に視線を向けるとさっきよりもさらに呼吸が浅くなっていた。
「ブラック!」
私が叫ぶとブラックが影から出てきて、レオと私と叔母様をレオの部屋に転移させた。
叔母様はレオの小さい傷を治して、私の背中を叩いた。
「力を使っている間、この部屋には誰も立ち入れない。私もよ。だけどね、愛する気持ちがあれば助けられる。エリサなら大丈夫。殿下はきっと助かります」
「はい」
叔母様とブラックが部屋から出ていって、2人に部屋の前で誰も入らないように見張ってもらうことになった。
私はベッドに横になるレオの顔を見下ろして目を閉じて深呼吸をした。
そして、レオの隣に座ってゆっくりと口づけをした。
私の中の魔力が流れて行くのが分かる。
レオの手を握って、そのまま口づけを続けた。
絶対に助けるから、レオ、もう少しだけ頑張って。
レオの手をさらに強く握った。
目に見える出血は完全に止まった。
だけど、レオの呼吸は浅いままだ。
お願い。レオ、目を開けて。
魔力をさらに多く流すと、私が握っていたレオの手の指が少し動いてゆっくり私の手を握り返した。
口づけをやめてレオの顔を見た。
目は開いていない。
だけど、呼吸は戻った。
目から涙がこぼれ落ちるのとほとんど同時に全身の力が抜けた。
〜〜〜〜〜
目を覚ますと、叔母様が私のベッドの隣に座っていた。
そして、よくやったわ。さすがエリサね、と笑いながら私の頭を撫でた。
「叔母様、レオンハルト様は?」
「あなたが助けたお陰で怪我は完治しているわよ。今は安静にしてもらってる」
「そっか。良かった」
「エリサ、魔力と体力をほとんど使ったせいで気を失ったみたいだけど体は大丈夫?ダルいところがあったりはしない?」
「大丈夫です」
「そう。良かった。さすが私の姪ね」
私は頷いてベッドから起き上がった。
そして、髪がボサボサだとかパジャマだとかそういうの全部気にする間もなくすぐにレオの部屋に行った。
ドアをノックして開けると、その音で起きたのかレオが目を覚ました。
レオは私を見ると、すぐにベッドから起き上がってこちらにやって来て私を抱きしめた。
「エリサ、良かった。目が覚めたら隣でエリサが倒れてるから心配だったよ」
「それはこっちの台詞だよ。レオ、本当に良かった」
「助けてくれてありがとう。君は私の命の恩人だよ」
レオの体は暖かくて、治癒をしたときの手の温度とは全然違っていて安心したせいで涙を我慢することができなかった。
本当に、死んじゃったらどうしようって怖かった。
良かった。
レオの胸に顔を埋めて声をあげて泣いた。
令嬢としては声をあげて泣くなんて恥ずかしい行為だけど、レオは何も言わずに私を力強く抱きしめてくれた。
それから、私もレオも着替えて騎士団長から話を訊くことになった。
「ドラゴンは無事に討伐することができました。レオンハルト殿下のお陰でヒルディード様のお怪我も軽いもので済ました」
「レオンハルト様はお兄様を庇って怪我を負ってくださったのですか?」
騎士団長の隣に立っていたお兄様の方を見るとコクリと頷いた。
「ああ。ドラゴンが俺の力に反応して襲いかかったところをレオンハルト殿下が庇ってくださったのだ。レオンハルト殿下、本当にありがとうございました。本来ならば吾々が守る立場であるというのに。なんとお礼を申せば」
「礼なんて必要ない。国民を守る力が働いていなくても、私は幼馴染みであるヒルディードを助けていた。友人を助けたいと思うのは当然だろう?それに、ヒルディードがとどめを刺してくれたと聞いた。ありがとう」
レオの言葉にお兄様は嬉しかったのか少し口元を緩めて慌ててすぐにキュッと口を結んだ。
話が終わると騎士団長と叔母様が部屋から出ていった。
そして、入れ替わるようにエルリック殿下とロッソ様がレオの部屋にいらっしゃった。
殿下は私とレオの顔を見て、ホッとしたような笑みを浮かべた。
そして、私の方を向いて跪いた。
「エルリック殿下!?」
「エリサ・ユーウォレンタ嬢。弟を助けてくれたことに感謝を申し上げる。本当にありがとう。本当に、ありがとう。何か欲しいものがあればなんでも言って欲しい」
「顔を上げてくださいませ。殿下がどれだけレオンハルト様を大切に思っているかは伝わりました。ですが、報酬が欲しくてレオンハルト様を助けたわけではございませんので感謝の気持ちだけ受け取っておきます」
エルリック殿下はそうか、と呟いて顔を上げるとそうだな、と笑って立ち上がった。
エルリック殿下は私が愛する人たった1人にしか使えない力をレオに使ったと分かっているからか嬉しそうに笑っていた。
本当に、弟思いな王子様だ。
「レオ、元気になって早々で悪いが明日のパレードには参加できるか?」
「はい。ですが、」
「もちろん、エリサも参加する」
「私もですか?どうして、」
「第二王子を救ったのだ。大々的に広めるに決まっているだろう?」
ここには昔からの仲の方と1年近く生活を共にしたロッソ様しかいないため嫌だ、と顔をしかめてみた。
だけど、エルリック殿下は完全にスルーで衣装はこうしようとか、演出はこうしたらどうだとか話し始めている。
「アル様、感謝していると言うなら私の意見を少しは聞いてくださっても良いのではないですか?」
「何もいらないのだろう?」
「お兄様!」
お兄様に視線で助けを求めた。
「アル、パレードのことだがエリサは黄色のドレスだ。絶対に可愛い」
お兄様はアル様とパレードの話を進めるつもりだ。
私はため息を吐いて、レオの隣に座った。
もう、いいや。




